商社  |  引当金に関する論点

引当金については、IAS37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」で規定されており、その認識の要否について、概念フレームワーク上の負債の定義を基礎とした判断基準が示されています。IASBは、2005年6月にIAS37号の改訂案の公開草案(以下「IAS 7号改訂案」という。)を公表し、認識要件及び測定について新たな提案を示していましたが、公開草案に対するコメントを受け、負債の測定に関する改定公開草案を2010年1月に公表しました。この追加的な公開草案へのコメントを検討した上で、2010年の第3四半期を目標に現行のIAS37号に置き換わる新基準を公表することが予定されています。

質問 2-1: リストラクチャリング引当金は経営陣の意思決定の時点で認識してよいでしょうか?

(設例)
当社は、北米で物流管理事業を展開していましたが、景気の悪化による業績の低迷を受け当事業からの撤退を検討しています。事業を管轄する部門から事業継続、清算、売却それぞれの場合の将来的な負担コストの見積りが上程されたため、取締役会で各プランの比較検討を行った結果、事業を清算することを取締役会で承認しました。当社では、この取締役会承認を受け、関係者との協議を開始する予定です。
当期末において、関係者との協議は開始されていませんが、事業清算コストが合理的に見積られている場合、当期末において事業撤退に関する引当金を計上することは認められるでしょうか?

答

2-1: 経営者の意思決定が行われていても、その事業の関係者が事業撤退の実施に関する妥当な期待を抱いていなければ、その段階で引当金は認識されません。

(解説)
IAS37号では、引当金の認識要件を以下のように規定しています。

  • (a)企業が過去の事象の結果として現在の債務(法的又は推定的)を有しており
  • (b)当該債務を決済するために経済的便益を持つ資源の流出が必要となる可能性が高く
    かつ
  • (c)当該債務の金額について信頼できる見積りができる場合

リストラクチャリング引当金は、上記の引当金の認識要件を満たしたときにのみ認識されますが、この要件のうち、(a)の要件(この場合、「推定的債務」要件)については、以下の2つの要件を満たすこととされています。

1. 企業が少なくとも下記の事項を明確にした詳細な公式計画を有していること

  • (1) 関係する事業又は事業の一部
  • (2) 影響を受ける主たる事業所
  • (3) 雇用契約終結により補償されることとなる従業員の勤務地、職種及びその概数
  • (4) 負担する支出
  • (5) 計画が実施される時期

かつ、
2. リストラクチャリング計画につき、計画の実施を開始することによって、または影響を受ける人々に公表することにより、リストラが実行されるであろうという妥当な期待を影響の受ける人々に惹起していること
また、2.の要件において「妥当な期待の惹起」のためには、

  • (a)リストラの計画の実施を開始すること、
    又は、
  • (b)影響を受ける人々に対し、計画の主要な特徴を十分に明確な方法で公表することが必要とされています。
したがって本件の場合、当期末の時点で関係者への協議が開始されていないため、関係者へのリストラクチャリング計画の公表に至っていないと考えられますので、引当金の認識の「推定的債務」の要件は満たされておらず、引当金の計上が認められないと考えられます。
なお、本件は事業清算でしたが、事業売却の場合、企業がその売却をコミットするまで、すなわち拘束力のある売却契約が締結されるまで事業売却に係る債務は発生しません。
2005年に公表されたIAS37号改訂案においては、リストラクチャリング費用に関する非金融負債は、負債の定義を満たしたときにのみ認識されるとされています。負債は、企業が他者に対する債務の決済をほとんど免れることができないような、現在の債務を必然的に伴っているとされており、留意すべき事項が次のように記載されています。
「リストラクチャリングを実施するという経営者の決定は、リストラクチャリングの実施期間中に見込まれる費用に関する他者への現在の債務を生み出さない。
したがって、経営者によるリストラクチャリング実施の決定は、負債の認識に必要な過去の事象ではない。」
したがって、改定案においてもリストラクチャリング引当金の認識要件に変更を予定していないと考えられます。他方、日本では、企業会計原則の注解18において引当金の計上要件が次のように示されています。
  • (1)その発生が当期以前の事象に起因すること
  • (2)将来の特定の費用又は損失であること
  • (3)発生の可能性が高いこと
  • (4)その金額を合理的に見積ることができること

上記(2)の「将来の特定の費用または損失」という要件は、IAS37号の「現在の債務」要件と必ずしも合致しません。従来、リストラクチャリングに関して、日本においては注解18の要件に照らして判断し、取締役会等の決議を根拠として構造改革費用等の名目で引当金を計上してきた事例がありますが、IFRSの適用を見据えた場合、引当金の認識時点について再検討の可能性を想定しておくことが必要と考えられます。

質問 2-2: リストラクチャリング引当金の対象となるコストはどのようなものが含まれるのでしょうか?

(設例)
当社は北米事業撤退のコスト見積りにおいて次のような費用を考慮しています。

  • (1) 現時点から清算完了までの当該事業にかかる営業損失
  • (2) リース資産に関する中途解約違約金
  • (3) 解雇される従業員の割増退職金
  • (4) 雇用を継続する従業員の配置転換費用
  • (5) 倉庫備品の除却・売却損(売却による収入を見込んだ純額の損失)

リストラクチャリング引当金の認識が認められる状況となった場合、上記のうち、引当金に含まれないものはありますか?

答

2-2: リストラクチャリング引当金は、リストラクチャリングから発生する直接の支出のみを含むべきであり、以下の両方の内容に該当している支出が対象となります。
(1) リストラクチャリングにより必然的に伴う支出であること
(2) 企業の継続進行中の活動には関連していないもの

(解説)
現行IAS37号では、リストラクチャリング引当金の対象とならない項目が以下のように例示されています。

  • 雇用を継続する従業員の再教育費、配置転換費用
  • 販売費用
  • 新しいシステム及び流通組織への投資

これらの支出は、将来の事業遂行に関するものであり、引当金を計上する時点のリストラクチャリングに関する負債ではないと解釈されています。また、将来の営業損失も引当対象とはなりません(ただし、不利な契約に該当する場合を除く)。また、予測される資産の処分から生じる利得は、たとえ資産の売却がリストラクチャリングの一部だとみなされる場合でも、引当金の測定に当たって考慮されません。
こうした規定を考慮すると、本件の場合検討の対象となった各項目は現行IAS37号では次のように判断されると考えられます。
(1) は将来の営業損失であるため、引当対象とはならないと考えられます。
(2) は事業撤退に伴って発生する支出として、引当対象に含まれると考えられます。
(3) は事業撤退に伴って発生する支出として、引当対象に含まれると考えられます。
(4) は事業撤退後別事業へ配置転換するための支出として、引当対象とはならないと考えられます。
(5) は事業撤退に伴う費用ではありますが、備品の売却収入を見込んでいますので、これを考慮しないで損失見込み額を引き当てることになると考えられます。
2010年1月の改定公開草案を踏まえ、今後IAS37号がどのような考え方に向かうのか注視していくことが必要でしょう。