プライスウォーターハウスクーパース総合研究所:『アジアの世紀における金融ビジネス~アジア経済の持続可能な成長に貢献する金融の役割』に関するシンポジウムを開催

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プライスウォーターハウスクーパース総合研究所(2009年10月設立)は、2010年1月28日銀行会館において、『アジアの世紀における金融ビジネス~アジア経済の持続可能な成長に貢献する金融の役割)』と題するシンポジウムを、国際金融情報センター共催、全国銀行協会、金融財政事情研究会協賛により開催しました。当日は、170名余の金融関係者が参加しました。

このシンポジウムは、今次金融経済危機後冷え込んだ世界経済の牽引役としてアジア経済に注目が集まる一方で、アジア諸国の成長段階、金融機関の監督規制のあり方やリスク管理手法も一様ではない中にあって、先進国としての経験、欧米と異なる商慣行の中で培ってきた金融システムとノウハウを持つ日本の金融機関は、今後アジア経済、ひいては世界経済の発展にどのように貢献できるだろうか、という問題について、わが国の銀行界等金融業界のリーダーの皆様方と問題意識を共有するとともに、グローバルへの情報発信を目的として開催されました。

前半の基調講演では、五味廣文氏(元金融庁長官、プライスウォーターハウスクーパース総合研究所理事長)が今次金融経済危機の教訓と展望について、渡辺博史氏(日本政策金融公庫副総裁、国際協力銀行経営責任者)がアジア経済の展望と金融の役割について概観しました。

 

「規制のみに頼るのではなく、市場参加者の自己規律が欠かせない」五味廣文理事長


五味廣文氏
プライスウォーターハウス
クーパース総合研究所理事長

今次金融経済危機の要因として、「規制の空白の存在」と「自己規律の欠如」が挙げられます。

サブプライムローン問題が世界的危機へと発展した原因の一つは、証券化プロセスに透明性が欠けていたため、リスクの所在や規模が把握不能になってしまったことにあります。CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)もリスク発生時の保証履行体制が十分整備されておらず、保険機能が十分に発揮されませんでした。さらに、一部の投資銀行がバーゼル規制の対象外である間隙をぬって、短期的な利益の最大化を狙ったハイレバレッジ経営へと走ったことも、問題を複雑化させました。

一方、規制当局側も、金融規制の空白を突いて規律なきビジネスが拡大している実態を把握しきれず、適切な対応を取れませんでした。

再発を防止するためには、銀行かノンバンクかを問わず、グローバルでかつ大規模である金融機関にはしかるべき規制強化が必要となるでしょう。

ただし、「大きなリスクを取るな」といわんばかりの昨今の規制強化論には、若干違和感を覚えます。規制には自由なイノベーションの発揮を阻害するという副作用が伴いますし、そもそも金融機関の役割はリスクテイクにあるとも言えます。

金融機関がリスクを取っても当局にリスクの実態とその管理状況を把握する能力、そしてその結果に基づく対処能力があれば、金融の安定性が損なわれることはありません。政府の都合を優先させて、市場の効率性を犠牲にするようなことがあってはなりません。

市場における自由と信認確保の同時達成のためには、規制のみでの対応では難しく、市場参加者の規律と自己責任―必要な時には利益を犠牲にする覚悟を持ってリスク管理にあたること―が大切です。さらに、ディスクロージャーの充実によって、市場の規律を通じて適切なリスクマネジメントが引き出される形の規制を整備すれば、再発防止効果はより高まるでしょう。

 

「アジア市場への資金量を縮小させないことが重要だ」渡辺博史CEO


渡辺博史氏
日本政策金融公庫副総裁
国際協力銀行経営責任者

今次金融危機の結果、2009年のGDP成長率は先進国では大幅なマイナスとなりました。その一方で、新興国にはそれをオフセットする力がありました。特に人口の多い中国、インド、ブラジル、インドネシアでは個人消費が堅調であり、世界経済を下支えしました。昨年後半から、先進国の景気も回復しつつあるが、失業率は途上国も含めてあまり改善していません。

今回の危機では、資金が市場に流れないという問題が生じました。これに対して、中央銀行は大量の資金供給を行い、極めて低い金利水準とした。それにより設備投資をはじめ需要は喚起されてきましたが、同時におカネの調達コストが低下し、ビジネスが労働集約型から資本集約型へと移行しつつあります。このため、生産能力の向上が必ずしも雇用創出に結びつかなくなっているわけです。雇用拡大を伴わない回復は、どの国でも大きな政治問題となるでしょう。

一方、アジアの金融セクターにおける金融危機の影響は軽微でした。これは、アジア危機等、過去の教訓を踏まえて、金融機関の慎重な経営姿勢が維持され、陶酔的な金融商品への投資も限定的だったからです。しかし、今次危機の影響で外貨の流入が減少し、それによってアジアの成長率は2~3%押し下げられたのも事実です。

