本連載は,主にIASB及びFASB月次合同会議等での討議内容に基づき,最新のIFRSをめぐる動向を伝えることを目的としています。今回は 第3回「連結会計」(No. 2960) 及び 第6回「連結会計(組成された企業)」(No. 2966) に引き続き,連結に関するプロジェクトの動向について解説します。
連結会計は,2003年6月にIASBのアジェンダに加えられ,IAS第27号「連結及び個別財務諸表」(以下,「IAS第27号」)及びSIC第12号「連結―特別目的事業体」(以下,「SIC第12号」)の置き換え,すべての事業体に適用可能な支配モデルの設定並びに連結及び非連結企業に関する開示の改善を目的としてプロジェクトが開始されました。そして,2008年12月に公開草案第10号「連結財務諸表」(以下,「ED10」)が公表され,現在,最終基準の策定に向けてIASB及びFASBの両審議会が合同で討議を行っています(本稿では,以下,「企業」は「事業体」と同義として使用するものとする)。
ED10では,支配について「報告企業が,自らのためにリターンを生み出すように他の企業の活動を指図するパワーを有している場合,当該報告企業は他の企業を支配している」と定義しており,当該定義は,ED10公表後のIASB及びFASBの会議においても仮決定されています。今回は,投資会社に関する例外規定に関して,2010年5月までの議論を紹介します。
2010年2月のIASB及びFASBの合同会議において,投資会社がその投資先を支配している場合,当該投資をどのように処理するかが議論されました。投資会社とは,いわゆるプライベート・エクィティ企業やベンチャーキャピタル企業のイメージです。ED10においては,そのような投資会社に関する例外規定は提案されていませんでした。
このような議論がなされる背景には,投資会社の目的が,子会社を通じて事業を運営する事業会社とは異なっているという事実があります。投資会社は,例えば投資してから3年から5年後に投資利益を実現することを期待して,他の企業に対する投資を行います。一般に,投資会社は投資先を支配していても,投資先を自身の事業に統合することはありません。通常,投資会社は投資先の公正価値を増加させるために投資を管理しており,経営目的で利用される情報も公正価値をベースにして作成されています。財務諸表の利用者は,投資会社の業績に関する有用な情報は,投資先を公正価値で測定することによって提供されると主張しています。
2月の合同会議で議論された結果,新基準に例外規定を設け,投資会社は自社が支配する投資を損益を通じて公正価値で測定しなければならないことが仮決定されました。つまり,投資会社が支配している投資先は,連結範囲に含めないこととなります。
投資会社が支配する投資先について連結しないという例外規定を設ける場合に問題となるのが「投資会社」の定義です。2010年4月のIASB及びFASBの合同会議において,投資会社とは,以下のすべての要件を満たす会社をいうことが仮決定されました。
(a)明確な事業目的
投資会社の明確な事業目的は,収益,資本増価,あるいはその両方を求めて投資を行うことである。
(b)出口戦略
投資会社は,潜在的な出口戦略を有しており,また,投資の回収予定日(あるいは一定の期間)を識別している。
(c)投資活動
投資会社のほとんどすべての活動が,収益,資本増価,あるいはその両方を求めて実施する投資活動である。投資会社及びグループ会社は,他の投資家,または投資先と無関係な者には入手できない便益を,投資先から獲得してはならない。
(d)単位所有持分
投資会社の所有持分が,投資単位(株式等)によって表象されている。
(e)資金のプール
投資会社の所有者の資金が,所有者が集団として専門的な投資管理に活用できるようにプールされている。
(f)公正価値
すべての投資が公正価値を基礎として管理されており,また業績も公正価値で評価されている(内部的にも外部的にも)。
(g)報告企業
投資会社は報告企業でなければならない。
(h)金融負債
投資会社の投資先への資金提供者は,当該投資会社の他の投資先に対して,直接の請求権を持っていてはならない。
