第8回 収益認識(2)(2010年5月までの動向)

はじめに

前回は,2010年2月の月次会議までの収益認識関連の情報を解説しましたが,今回は,2010年5月のIASB及びFASBの合同会議での仮決定事項の中から,買戻条件付契約における収益認識の考え方について解説します。

収益認識プロジェクトは,2010年6月中に公開草案が公表され,新基準は2011年第2四半期に公表という予定となっていますので,この記事が発行される時点で公開草案がすでに公表されている可能性がありますが,この解説はあくまでも2010年5月開催の合同会議のためのアジェンダや議事録等の情報に基づくものであり最終的な公開草案とは相違する可能性があることに留意願います。

1.支配の移転

公開草案で提案される新たな収益認識モデルでは,「支配の移転」が収益認識の重要な判断基準となります。支配とは,その使用方法の指図や物品またはサービスから得られる便益を享受することができる企業の現在の能力であり,他者がその使用方法の指図をしたり,物品またはサービスから便益を受けることを妨げる現在の能力も含まれる,と定義され,支配移転の指標の例として以下の4項目が含まれます。

  • 顧客が無条件に支払う義務を負う場合
  • 顧客が法的所有権を有する場合
  • 顧客が物理的に所持する場合
  • 物品又はサービスの設計や機能が顧客の指示による場合(いわゆる特注品など)

2010年5月のIASB及びFASBの合同会議では,買戻条件付契約における支配の移転について,契約タイプ別に討議されました。

2.買戻条件付契約における収益認識

買戻条件付契約に基づき買い戻される資産は,買い手に当初売却された資産そのものである場合もあれば,それにきわめて近似した資産,あるいは,その一部(コンポーネント)である場合もあります。また,買戻条件付契約は,当初の売買契約と一体となっている場合もあれば,別個の場合もありますが,一般的に以下の3つのタイプがあると考えられます。

  • 売り手が資産を無条件に買い戻す義務を有する(先物取引)
  • 売り手が資産を無条件に買い戻す権利を有する(コール・オプション)
  • 買い手が,売り手に対して無条件に資産を買い戻すことを要求できる権利を有する(プット・オプション)

そこで,この各契約タイプ別に支配の移転と収益認識を検討します。

3.契約タイプ別支配の移転と収益認識

(1)売り手が資産を無条件に買い戻す義務を有する場合(先物取引)

売り手が資産を無条件に買い戻す義務を有する場合

売り手が資産を無条件に買戻す義務を有する場合,買い手は,受け取った資産がいずれは売り手により買戻されることから,その使用方法を指図する権利や資産から便益を享受する能力に著しく制限を受けます。同時に,買い手は,取得した資産のすべてを使用または消費することができません。加えて,買い手が当該資産を第三者に売却することは,当該売却が買戻条件付契約であり,買い手の便益が制限されている場合でない限り,一般的に不可能と考えられます。

理論的には,ほぼ同一の資産を市場で容易に調達可能であり,売り手が公開市場価格で買戻しに同意する場合には買い手は前述のような制約を受けませんが,そのような場合は,現実的には稀であると考えられます。

このように,売り手が買い手から買戻す義務がある場合,買い手は,資産に対する支配を獲得したとはいえません。売り手は,資産の移転に伴い履行義務を充足したことにはならないため,資産の認識を中止することもなければ収益を認識することもありません。そのため,売り手は,このような取引をリースまたはファイナンス取引として認識することになります。

(ア)リースとみなされる場合
資産の当初売却価格よりも買戻し価格のほうが低い場合,売り手は,リース(貸し手)として会計処理をします。買い手(借り手)は,当初の売却価格と買戻し価格の差額をリース料として支払うことにより一定の期間,資産の使用権を得るというリースと同様であるという考えに基づきます。

(イ)ファイナンス取引とみなされる場合
資産の当初売却価格より買戻し価格のほうが高い場合,売り手(借り手)は,対価の差額相当をファイナンス費用(支払利息)として支払っているとみなされ,売り手は,資産を物理的に買い手に渡す義務はないと考えられます。

買戻条件付契約がファイナンス取引であるとみなされる場合,米国基準の会計処理では,サブトピック470-40「製品ファイナンス取引」が適用されますが,IFRSには同様の基準がありません。IAS18号の適用ガイダンスでは,ファイナンス取引の適用可能性を示唆していますが,その会計処理にまでは言及していません。米国基準とIFRSのコンバージェンスを念頭に,IASBの収益認識に関する公開草案において,売り手は,資産を継続して認識すること,また,買い手から得た対価を金融負債として認識すること,売却と買戻しの対価の差額を利息費用または保有コスト(保険の場合)として会計処理することを提案する予定です。なお,この考え方は,米国基準のサブトピック470-40と整合しています。

