金融業  |  金融資産の認識の中止に関する論点

以下の設例では、現行のIAS39号の規定を基に解説します。現在IASBは金融資産の認識の中止の要件の大幅な改訂作業中であり、再公開草案が2010年第2四半期または第3四半期、新基準は2010年第4四半期または2011年第1四半期に公表される予定です。

質問 2-1: 当社は保有するカードローン債権を信託に譲渡し、この信託が発行する優先受益権を投資家に販売し、劣後受益権を留保しました。この取引における金融資産の認識の中止に関する検討を譲渡取引の当事者である当社と信託の間で行うのであれば、信託が当社の連結対象になれば事実上当社の連結財務諸表にてカードローン債権の認識の中止はできないことになりますか?

(設例)
当社はカード会社です。当社の保有するカードローン債権を第三者が受託者となる信託勘定に譲渡しました。信託勘定は優先受益権と劣後受益権を発行し、優先受益権を第三者である投資家に売却しました(劣後受益権は全体の約10%で当社が保有)。カードローン債権のサービシング(回収)は引続き当社が行い、回収された元本と利息は信託勘定にプールされ、月次でまず優先受益権保有者に対する配当と受益権の償還を行い、優先受益権が全て償還された後の残余部分を劣後受益権保有者に支払います。信託勘定が当社の連結対象となった場合、それを以って当社の連結財務諸表では事実上カードローン債権の認識の中止はできないことになりますか?

答

2-1: 必ずしもそうではありません。IFRSに基づく連結財務諸表における金融資産の認識の中止は、連結グループと連結グループ外の当事者との間で検討しますので、信託勘定が当社の連結対象になったとしても所定の要件を満たせば認識の中止が認められる場合があります。

(解説)
金融資産の認識の中止の検討をどの当事者間で実施するのか(すなわち、当社と信託勘定の間で行うのか、あるいは信託勘定と投資家の間で行うのか)は、信託勘定が当社の連結対象となるか否かにより決まります。

この信託勘定の目的と活動は関連する契約書(たとえば信託契約およびサービシング契約等)において事前に決定されており、その内容は当社から信託財産を取得し、譲受資産が生み出すキャッシュフローの回収を行うとともに、受益権者に対して配当金の支払いと受益権の償還を行うという明確かつ限られたものです。この場合、当該信託勘定はSPE連結の判定基準であるSIC12号が規定するSPEに該当し、当社は実質的な支配の有無の観点から信託勘定の連結の要否を判断しなければなりません。

SIC12号は、実質的な支配の有無を(a)SPEの活動内容、(b)意思決定能力、(c)便益の享受ならびに(d)リスクの負担などの観点を総合的に分析し判断することを求めています。

信託勘定に関する当社による検討は以下のとおりです。(a)信託勘定は当社が売却するカードローン債権を取得するために設定され、当社は保有するカードローン債権を信託勘定に譲渡することにより効率的および費用効果の高い資金調達を行っています。(b)信託勘定の活動は事前に決定されており、当社は信託勘定の設定、カードローン債権の買取条件の決定ならびに信託勘定が発行する信託受益権の条件決定に深く関与しています。(c)当社は優先受益権が高い格付を取得できるよう劣後受益権を留保することにより原資産のリスクの大半を留保するとともに、(d)優先受益権の償還後の残余キャッシュフローの享受という便益を受けます。

以上の検討は、当社による信託勘定の実質的な支配があるという証拠を複数示しており、総合的に判断すると、当該信託勘定は当社の連結対象となると考えます。

したがって、カードローンに関する金融資産の認識の中止の検討は、信託勘定を含めた当社連結グループと第三者投資家の間で行います。仮にこれが日本基準の場合、資産の譲受人である信託勘定が譲渡人による連結対象となる場合、譲渡人の連結財務諸表では実質的に資産の認識の中止はできないことになりますが、IFRSはこのような場合でも所定の要件を満たせば認識の中止を認めています。

質問 2-2: 上記の取引におけるカードローン債権の第三者投資家への流動化取引について、金融資産の認識の中止は認められるでしょうか?

答

2-2: 劣後受益権の留保によりリスクと経済価値の大部分を譲渡人が留保したと見なされる場合、金融資産の認識の中止は認められません。

(解説)
IAS39号は、(1)連結の範囲を決定し、(2)中止の検討の対象となる資産の単位(一部か全部)を決定したあと、(3)その単位について資産からのキャッシュフローに対する契約上の権利が消滅していないとき、その単位が(4)権利の移転のための要件、または(5)所定のパススルー要件を満たし、(6)流動化取引によって譲渡人がリスクと経済価値の大部分を移転した場合に認識の中止を行い、(7)リスクと経済価値のほとんどすべてを留保している場合には認識の中止を行なわないと定めています。

(1)連結の範囲については既に解説したとおり、信託勘定は連結対象となります。次に、(2)中止の検討の対象となる資産について考えます。流動化対象である金融資産は全て返済スケジュールが決まっているカードローン債権です。回収された現金は信託内でコミングル(混同)され、契約上のウォーターフォール(弁済順序)に従って受益権保有者に支払われます。このことから、受益権保有者に対する支払いは潜在的に全ての原資産からのキャッシュフローがその原資となる可能性があるため、譲渡の対象となる資産は信託勘定に譲渡したカードローン債権全体です。

(3)資産からのキャッシュフローへの契約上の権利が消滅しているかどうかについてですが、これについては、カードローン債権は満期を迎えていないことから今後も継続的にキャッシュフローを生み出しますので、当然消滅していません。また、(4)権利の移転については、資産の譲受人である信託勘定が当社の連結対象であるため、連結グループ外に原資産の物理的な譲渡がないため、要件を満たしません。しかし、信託勘定と第三者投資家との間でIAS39号が定めるパススルーの3つの条件(回収なくして支払い義務が生じないこと、原資産の譲渡と担保拠出の禁止、ならびに著しい遅滞なき払い出しの義務)が満たされていれば、(5)パススルーが成立していることになります。なお、パススルー要件はIAS39号がその適用指針を詳細に示しており、慎重な検討が必要です。

流動化取引がパススルー要件を満たしている場合、(6)(7)リスクと経済価値の移転を検討します。原資産は期限前返済可能な固定金利のカードローン債権であると仮定したとき、考慮されうる主要なリスクは、信用リスク、期限前返済リスクおよび金利リスクです。

仮に、現在は市場金利が極めて低いことと、通常カードローン債権は長期のものは少ないことを以って、期限前返済リスクならびに金利リスクは重要な要素とはならないと考える場合、主要なリスクである信用リスクのほとんど全てを劣後受益権を通じて負っている当社はリスクと経済価値の殆ど全てを留保していることになり、認識の中止は認められません。