リース取引は重要かつ広く利用される資金調達源であり,新興企業から多国籍企業に至るまで,企業が当初取引時に多額の現金を支出することなく,有形固定資産の使用権を取得することを可能とする仕組みとなっています。
現行のリース会計では,企業はオペレーティング・リースもしくはファイナンス・リースのいずれかとして会計処理しています。リースの分類には複雑な規則があり,オペレーティング・リースとして会計処理される場合には,リース資産とリース負債のいずれも貸借対照表上では認識されません。そのうえ,支払リース料はリース期間にわたって定額法で計上されます。このようなリース会計は利用者のニーズを満たしていないとされています。その理由は,第一に,会計処理が分類方法により異なっていること,第二に,財務諸表利用者はすでにオペレーティング・リースで生じた資産及び負債を認識するために財務諸表の修正を行っていることが挙げられます。
また,ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの間の明確な線引きが難しいことから,リース会計の複雑性が指摘されることもあります。
国際会計基準審議会(IASB)及び米国会計基準審議会(FASB)は,世界的なコンバージェンスの一環として,リースに関する世界共通の統一された会計基準を作成しており,「G4+1 特別報告書:リース:新しいアプローチの実施」と題された1999/2000年版のディスカッション・ペーパーに記載されている過去の成果をその基礎としています。両審議会は,2009年3月に合同でディスカッション・ペーパーを公表済みです。
提案に含まれることが予定されている内容には,短期リースに関する簡易化された会計処理として,借手については資産及び負債を総額で認識する一方,貸手では発生主義会計を適用する処理があります。また,土地に関する長期リースも挙げられています。
他方,提案から除外される内容としては以下のものが挙げられます。
以下では,IASBでディスカッション・ペーパーを踏まえてこれまで議論された内容について,主としてIASBスタッフが作成,公表しているプレゼンテーション資料をもとに概説します。
新しいリース会計では借手の会計処理として「使用権モデル」が提唱されています。使用権モデルによれば,すべてのリース契約をリース期間にわたるリース物件の使用権の取得と考えられています。従って,借手は原資産の使用権,すわなち,リース期間にわたってリース物件を使用する権利を表す資産を取得し,その権利に対してリース料の支払義務を負債として認識する,という会計処理がなされます。
この結果,財政状態計算書には使用権資産とリース料支払債務が,それぞれ資産,負債として計上されます。他方,包括利益計算書上は使用権資産の償却額と利息費用が計上されることとなります。
リース料の支払債務については,追加借入利子率で割り引いた支払リース料の現在価値として負債に計上されます。
使用権資産の原価としては,計算されたリース料支払債務の当初測定額と同額が計上されることとなります。
リース料の支払債務は決算期毎に償却原価により評価され,その後の市場金利などの変動による追加借入利子率の変更の影響は受けないこととされます。
使用権資産についても同様に償却原価により評価されます。ただし,IAS第16号「有形固定資産」に基づく再評価を行うオプションの適用が認められるべきことが検討されています。
リース期間について,発生の可能性が50%を超える(more likely than not)最長期間としてリース支払義務を認識することとなります。また,リース期間を決算期毎に再評価することが求められ,リース料支払義務の変動は使用権資産の簿価を調整とすることとされています。
この考え方によると,たとえば,ある機械のリース期間が10年であり,期間終了後に5年間延長するオプションが契約に含まれているとします。この場合,借手は義務を10年とするか,15年とするかを決定しなければならないこととなります。
時の経過以外の要素がリース開始後に変動するために,支払が増減するリース契約が存在します。このような契約を変動リースまたは偶発リースと呼びます。
変動リースを含むリースの会計処理ですが,まずは予想される支払額をリース料の支払義務の当初測定に反映することとなります。次に決算期毎にその再評価を行うこととされます。
この結果,当期及び過去のリース料義務の変動については損益にて会計処理されます。その他の修正については,使用権資産の調整として処理することが想定されています。
なお,残存価値保証についても,変動リースと同様に扱うこととされています。
まず,財政状態計算書では,リース料支払義務と使用権資産として表示されます。後者は有形固定資産の中で自己所有資産とは区分して表示します。