上記(h)に関しては,2010年4月合同会議の傍聴者用資料によると,もし投資会社の投資先が相互に担保を提供している場合には,投資先同士がリンクしていることを意味し,収益,資本増価,あるいはその両方を求めて投資を行うという目的(上記(a)参照)に相反することが指摘されています。また,他の投資先に担保や資金面で依存する事実があれば,投資先と無関係の者が入手できないような便益を得ている(上記(c)参照)と言えることも指摘されています。
IASB及びFASBは,今後,新基準の起草の過程において上記の要件を明確化するよう,スタッフに指示しました。
2010年5月のIASB及びFASBの合同会議において,投資会社を子会社として有するグループの連結財務諸表上,当該投資会社が有する投資先をどのように扱うかが議論されました。問題となるのは親会社自身が投資会社に該当しない場合です。
議論の結果,投資会社の親会社(投資会社に該当しない)は,当該投資会社が保有・支配する投資先に対して適用した公正価値会計を,親会社の連結財務諸表においてそのまま維持することを禁止するという仮決定がなされました。つまり,親会社が投資会社を子会社として有している場合,当該投資会社が保有・支配する投資先はすべて連結することが求められます。従って,投資会社の例外規定は,親会社自身が投資会社に該当する場合のみに適用されることになります。
この仮決定がなされた背景には,以下のようなケースが想定されるという事情があります。

図表1のように,子会社S社(投資会社)の投資先I社が,グループの親会社であるP社株式を保有しているケースを考えます。S社がI社を公正価値で測定する場合,I社が保有するP社株式の扱いが問題となります。
仮にP社グループがI社を連結していれば,I社が保有するP社株式は連結上,自己株式として消去されることになります。しかし,S社がI社を公正価値で評価して評価損益を認識し,I社が有するP社株式に関して連結上何ら調整を行わない場合には,I社が保有するP社株式が連結上公正価値で計上されることとなり,そのような結果が妥当なのかどうかが問題となります。
2010年5月の合同会議の傍聴者用資料では,このようなケースでもしI社を連結しない場合には,親会社P社がI社に指図してP社株式を購入させることが可能となり,非連結の特別目体会社を濫用するケースと同様の問題があることが指摘されています。また,このようなケースが考えられるということは,投資先を支配しているにも関わらず連結しないことに派生する問題点が他にもあるということではないか,という疑問も呈されています。
5月の仮決定に従うと,図表1のケースにおいて,P社グループはI社を連結することになります。IASB及びFASBは,上記のような問題点へ対処するため,このような仮決定を行ったと言えるでしょう。
2010年2月の合同会議では,投資会社には,自社が支配する投資先(公正価値で測定)に関して追加的な開示を要求することが仮決定されました。その後,2010年05月04日の合同会議において,投資会社に以下の開示を求める仮決定がなされています。
(1)支配している投資先に,従前は契約上要求されていなかった財務的な援助またはその他の援助を提供しているかどうか
(2)支配している投資先がその資金を投資会社に送金する能力に関して,著しい制限がある場合には,その内容と程度
また,投資会社には,支配している投資先に関する要約財務情報の開示を求めないことも仮決定されています。今後,投資先に関する追加的な開示を求めるかどうか,議論される予定となっています。
2010年5月5日に更新されたIASBのプロジェクト計画表(IASB work plan-projected time-table)では,現行IAS第27号を置き換える基準書を2010年第4四半期に公表する予定となっています。
なお,連結関連の開示については別の基準書を作成することとなっており,当該基準書は2010年6月に公表される予定となっています。この基準書は,報告企業の他の企業への関与に関する開示を扱うこととされており,非連結の組成された企業に関する開示も含まれる予定です。
この文中の仮決定等は全てIASBのホームページ上等で公表された情報に基づくものですが,今後のIASB及びFASBの審議内容によっては,最終基準において異なる結果となる可能性がありますのでご留意ください。
こちらは、『週刊経営財務』2972号(2010年06月28日)にあらた監査法人企業会計研究会として掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。