第3回 連結会計

1.連結プロジェクトの経緯

本連載は,主にIASB及びFASB合同会議等での討議内容に基づき最新のIFRSをめぐる動向を伝えることを目的としています。今回は,連結会計に関するプロジェクトの動向について解説します。

連結会計は,2003年6月にIASBのアジェンダに加えられ,プロジェクトとして開始されました。このプロジェクトの目的は,連結に関する単一の基準書を公表し,IAS第27号「連結及び個別財務諸表」及びSIC第12号「連結特別目的事業体」の規定を置き換えることです。IASBとしては,以下の原則を念頭に基準策定を進めています。

(a)連結は,親会社及び子会社が,あわせて単一の事業体であるかのように報告するという原則を重視すべきである。
(b)子会社に該当するかどうかの識別は,支配を基礎として行うべきである。
(c)単一の事業体のみが他の事業体を支配可能である。つまり,支配の共有は不可能である。
(d)支配を識別するための要件は,連結財務諸表に関する単一・包括的な基準書にて規定し,すべての事業体に対して首尾一貫して適用すべきである(本稿では,以下,「企業」は「事業体」と同義として使用するものとする)。

当初,討議資料を経て公開草案を公表するという運びだったものの,金融危機に対応するために予定を早め,討議資料は公表せずに公開草案を公表することとなりました。IASBの公開草案(ED)は,2008年12月にED第10号「連結財務諸表」として公表され,2009年6月には認識中止プロジェクトとあわせて円卓会議(ラウンドテーブル)も開催されました。その後,IASBは,コメントで提起された問題点に関する審議を2009年7月に開始しています。

一方,FASBとのコンバージェンスに関しては,2009年10月のIASB及びFASBの合同会議にて,それぞれの連結プロジェクトを合同で進めていくことが合意され,さらに2009年11月には,IASB及びFASBが共同声明を公表し,以下の予定が発表されました。

(ⅰ)2010年第2四半期に公表予定のFASBの公開草案に関して,IASBも意見を募集すること
(ⅱ)2010年第2四半期にIASBの最終基準案のスタッフドラフトを公表すること

これらは,IASBとFASBが,最終的にコンバージェンスした基準を公表できるようにするための措置となります。

2.支配の定義

これまでのIASBの議論において,「支配」は以下の定義とすることが仮決定されています。

・報告企業が自らのためにリターン 1) を生み出すように,他の企業の活動を指図する「パワー」を有している場合,当該報告企業は,当該他の企業を「支配」している。

上記の定義を使用して「支配」を識別するにあたっては,「パワー」を保有しているかどうかが問題となります。この「パワー」は以下の特徴を有することが仮決定されています。

(1)パワーは,リターンに重要な影響を及ぼすような他の企業の活動を指図する際に,自らの意思を強制する,報告企業の現在の能力をいう。
(2)パワーは,絶対的なものである必要はない。
(3)パワーは,現在の事実及び状況を基礎として評価される。

1)ここでいう「リターン」は,プラスにもマイナスにもなり得る。

3.議決権の過半数を有していない場合の扱い

2010年1月のIASB及びFASB合同会議では,支配の定義・パワーの特徴(上記2.参照)をふまえ,議決権の過半数未満しか保有していない場合の扱いが議論されました。2010年1月の会議の傍聴者用資料によると,以下の見解が存在しています。

(1)契約上の権利に基づく見解
(“contractual rights’ view”)
(2)主要株主に基づく見解
(“dominant share-holder’ view”)

(1)契約上の権利に基づく見解
この見解は,他の企業の議決権の過半数未満のみ保有している報告企業は,他の契約上の権利を有しない限り,当該他の企業の活動を指図するパワーを持つことはあり得ない,という考え方です。議決権の過半数未満のみ保有し,かつ他の契約上の権利もないような場合には,契約上,当該他の企業の営業及び財務の方針に参加する権利を有していないという理由によるものです。