次に,包括利益計算書ですが,減価償却費と利息費用とを区分表示することが必要とされています。
キャッシュ・フロー計算書では,現金支払額は財務活動のキャッシュ・フローとされます。
貸手の会計処理については履行義務(Performance Obligation)モデルと部分認識の中止(Partial Derecognition)モデルの2つのモデルが存在しており(混合モデル),それぞれの内容は以下のとおりとされています。
このモデルによれば,リース契約はリース債権という新しい資産を創出する取引であると考えられ,貸手は借手に対して資産の使用を認めるため,履行義務を記録することとなります。
この場合,貸手において原資産の認識は継続されます。また,取引時損益(いわゆるDay 1profit/loss)は認識されません。
このモデルでは,貸手はリース対象資産の一部を移転し,対象部分のみについて認識が中止されます。この結果,取引時損益が認識されることとなります。
また,リース期間にわたりリース料を受け取る権利(リース債権)を認識します。
それぞれのモデルに基づく当初及び事後測定のルールとして検討されている内容は以下のとおりとなっています。
| 当初測定 | 事後測定 | |
|---|---|---|
| 受取債権 (資産) |
貸手が借手に貸す利率で割り引いたリース料の割引現在価値 | 償却原価 |
| 履行義務 (負債) |
取引価格(受取債権と同額) | リース期間にわたる履行義務の弁済にあわせて収益を認識 |
| 当初測定 | 事後測定 | |
|---|---|---|
| 受取債権 (資産) |
貸手が借手に貸す利率で割り引いたリース料の割引現在価値 | 償却原価 |
| 残余資産 (資産) |
リース資産の従前の簿価を配分 | 同左(減損を除き再測定しない) |
両モデルに基づき検討されている財務諸表における表示様式は以下のとおりとなっています。
| 履行義務モデル | 部分認識の中止モデル | |
|---|---|---|
| 財政状態計算書 | 資産XXX 債権XXX 履行義務(XXX) リース資産/負債純額XXX (注1) |
リース債権(注2)XXX 有形固定資産 残余資産XXX 所有資産XXX |
| 包括利益計算書 | リース収入XXX 利息収入XXX 減価償却費(XXX) (注3) |
収入XXX 原価(XXX) (注4) 利息収入XXX |
(注1)結合表示(gross with linked presentation)による。
(注2)その他の債権とは区分して表示する。
(注3)独立して表示する。
(注4)ビジネスモデルあるいは業種により総額または純額で表示する。
借手と同じ取扱となり,50%超の可能性のあるなかで最長のリース期間末における資産価値を反映することが必要となります。各報告日に再評価するとされています。
履行義務モデルでは変動額は貸手のリース債権額の調整として反映されます。他方,部分認識の中止モデルでは,残余資産の認識の中止/再認識として取り扱われます。
借手の場合と同様,変動リース料を含めるとされます。また,各報告日に再評価し,リース債権を調整することとなります。
履行義務モデルによる場合,履行義務が充足されていれば対応損益を調整し,未だされていなければ履行義務を修正することとなります。
これに対し,部分認識の中止モデルによる場合,対応するすべての変動額を損益に認識することとなります。
リースに関する財務諸表の注記情報は,利用者がその性質,金額,タイミング,リース契約に起因するキャッシュ・フローの不確実性,これらのキャッシュ・フローをどのようにして管理するかを評価することに役立つとされています。項目としては,以下が含まれる見込です。
資産が売却されたと判断された場合にはセール・アンド・リースバックとして処理されます。
契約末日に資産の支配が移転し,資産にかかるリスクと便益のうちごくわずかな部分を除きすべてが買手(貸手)に移転した場合に売却されたとされます。
また,市場の賃料を反映するための資産,負債,利得,損失の調整がなされることとされています。
関連する借手及び貸手モデルに基づくとされます。
また,履行義務アプローチを採用した場合,リース資産,リース債権,履行義務を表示とリンクさせて示され,原貸手に対して支払われる賃料支払義務は独立して表示されます。
さらに,重要なサブリースの性質と金額を開示することとされます。
2010年第3四半期の初めに公開草案の公表が予定されています。その後のコメント期間や理事会での議論を経て,最終基準は1年後の2011年第2四半期となる見通しです。
こちらは、『週刊経営財務』2974号(2010年07月12日)にあらた監査法人企業会計研究会として掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。