化学産業  |  引当金に関する論点

質問 3-1: 当社は将来の大規模定期修繕に伴う支出に備えて、各期の費用負担額を「修繕引当金」として計上しています。この「修繕引当金」はIFRSを適用した場合も引き続き認められるでしょうか。

(設例)
当社は大手化学品メーカーで、大規模な製造設備を多く保有しています。当該製造設備については、法令により定期的な修繕(定期修繕)の実施が義務付けられています。現在、日本基準に基づく財務諸表では、将来の大規模定期修繕による支出に備えて、修繕実施までの期間にわたり各期の費用負担額を「修繕引当金」として計上しています。

IFRS適用後も「修繕引当金」の計上が認められるのか教えてください。

答

3-1: IFRSでは「修繕引当金」は認められないことになると考えられます。

(解説)
企業が保有する製造設備については、関係法令に基づきその種類に応じて定期的な修繕が義務付けられています。特に化学産業では、他業種に比べて製造設備の保有規模が大きいため、修繕費の金額も非常に多額となる特徴があります。

現在、わが国の会計基準では引当金に係る包括的な会計基準は存在せず、引当金の計上にあたっては「企業会計原則」注解18において、いわゆる引当金の要件(4要件)に照らして判断することになります。また、同注解18では引当金の例示が示されていますが、その中に「修繕引当金」、「特別修繕引当金」が含まれており、「修繕引当金」の計上はわが国の会計実務として広く定着しています。

一方、IFRSでは、引当金に係る基準書としてIAS37号「引当金、偶発債務及び偶発資産」が公表されています。IAS37号では、以下の要件を満たす場合に引当金を計上することになります(14項)。

  • 過去の事象の結果として「現在の債務」(法的または推定的)を有しており、
  • 当該債務を決済するために経済的便益をもつ資源の流出が必要となる可能性が高く、かつ、
  • 当該債務の金額について信頼性のある見積もりができること

上記において、「現在の債務」とは、(1)法的債務、もしくは(2)推定的債務に区分されますが、具体的には、以下のような内容を指します。

  • (1)法的債務:契約、法律の制定・運用から発生した債務
  • (2)推定的債務:確立されている過去の実務慣行、公表されている方針または極めて明確な最近の文書によって、企業が他者に対しある責務を受諾することを表明しており、かつ、その結果、企業はこれらの責務を果たすであろうという妥当な期待を他者の側に惹起しているような企業の行動から発生した債務

「修繕引当金」がIFRS上も引当金として認められるためには、定期修繕に伴う支出が「現在の債務」に該当するか否かがポイントとなります。この点、定期修繕が法律上の要請に基づき実施されるものであっても、貸借対照表日において、定期修繕をする義務そのものは、企業の将来の行為と無関係に存在するものではありません。つまり、企業は翌期以降に操業停止や固定資産の廃棄、売却等を通じて、将来の定期修繕を回避することができるため、債務の発生は企業の意思や行為に影響されることになります。したがって、「修繕引当金」は「現在の債務」に該当しないとされ、IFRS上、引当金として認められないと考えられます。

なお、現在、IAS37号の改訂作業が継続中ですが、当該改訂案においても現行のIAS37号と同様に「現在の債務」であることが負債の認識要件の一つとされており、「修繕引当金」のIFRS上の取り扱いについては同様と考えられます。

また、IAS16号「有形固定資産」では、固定資産の取得原価のうち大規模修繕で見込まれる支出のうち資本的支出に相当する金額については、次回の修繕までの間に減価するものとしてその期間で減価償却し、修繕時の支出はその減価の回復とみて固定資産の帳簿価額に加算するという取り扱いが示されています。つまり、日本基準において修繕引当金として計上していた支出見込額について、その一部(資本的支出に相当する部分)は固定資産の帳簿価額に算入され(取得時は取得原価に含まれる)、他の部分よりも早期に減価償却されることになります。

質問 3-2: 当社は保有する製造設備に含まれる、環境有害物質の除去に伴う処理費用の支出に備えるため「環境対策引当金」を計上しています。以下のケースの処理費用に係る「環境対策引当金」は、IFRS上、それぞれどのように取り扱われますか。
(ケース(1))アスベスト(石綿)
(ケース(2))PCB(ポリ塩化ビフェニル)
(ケース(3))その他の有害物質の含有設備で、法律上の要請はないが周辺環境等を考慮して自発的な除去を計画しているもの

(設例)
当社は化学品の製造設備を多数保有していますが、その中には(1)アスベスト(石綿)、(2)PCB(ポリ塩化ビフェニル)、(3)その他環境有害物質(法律上の除去義務はないが、自発的な除去を予定)が含有されている設備があります。当社は、そのような環境有害物質の将来の除去に伴う処理費用の支出に備えるため「環境対策引当金」を計上しています(注:当社は日本基準に基づく財務諸表作成にあたり、「資産除去債務に関する会計基準」(企業会計基準第18号)を適用していません 脚注*1)。
(ケース(1))から(ケース(3))のぞれぞれの処理費用に係る「環境対策引当金」のIFRS上の取り扱いについて教えてください。