その背後には、少なからぬ欧米の金融機関が公的資金の注入を受け、彼らのビヘイビアが国内市場優先となり、国際資本市場を後回しにせざるをえなかった事情があります。

多額の外貨準備や貯蓄を持つ日本と中国は、アジア諸国やその企業に対してスワップや資本市場を通じて資金供給することができます。こうした市場整備には、官民あげた取り組みが必要でしょう。

為替について今後アジアでは、安定維持と同時に、その変動を通じた経常収支調整機能の発揮という意味での「弾力化」も必要という二律背反的な取り組みが必要となるでしょう。

投資についても、新規のインフラ整備と既存インフラの維持・補修の双方が、また一国に止まるプロジェクトだけでなくアジア地域全体を視野に入れた案件投資も必要となるでしょう。保有資源や所得等の面で格差が激しい諸地域をうまく結び付けて、トータルとしてのアジア地域の発展が望めるようにしていくことが大切です。

 

アジア経済の発展を後押しする金融システムの実現を!


デビッド・エルドン氏
プライスウォーターハウス
クーパース シニア・アドバイザー

シンポジウム後半は、有吉章氏(国際通貨基金 アジア太平洋地域事務所長)、羅平氏(中国銀行業監督管理委員会 人材研修局長)、内田和人氏(三菱東京UFJ銀行、企画部経済調査室長)、大山剛氏(あらた監査法人 ディレクター)を迎え、デビッド・エルドン氏(プライスウォーターハウスクーパース シニア・アドバイザー)の司会で、アジアから見た今次危機の影響や、今後の金融に関するビジョンを巡りパネルディスカッションが行われました。

 

なぜ、アジアの金融機関は欧米ほど直接的な影響を受けなかったのか?


有吉章氏
国際通貨基金
アジア太平洋地域事務所長

有吉所長 10余年前のアジア危機等過去の危機から教訓を得たことによる面が大きいです。外貨準備金の積み上げ、リスク管理や監督体制の整備、自己資本の充実化を進めていて、危機に対しても十分に耐えうる体制ができていました。

ただ、これまでのV字回復は落込みが激しかった分の反動であり、決してアジア経済が磐石になったというわけではありません。資本流入、為替レートの問題、国内の資産価格の高騰、出口戦略による影響など、金融危機から派生する大きな波は今後も続くでしょう。

羅局長 金融面での影響が小さかったのは、銀行業務が高度化しておらず、証券化商品への関与が低かったことによる面もありますが、それ以上に適切な規制が整備され、その遵守に向けての指導が徹底していたことが大きいです。

一方、実体経済はかなりのダメージを受けました。外需の落ち込みによる輸出低迷で、GDP成長率は6.5%にまで落ち込んでしまいました。これは本当に重大な問題でした。というのも、GDP成長率1%で100万人の雇用が創出されますので、中国の新卒者500万人を吸収するには年5~6%成長を確保する必要があるからです。

最終的に昨年第四半期のGDP成長率は前年比8.7%で落ち着きましたが、これはひとえに4兆元の財政支援策によるものです。中国は成長市場として期待されているが、中国だけで世界経済を支えることには限界があります。


内田和人氏
三菱東京UFJ銀行
企画部経済調査室長

内田室長 今回の危機は、高レバレッジの資金調達行動、入り口段階の与信審査、信用リスクのコモディティ化における欧米とアジアの金融機関におけるスタンスの違いを端的に示すこととなりました。

日本で信用リスクのコモディティ化が広がらなかったのは、偶然の産物ではありません。不良債権問題を克服して辿り着いた金融システムの安定性、商業銀行業務をベースとしたリテールを中心とする資金調達、顧客のリレーションシップマネジメントを大切にする経営スタンス、等によるものです。日本の金融機関は、大きな構造変化に対するスピードは遅いかもしれませんが、安定性はきわめて高いといえます。

大山ディレクター 欧米の金融機関は、リスク管理のテクニックを過信し、計量化できないリスクを軽視してしまったのではないでしょうか。アジアの金融機関は、計量化だけに頼らず、総合的にリスクを判断していたので、行き過ぎた証券化やレバレッジのコントロールができていたと思います。しかし、決してアジアの金融機関が優れていたわけではないし、欧米の一部の監督当局の手法が稚拙だったことも否めません。

 

グローバルな金融監督制度改革をどう評価するか?

