国連環境計画(United Nations Environment Programme: UNEP)は、経済学的観点から生物多様性と生態系の損失を調査する世界レベルの画期的な研究を実施しています。この研究の一部に参画するプライスウォーターハウスクーパース(PwC)は、全てのセクターあるいはビジネスも、企業や消費者が利用する環境資源の入手が変化することから逃れられない、との分析結果を報告しました。
2010年7月に発表された国連の研究調査「ビジネスのための生態系と生物多様性の経済学」(The Economics of Ecosystems and Biodiversity for Business (TEEB)によると、評価方法やアセスメントがより良くなれば、世界の自然資本に関する大規模なビジネスやその影響の調査が一層促進される、と報告しています。また、TEEBは、生物多様性の損失による経済的影響は、年間2~4.5兆米ドルに及ぶと試算しており、今後、消費者や企業、政府は、商品価格の上昇、商品や資金の調達や、サプライチェーンの混乱などを通じて影響を受けることになろうと予測しています。
一方で、本研究の一部としてPwCが行った調査では、世界の大企業100社のうち、生物多様性を重要なビジネスの課題として認識している企業は5社中1社以下の割合で、戦略的なリスクとして対応しているのはわずかに2社であることが明らかになりました。
地域別にみると、ラテンアメリカでは50%以上、アフリカでは45%のCEOが、生物多様性の低下はビジネス成長の課題となると認識しているのに対して、その取引先にあたる西ヨーロッパのCEOの認識は20%未満でした。TEEB では、事業計画の中で生物多様性の持続可能な管理を考慮することに失敗したこれらの企業は、徐々に市場から外れていくことに気づくだろうと、結論づけています。PwCは、2010年7月12日(ロンドン時間2010年7月13日)に発表した「TEEB for Business」の一部調査を実施しています。
また、食料や飲料製品に使用する水資源、梱包材や紙や家具に使用する木材、果実や野菜を耕作する農地、衣料品の繊維原料は、生物多様性や生態系がもたらす「サービス」のほんの一部です。本研究では、これらの経済価値や保護について考察しています。
経済社会にあってその多くは貨幣換算されず、貨幣価値に置き換えられていませんが、天然資源の流通と利用は、現代のグローバル経済に組み込まれています。しかしながら、PwCの調査によると、世界の大企業100社のうちの18社のみが、アニュアルレポートにおいて生物多様性や生態系に関する記述をしており、そのうちの2社のみが生物多様性の損失が戦略的な事業リスクになると認識していることが明らかになりました。食品製造業や第一次産業など、生物多様性への依存度あるいは影響度の大きいセクターでは、9つの企業が生物多様性の損失を持続可能性の問題として認識しているという結果でした。
PwCの気候変動・サスティナビリティ部門のグローバルリーダーであるマルコム・プレストンは次の通り述べています。
「現在の英国における企業の経営戦略や計画は、あたかも飼い犬が手を噛むがごとく、安定的な消費者物価、経営の見通し、長期的な視野での投資家の保護と還元を損なうものとなっています。
生物多様性を損失の経済影響が年間2~4.5兆米ドルにも上ると試算されたことは、この問題が、環境家や科学者の懸念にとどまらず、経済的合理的な保全の対象であり、ビジネスの長期的な可能性を守るものであることを認識するでしょう。
この意味するところは、金融機関が投資を行っている企業やプロジェクトを含めて、英国のビジネスを支えている、こうした資源の価値を置くということです。」
さらに、今回のTEEBの調査を担当した同じく生物多様性と気候変動部門のパートナー、ジョン・ウィリアムズは、下記の通り述べています。
「今回の研究は、生物多様性という問題について、全世界規模での基本線を示すものです。また、企業や消費者が、今後どの程度この問題に対峙していかなければならないかをも示すものです。私たちは、生態系を設備や機械装置と同様に資産としてとらえ、また、生態系がもたらす価値を算定していく必要があります。
現在、環境に対して実質的なビジネスあるいは修復ビジネスといったものはほとんどなく、われわれは事実上、環境に対して後退しています。
生物多様性に与える影響から生じるリスクを認識し、管理することは、もはや環境保護によるイメージアップやCSR活動ではなく、需要と供給という経済問題であり、気候変動問題よりも早期に対処すべき問題です。」
TEEBは2007年の中間報告に続き、名古屋で開催される2010年10月の生物多様性COP10(名古屋会議)で最終報告が発表される予定となっています。同じく、TEEB for Businessの全編も発表される予定であり、事業者向けの新しい評価方法、報告書作成手法の開発が専門家らに求められています。
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