第5回 財務諸表の表示(2010年2月~3月の動向)

1.財務諸表の表示プロジェクトの経緯

本連載は,主にIASB及びFASB月次合同会議等での討議内容に基づき最新のIFRSをめぐる動向を伝えることを目的としています。今回は,財務諸表の表示に関するプロジェクトの動向について解説します。

財務諸表の表示プロジェクトは,2001年に財務諸表の有用性を向上するため財務業績報告というプロジェクトとしてIASBとFASBがそれぞれ活動を開始したものであり,その後2004年には,国際的な会計基準へのコンバージェンスを促進するためにIASBとFASBの合同プロジェクトとして,フェーズAからCまでの3段階に分けて合同で取り組むことが決定されました。フェーズAでは,主に財務諸表一式に含まれる計算書及び比較対象期間の決定等が取り扱われ既に完了しています。フェーズBは,現在進行中であり,主要な財務諸表をどのように表示するべきか,より根本的で具体的な項目,例えば表示項目の統合と分割に関する考え方やキャッシュ・フロー計算書における営業キャッシュ・フローを間接法又は直接法により表示すること等が検討されています。2008年10月には,IASBとFASBからディスカッション・ペーパー「財務諸表の表示についての予備的見解」(以下「DP」という)が公表され,2009年4月にコメントが締切られた後は,主に月次のIASBとFASBの会議等で検討が進められています。なお,今後フェーズCでは,四半期を含む中間財務報告について検討される予定です。

今回は,DP公表後の月次合同会議等における仮決定事項のうち,2010年2月および3月の会議における仮決定事項について解説します。これらは,あくまでも仮決定であり,今後のIASBやFASBの討議次第で大幅な変更や修正がなされる可能性があることに注意が必要です。また,2月および3月の月次合同会議の仮決定事項を網羅的に解説するものではないことにご留意ください。

2.重要な資産・負債の変動要因の分析についての表記

2月の月次合同会議では,2009年10月の月次合同会議で仮決定された全ての重要な資産と負債の表示項目についての変動要因の分析の注記に関する,より実務的な指針が討議され,今後公表予定の公開草案(ED)では,以下の項目について明確にされるべきであるということが仮決定されました。これにより,より具体的な変動要因の分析についての注記方法が明確になりました。なお,この変動要因の分析についての注記は,当初DPにおいて提案されていたキャッシュ・フロー計算書と包括利益計算書の調整表に置き換わるものです。

・各資産・負債項目に関連した注記の中でその他の関連情報とともに変動要因の分析を表示してもよい。たとえば,有形固定資産(建物及び構築物,機械装置等)の変動要因の分析は,有形固定資産の注記の一部として開示してもよい。

・当期における変動要因の分析には,比較対象年度である過年度の変動要因の分析も含める。

・資産又は負債が財務諸表の注記でその変動要因の分析を要するか否かにかかわらず,既存のIFRSの他の基準又は米国基準で要求されている特別な項目の調整表は必ず注記しなければならない(例:IAS第16号で要求されている有形固定資産の期首から期末までの増減明細表の作成は,財務諸表の表示で要求される重要な資産・負債の変動要因の分析の要否にかかわらず注記する。)。

・既存のIFRSの他の基準又は米国基準で要求されている特別な項目の調整表を作成する場合には,企業は,その調整表が財務諸表の表示で必須となっている変動要因の分析の一部であるかどうかを検討しなければならない。

・変動要因の分析においては,項目毎に分割した情報を提供しなければならない,たとえば,再測定による変動を再測定以外の変動と合算してその理由を説明してはならない。

なお,2月の合同会議では,「再測定とは,現在の価格(Price)又は価値(Value)の変動,現在の価格又は価値の見積りの変動,又は,資産・負債の簿価を測定又は見積もる方法の変動の結果,資産・負債の帳簿価額の変動を包括利益として認識する金額」であると定義し,さらに,通常の棚卸資産の販売等は,再測定に含めないことが仮決定されました。財務諸表の表示プロジェクトでは,再測定という用語が頻繁に使われていますが,ここで改めて定義が明確になったといえます。

3.新たなサブカテゴリー「営業活動から生じる財務」の提案

2009年12月の合同会議において,財政状態計算書と包括利益計算書の「事業セクション」内に「営業活動から生じる財務カテゴリー(financing arising from operating activities)」を新たに設け,同時にキャッシュ・フロー計算書上,当該新カテゴリーに関連するキャッシュ・フローは,「営業及び営業活動から生じる財務活動カテゴリー」に含めることを仮決定しましたが,2010年2月の合同会議では,当該新項目は,独立した事業セクション内のひとつのカテゴリーではなく,財政状態計算書と包括利益計算書の営業カテゴリー内のサブカテゴリーとし,関連するキャッシュ・フローは,営業カテゴリーに含めることが仮決定されました。これは,新サブカテゴリーに含まれる例えば退職後給付の年金制度に関連するキャッシュ・フロー等が営業活動と財務活動に明確に区別して識別できないという理由に基づきます。