(2)売り手が資産を無条件に買い戻す権利を有する場合(コール・オプション)

売り手が資産を無条件に買い戻す義務を有する場合

このような買戻し条件付き契約では,買い手は常に売り手に資産を返却することができる状態にある必要があります。そのため,売り手が無条件に買戻しの義務を負う場合と同様に,買い手の立場は相当の制限を受けることから,買い手は,取得した資産に対する支配を有するとはみなされず,売り手は,買戻し条件をリースまたはファイナンス取引として会計処理をしなければなりません。

(3)買い手が,売り手に対して無条件に資産を買い戻すことを要求できる権利を有する場合(プット・オプション)

売り手が資産を無条件に買い戻す義務を有する場合

このような取引では,返品条件付販売契約と同じ会計処理と適用することが提案されています。

買い手は,自らの判断でプット・オプションを行使することができるため,買い手がプット・オプションを行使しないことを決め,取得した資産をすべて使用または消費することも可能であることから,プット・オプションは,資産に対する支配の移転を妨げるものではないと判断されます。

この場合,売り手は,買い手に対して将来の返金にかかる負債を期待値アプローチの見積もり手法により測定し認識するとされています。そして,資産の移転という履行義務に対価を配分します。その結果,売り手の収益は,買い手から得た対価と返金の負債の差額と同額となります。また,売り手は,返金の義務を充足した際に資産の返却を受けるという権利について,資産を認識することになります。

買い手がプット・オプションを行使する可能性は,履行義務に対する対価の配分に影響を与えます。買い手が,プット・オプションを行使しない可能性が高い場合(すなわち,返品の可能性が低い場合)は,売り手は,より多くの収益を認識することになり,また,売り手は,買戻しにより資産を再取得できる権利を相対的に低い金額で測定することになるでしょう。逆に,買い手がプット・オプションを行使する可能性が高い場合(すなわち,返品の可能性が高い場合)は,売り手は,資産の移転に関しては相対的に少ない収益を認識し,資産の買戻しにかかる負債に配分される対価がより大きくなります。売り手は,買戻しにより資産を再取得できる権利について相対的に大きな金額で資産を認識することになります。

また,契約条項や諸事情により,買い手がプット・オプションを行使することが確実な場合(すなわち,返品の可能性が100%の場合),売り手は,以下の会計処理をすることとなっています。

  • 資産の買い手への受け渡しに伴い収益を認識しない
  • 買戻しにより資産を再度取得できる権利(当初売却価格と同額)を資産計上する
  • 買い手から得た対価を負債として認識する

一方,売り手は,買戻条件付契約を返品権と同様に会計処理をするという考え方もあります。場合によっては,契約条項に,買い手は資産に対する使用方法を指図する権利や便益を得る権利を有しないという制限が設けられている場合があります。買い手は,プット・オプションを行使する義務はありませんが,行使しない場合に損失を被る場合もあります。たとえば,売り手が市価90の資産を100で売却し,買い手が当該資産を売り手に110で買戻しすることを要求できる権利を有するような場合が該当します。このような場合,買い手は,資産に対する使用方法を指図する権利や資産から便益を得る権利を持たないと考えられ,経済的には,この取引は先物取引の場合と同様でありリース又はファイナンス取引として会計処理されることになります。

これらの適用ガイダンスを要約すると図表1のとおりです。

【図表1】
  売り手 買い手
(a)売り手が資産の買戻しについて無条件の権利又は無条件の義務を有する場合(先物取引,またはコール・オプション) 支配を保持する 支配を獲得していない
安く売って高く買う場合 →ファイナンス取引の借り手,資産は担保,対価は金融負債,差額が利息費用とみなされる 安く買って高く売る場合 →ファイナンス取引の貸し手,ファイナンス収益を認識する
高く売って安く買う場合 →リースの貸し手 高く買って安く売る場合 →リースの借り手
(b)買い手が売り手に対して資産の買戻しを無条件に要求する権利を有する場合(プット・オプション) 支配を買い手に移転している 返品条件付販売契約と同様に収益を認識する 支配を獲得している

以上が,2010年5月のIASB及びFASB合同会議での仮決定事項です。買戻条件付契約の会計処理について,今後公表予定の収益認識に関する公開草案には前述のような適用ガイダンスが含まれると思われますが,公開草案に対するコメント内容次第で最終的な新基準の内容が大幅に変更される可能性もありますので成り行きを注視する必要があります。

こちらは、『週刊経営財務』2970号(2010年06月14日)にあらた監査法人企業会計研究会として掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載·転用はご遠慮ください。