有吉所長 今回の危機で、内部リスク評価モデルに依存しすぎたやり方はうまく機能しないことが明らかになりました。今後は、システミックリスクの伝播を抑えられるかという部分にもっと焦点を当てるべきでしょう。また、局面ごとにバラバラに規制を追加するのではなく、全体として整合性を取ること、イノベーションを阻まないことが大切です。安定的だが銀行機能が阻害されない仕組みづくりが期待されるところです。

内田室長 マクロ的な規制では、金融監督機関の強化とマクロプルーデンス(注1)の拡充が必要です。現在、ダイナミック・プロビジョニング(注2)や、自己資本比率をさらに上積みする議論が出ていますが、通常の与信管理で適切な貸倒引当金を積んでおけば済むことのように思われます。資本サイドに偏った考え方をすべきではないでしょう。

また、流動性リスクの「管理」は徹底すべきですが、流動性「規制」は慎重に行う必要があります。国別、通貨別に流動性規制を導入し始めれば、金融の分断化、流動性の囲い込みに発展し、国際金融システムの流動性や活力が損なわれかねません。アジアのクロスボーダー・ビジネスにとってもマイナス要因となります。

国際的な整合性は大切だが、金融規制が先んじて、その他の実体経済のビジネスを制約してはなりません。税制、会計基準、企業文化などが違うので、各国の裁量部分を残すべきでしょう。


大山剛氏
あらた監査法人
ディレクター

大山ディレクター 金融機関のビジネスの複雑性と、それを監督する当局の能力との間にギャップが大きいと問題が生じます。アメリカは、監督能力を高めることよりも、複雑性やサイズを減らす方向へと進んでいますが、それを一律にグローバルレベルで実施しようというのは問題です。日本では、複雑性の度合いが欧米よりも低く、中央銀行による流動性管理は十分機能しています。そういう状況で、規制導入において世界のトレンドを追いかける必要があるとは限りません。

羅局長 グローバルな金融監督制度改革は、これまで整えてきた銀行セクターの監督体制を見直す良い機会となります。中国は、中国版のグラス・スティーガル法(銀行業と証券業は分離)によってファイアーウォールを強化していきます。

サブプライムローン問題の教訓として、現在住宅ローンの引受基準の強化を検討しています。対面面接を通じた所得証明など、買い手に厳しい条件を課す方向で考えています。ホームエクイティローン(注3)や、質の低い資産の証券化なども容認されません。

中国企業は今後、M&Aなど海外拡張に対して慎重になるかもしれません。銀行の有機的成長を考えていくことが大切です。

 

アジアおよび日本の金融機関が目指すべき姿は何か?


羅平氏
中国銀行業監督管理委員会
人材研修局長

羅局長 今次金融危機により、中国第7位の民生銀行は、出資していたカリフォルニアの銀行、UCBHの子会社が米監督当局によって閉鎖され、1兆3000億ドルの損失を計上しました。このように中国企業による海外でのM&Aは、その60%が失敗に終わっています。

今回の厳しいレッスンを経て、中国は海外拡張、特にノンバンク関連ビジネスを含む企業のM&Aに対して慎重になるでしょう。大切なのは、銀行自らが組織を成長させるように考えていくことでしょう。

有吉所長 アジアは総じて銀行主導の金融システムが取られていますが、今回の見直しにより、証券化商品や資本市場全般の発展に向けたモメンタムが失われたり、抑えられたりするようなことがあるとすれば不幸なことです。アジアでは今後、中期的に投資を増やし、成長力を上げていく必要があり、それを可能にするような金融システムが求められます。

内田室長 2010年は、アジアの地域経済協力や自由貿易が加速する年になると思います。中国、インドなどを中心に、モノ、ヒト、カネの交流が急速に発展するでしょう。

そうした中で、グラス・スティーガル法とは相反しますが、ローンの徹底管理と顧客リレーションマネジメントをベースとした、アジア版CIB(コーポレート・インベストメント・バンキング)(注4)モデルを確立することが、大きな発展につながっていくでしょう。

アジアの豊富な貯蓄を循環させていくためには、債券の発行流通市場の活性化も必須です。邦銀は、現地における円滑な債券発行などで貢献できる余地が大きいです。機関投資家が集まる香港や東京などの拠点で、クロスボーダーで資金調達するスキームを考えていくのも一案だと思います。

また中国を中心に、中流層の消費の活性化や中小企業の発展が見込まれます。日本の金融機関が持つ中小企業向けの金融スキームや消費者金融のノウハウをアジアに注入することができます。

大山ディレクター 欧米のブロックに属していないので、アジアの声はなかなか国際的に届きません。アジアの意見をグローバル・ルールに反映させるためにも、アジアの国々が結束することにはメリットがあります。こうした協力関係の強化に向けて、日本の金融機関はイニシアチブを握ることが必要でしょう。

日本経済のmarginalize(周辺化)は不可避で、将来「経済大国モデル」の前提ではやっていけなくなると予想されます。そうした中でも、わが国の金融機関が生き残っていけるのかを考えた場合、アジアや世界の中でやっていけるようでなくてはならず、今後10年間が正念場となるでしょう。

 

注1 マクロ経済的な観点から個別の金融機関の健全性に影響を与えるようなリスクの所在や性格を明らかにすること。
注2 経済が好調な時に一般引当金を余分に積み、景気後退期に貯めておいた余剰分を引き出す、動態的な引当金制度。
注3 購入した不動産を担保とする住宅ローン。
注4 預金・貸出などの通常の法人向け銀行業務と、企業の直接調達支援やM&Aアドバイスなどの投資銀行業務を一体的に捉えたサービス。

 
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