また,当該サブカテゴリーは,以下の3つの要件を満たす全ての負債(負債の決済目的として紐付けられる資産を含む)を含むことが明確にされました。その3つの要件とは,(1)「財務(ファイナンス)」の定義を満たさない,(2)認識当初長期性の負債であること,かつ,(3)現在価値への割引部分があること(金利や,時間の経過による割戻しで裏付け可能)となっています。具体的にこの新サブカテゴリーに含まれる項目は,財政状態計算書上は,年金債務純額(または前払年金費用),リース債務,資産除去債務,株式報酬以外の繰延報酬制度による債務等,包括利益計算書上は,年金費用,リース債務に関連した利息費用,資産除去債務の割戻し相当分,繰延報酬制度に関する債務の割戻し相当分等となっています。

また,財務セクションの中の負債(Debt)カテゴリーには,企業自身の持分(未払配当金や自己株式の売建オプション等)に関連する資産や負債を含むことが仮決定されました。新たに提案されている財務諸表のイメージは次の表を参照してください。

図:提案されている財務諸表のイメージ(2010年2月IASB Staff Paper 4Cより抜粋)
財政状態計算書 包括利益計算書 キャッシュ・フロー計算書
事業セクション
(Business)
事業セクション
(Business)
事業セクション
(Business)
営業カテゴリー 営業カテゴリー 営業カテゴリー
(営業活動から生じる財務サブカテゴリー関連は営業カテゴリーに含まれる)
・営業活動から生じる財務サブカテゴリー ・営業活動から生じる財務サブカテゴリー
投資カテゴリー 投資カテゴリー 投資カテゴリー
財務セクション
(Financing)
財務セクション
(Financing)
財務セクション
(Financing)
負債(Debt)及びその他 負債(Debt)及びその他 負債(Debt)及びその他
所有者持分   所有者持分
  複数カテゴリー取引の影響 複数カテゴリー取引の影響
法人所得税セクション 法人所得税セクション 法人所得税セクション
非継続事業セクション 非継続事業セクション(税引後) 非継続事業セクション
  その他の包括利益セクション(税引後)  

4.比較対象年度の取り扱い

3月の合同月次会議では,以下の2項目が仮決定され,それぞれ今後公表予定のEDで明確にされる予定です。

・IFRSで要求される完全な財務諸表一式には,当期に加えて比較対象年度として前期1期分だけが要求される。追加の比較対象年度を表示することは,それにより財務諸表の利用者に誤解を招くことがなければ可能であるが,IFRSで必須とされている財務諸表と同等に目立つように表示しなければならない。また,比較対象年度の期首の財政状態計算書の表示が必要な場合は,会計方針の変更や修正,表示の変更により遡及修正する場合に限定されることをEDにおいて明記する。

・その他包括利益が非継続事業に関連する,又は今後関連すると見込まれる場合には,包括利益計算書において非継続事業として表示されるべきであることをEDにて明記する。

5.IASBとFASBの見解の相違点

財務諸表の表示は,IASB及びFASBの合同プロジェクトですが,現行の基準との兼ね合い等により以下の相違点があります。

・財務諸表の注記に,負債純額(net debt)情報をFASBは要求しないがIASBは要求する。

・財政状態計算書に最低限必要な表示項目をFASBは要求しないがIASBは要求する。

・セグメント別の営業資産負債及びキャッシュ・フローの開示をFASBは要求するがIASBは要求しない。

このような差異の一部を極力解消するために,FASBは,包括利益計算書の独立した列に再測定に関する情報を独立表示することを要求するという仮決定を修正し,財務諸表の本体ではなく注記に再測定に関連する情報を表示するという案に同意することを仮決定しました。

一方,IASBも,FASBのセグメント別の開示とのコンバージェンスを図るため2009年10月の仮決定を修正し,2つ以上のセグメントを有する企業は,収益と費用の性質別情報をセグメントの注記ではなく財務諸表の注記項目として開示することにしました。これにより,同様の情報をセグメントの注記に表示する方針を再確認しているFASBとの差異は解消されていないため,IASBは,2011年に予定しているIFRS第8号「セグメント」の再検討において,現行のセグメント情報の開示要件をFASBのトピック280 「セグメント報告」に合わせて見直すことを考えています。

6.経過措置と初度適用

IASBとFASBは,財務諸表の表示に関するEDにおいて,全面的に遡及適用を提案する予定です。早期適用の可否については今後検討する予定となっていますが,IASBは,初度適用企業は,財務諸表の表示に関する新基準を早期適用できることを仮決定しました。また,IASBは,IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」との関連で,IFRSを初度適用する企業に対して財務諸表の表示に関するEDについてのいかなる例外事項も免除事項も認めるべきではないとしています。

7.今後の動向

IASBのウェブサイト上の財務諸表の表示プロジェクトに関する情報では,2010年4月または5月にEDを公表する予定となっています。また,FASBのウェブサイト上では,ED公表予定は2010年5月となっています。

こちらは、『週刊経営財務』2964号(2010年04月26日)にあらた監査法人企業会計研究会として掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。