答

3-2: IFRSにおいて、(ケース(1))から(ケース(3))のそれぞれの処理費用に係る「環境対策引当金」は、以下のように取り扱われると考えられます。
(ケース(1))
1)設備解体前に支出する処理費用は、引当金としてそのまま計上する
2)設備解体時に支出する処理費用は、資産除去債務として負債計上するとともに、固定資産の取得原価に含め減価償却を通じて費用配分する
(ケース(2))
1)対象設備からの除去が完了していない場合には、資産除去債務として負債計上するとともに、固定資産の取得原価に含め減価償却を通じて費用配分する
2)対象設備からの除去は完了しているが、処理機関への持込、処分待ちのため自社で保管している場合には、引当金としてそのまま計上する
(ケース(3))IAS37号の「現在の債務」に該当しない場合には、引当金として認められない

(解説)
(ケース(1))アスベスト(石綿)
アスベストは「石綿障害予防規則」等に基づき、アスベストを含む建材を使用した建物等について、その分類(レベル1からレベル3)に応じた適切な処置を行うことが義務付けられています。たとえば、レベル1については、アスベストの飛散性が高いため、建物等の解体前に飛散防止措置等の対応が必要となったり、あるいは建物等の解体前の対応が不要でも、建物等の解体時にはアスベストそのものの除去が必要となります。いずれの場合にも、建物等の解体工事費用以上の追加費用が発生することになり、この追加費用の取り扱いがポイントとなります。

1)建物等の解体前に飛散防止措置等が必要な場合(設備解体前に支出する処理費用)
建物等の解体前に実施する飛散防止措置等に係る追加費用の性質は、有形固定資産の使用期間中に実施する環境修復や修繕にあたると考えられるため、資産除去債務には該当しません。一方、飛散防止措置等の支出に係る債務は、法的に不可避な債務として、IAS37号における「現在の債務」に該当すると考えられるため、(日本基準で発生可能性および金額の合理的見積りの要件が満たされていることを前提として)「環境対策引当金」はIFRSにおいても引当金としてそのまま計上されることになります。

2)建物等の解体時にアスベストの除去が必要な場合(設備解体前に支出する処理費用)
建物等の解体時のアスベストの除去費用については、資産の除去に直接関連する支出であり、資産除去債務として取り扱われます。したがって、アスベストの除去費用見込額を資産除去債務として負債に計上するとともに、固定資産の取得原価に含め減価償却を通じて費用配分します(「石綿障害予防規則」の公布時からIFRS適用初年度の期首時点までの減価償却費相当額を控除した金額を固定資産の帳簿価額として計上する)。

(ケース(2))PCB(ポリ塩化ビフェニル)
「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」等により、PCB含有機器を保有する企業は、2016年までの処分が義務付けられています。

1)対象設備からの除去が完了していない場合
有形固定資産の除去時にPCB含有物を処理する場合は、処理費用が資産除去債務に該当すると考えられます。

2)対象設備からの除去は完了しているが、処理機関への持込、処分待ちのため自社で保管している場合

現在、多くの企業は、PCB含有機器の除去を完了済みで、処理機関(日本環境安全事業株式会社など)での処分待ちとなっています。このように除去済のPCB含有機器については、すでに対象資産からの除去が終了しており、資産除去債務には該当しません。一方、将来の処理費用の支出に係る債務は、法的に不可避な債務として、IAS37号における「現在の債務」に該当すると考えられるため、(日本基準で発生可能性および金額の合理的見積りの要件が満たされていることを前提として)「環境対策引当金」はIFRSにおいても引当金としてそのまま計上されることになります。

(ケース(3))その他の有害物質の含有設備で、法律上の要請はないが周辺環境等を考慮して自発的な除去を計画しているもの

法律上の要請によらず、自発的に資産を除去するような場合には、資産除去債務には該当しません。また、自発的な資産の除去であり、資産の除去に法的な責任はありませんが、企業が環境保護方針等を広く外部に公表しており、企業が将来においてその責務を果たすという期待を第三者に惹起させるようなケースにおいては、IAS37号における「推定的債務」に該当し、IFRS上も引当金としてそのまま計上されることになると考えられます。一方、そのような「推定的債務」にも該当しない場合には、IFRS上、引当金として認められないと考えられます。

脚注*1
2010年4月1日以降開始する事業年度から「資産除去債務に関する会計基準」(企業会計基準第18号)および「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第21号)が適用されます。