ここで,報告企業が他の企業の議決権の過半数未満のみ有していて,かつ当該他の企業の活動を指図している場合,報告企業以外の株主(他の株主)をどのようにとらえるかが問題となります。この「契約上の権利に基づく見解」では,他の株主の立場を,消極的な多数株主に類似したものと考えています。つまり,他の株主は,報告企業が自己(他の株主)の意思に沿って行動している限りは,報告企業が当該他の企業の活動を指図することを容認しているものの,もしも報告企業が他の株主の意思に反した行動をとるような場合には,他の株主は報告企業の行動に対して反対票を投じ,報告企業による活動の指図を妨げることができるだろうと想定しています。

この見解では,他の株主が,報告企業による活動の指図を妨げるという目的を達成するために,必ずしも組織的な行動をとる必要はないと考えます。もし報告企業の行動によって他の多数の株主の共通の利益が影響を受けるようであれば,他の株主それぞれが投票することで,(たとえ他の株主が組織的な行動をとらなくとも)報告企業の行動は十分にブロックされるだろうということです。従って,仮に他の株主が広く分散していたとしても,その事実を理由に支配が存在するという結論には至りません。

これに対し,他の株主が分散していること等を前提に,過半数未満のみ保有する株主であっても支配を有することがあると主張するのが,次の「主要株主に基づく見解」の支持者になります。

(2)主要株主に基づく見解
こちらの見解では,他の企業の議決権の過半数を保有しておらず,かつ,他の契約上の権利も有していない場合であっても,当該他の企業の活動を指図するパワーを持つことがあると考えます。この考え方は,企業,特に上場企業の統治機関のメンバーは,株主総会において多数決で任命されることが多いことに着目します。従って,比較的多くの少数株主を有する報告企業であれば,例えば他の株主が集合して支配をもつような組織的行動を行っていない場合には,活動を指図する能力を持つことがあると考えるわけです。この見解の支持者は,経済的実態をより適切に表すためにはこのようなアプローチが適切と考えるようです。

この見解の問題点は,報告企業が有する過半数未満の議決権によって,はたして他の企業の活動を指図するだけの能力が与えられていると言えるのかどうか,判断が難しいというものです。つまり,実務での適用が難しいといえます。過半数未満の議決権のみ有している報告企業が,他の企業の活動を指図するパワーがあると自信をもって主張できるのかどうか,また判断を下すためのガイダンスはどうなるのか,という懸念もあります。

2010年1月の合同会議の結果,以下の点が仮決定されました。

(a)(IASB及びFASBの合意)議決権を通じて支配を評価する際は,以下のとおり取り扱う。
(ⅰ)他のアレンジメントがない場合に,他の企業における議決権の過半数を有する報告企業は,支配の定義におけるパワーの要素を満たす。
(ⅱ)他の企業の議決権の過半数を有しない報告企業が,リターンに重要な影響を及ぼす当該他の企業の活動を指図できる法律上または契約上の能力を有する場合,当該報告企業は,支配の定義におけるパワーの要素を満たす。

(b)(IASBのみの合意)他の企業の議決権の過半数を有しない報告企業は,以下の2つを両方満たす場合において,支配の定義におけるパワーの要素を満たす。
(ⅰ)報告企業が,他の株主あるいは組織化された株主グループよりも,非常に多い議決権を有している。
(ⅱ)他の株主が広く分散している。

(c)(FASBのみの合意)他の企業の議決権の過半数を有しない報告企業が,支配の定義におけるパワーの要素を満たすためには,リターンに重要な影響を及ぼす当該他の企業の活動を指図したことを証明しなければならない。

上記の決定は,基本的に「主要株主に基づく見解」が採用されたものの,議決権の過半数を有しないケースにおいて指図の証明を要求するかどうかに関して,IASBとFASBとで異なる仮決定がなされているといえます。FASBの仮決定は,「主要株主に基づく見解」の適用が難しいという懸念に対処するために,指図の証明を要件として要求しているようです。

4.今後の予定

1.に記載したとおり,IASB及びFASBはコンバージェンスした基準を作成すべく作業を進めていますが,最終基準書は2010年後半に公表される予定となっています。

なお,この文章中の仮決定は全てIASBのホームページ上等で一般に公表された情報に基づくものですが,今後のIASB及びFASBの審議の過程で異なる結論となる可能性がある点にご留意願います。

こちらは、『週刊経営財務』2960号(2010年03月29日)にあらた監査法人企業会計研究会として掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載·転用はご遠慮ください。