IASBが保険契約の会計処理の抜本的な変更を提案
2010年07月30日
何が問題となっているか?
国際会計基準審議会(IASB)は、保険者ならびに保険リスクを伴う契約を発行している企業の会計を、抜本的に変更する包括的な会計基準の公開草案を公表しました。 この提案は、ひとつに収斂された保険契約に関する会計基準を制定するための、IASBとFASBによる共同の取組みの成果です。 米国財務会計基準審議会(FASB)は、IASBの提案を取り込んだディスカッション・ペーパーを公表する予定です。 この基準案は、現在、保険契約に関して多様な会計処理を許容する国際財務報告基準(IFRS)第4号に置き換わるものです。
基準案の適用範囲
この基準案は保険リスクを包含する契約を発行している企業のすべてに適用されます。 当公開草案はIFRS第4号に定める「ある主体が、他の主体から、特定の不確実な将来事象が保険契約者に不利益を与えた場合に保険契約者により補償を行うことを同意することにより、重大な保険リスクを引き受ける契約」とする保険契約の定義を維持しています。 この広範な定義により、保険会社以外の企業にもこの会計基準が適用される可能性があります。 例えば、ある種の金融保証契約や死亡による支払免除条項を伴う貸付金については、この会計基準の適用を受ける可能性があります。 しかし、IFRS第4号とは異なり、サービスの提供が不確実な将来の事象に依存する固定手数料サービス契約(故障により特定の部品が補修されるメンテナンス契約など)はこの基準案の適用範囲には含まれないでしょう。 またこの公開草案は、保険契約者による会計(再保険を除く)については取り扱っていません。
保険契約は、他の要素(金融もしくはサービスに関する構成要素など)を含むことがあります。 これらの構成要素が保険の補償に密接に関係しない場合には、区分し個別に会計処理することが要求されます。 特に、IAS第39号による組込デリバティブや、特定の契約者勘定は区分処理が要求されるでしょう。
測定モデル
この公開草案は、すべての保険契約について、義務を履行するため予想キャッシュ・フローの現在価値で測定することを要求しており、その見積り額は、各報告期末において再測定されます。 特定の短期契約を除き、この測定モデルは、確率により加重平均された割引キャッシュ・フロー、リスク調整および初期利益を排除するための残余マージンのビルディング・ブロックに基づきます。
キャッシュ・フローは、保険者が契約の履行に際して発生すると予想する、明示的で偏りのない確率により加重平均されたキャッシュ・フローであり、見積保険料、保険契約者への給付、経費および配当が含まれます。 市場における変動要素については観察可能な市場価格と同一であることが要求されますが、従前のディスカッション・ペーパーにおける提案とは異なり、キャッシュ・フローは、市場の参加者の観点からではなく保険者の観点から測定されます。 契約獲得費用は、コミッションなど契約獲得に関する増分に限定され、個別の資産として繰り延べられるのではなく、正味キャッシュ・フローに含まれます。 しかし、その他のすべての契約獲得費用は、発生時に費用として処理されます。
予想キャッシュ・フローは、保険契約の流動性と対応するリスクフリー商品との差異を調整したリスクフリー金利で割り引かれます。 この割引率は、資産運用の結果が保険契約者に対するキャッシュ・フローに影響を与えない限り、保険契約に対応する資産に基づきません。
測定モデルは、将来キャッシュ・フローの時期および金額に関する不確実性の影響にかかる明示的なリスク調整を含んでいます。 この調整は、最終的なキャッシュ・フローが予測値を超えるリスクから開放されるために、保険者が支払うであろう金額の最大値とされています。 明示的リスク調整を含む点は、審議会における検討において、最も見解に相違がある点の一つです。 公開草案ではこの調整を計算するための手法を限定しています。 残余マージンは、保険契約に基づくいかなる初期利益も消去します。 残余マージンは、事後的に再測定されるのではなく、補償期間にわたり一定の方法でリリースされます。 保険契約に基づくいかなる初期損失も直ちに純損益に認識します。
リスク調整に関する審議の結果、この公開草案はFASBにより提案されている代替的な測定モデルについて説明しています。 このモデルにおいても、いかなる初期利益は消去され、明示的リスク調整と残余マージンを認識せずに複合マージンを認識します。
この公開草案は、いかなる組込デリバティブまたはオプションも含まない約12ヶ月の短期契約に関しては、当初は保険料から増分の契約獲得費用を控除した金額で認識することを要求しています。 この保険金発生前負債は、保険の補償期間にわたり一定の方法に従って減少されます。 発生した保険金については、上述のビルディング・ブロック・アプローチを適用して測定します。
各期末において、割引かれた将来見積キャッシュ・フローおよびリスク調整は直近の見積りに基づいて更新されます。 金融変数(割引率など)やその他の見積り(経費や保険金の実績、失効、およびリスク調整など)のいかなる変更も、直ちに純損益に認識されます。
損益計算書の表示
この公開草案では、損益計算書の様式は測定モデルによることが提案されています。 発行者は、(短期契約について簡便的アプローチを適用している場合を除き)保険料を収益として計上することはせず、引受マージン(リスク調整および残余マージンの変更を含む)、見積りの変更および実績値の相違を独立して表示します。 補足的な開示において、保険料および保険金の情報が提供されます。
経過措置
この公開草案には、経過措置が含まれます。 経過措置は、移行日時点で有効な保険契約について、(繰延契約費用控除後の)残余マージンを除いた予想キャッシュ・フローの現在価値および明示的リスク調整により測定することを要求しています。 これは、移行時に存在する契約の利益は将来損益として認識され、リスク調整からのリリース、実績値の相違および事後の見積りの変更によりもたらされることを意味します。 これは、多くの生命保険者にとって重要な変更となります。
どのような影響があるか?
この公開草案は、保険契約(金融保証契約を含む)の定義を満たす契約を発行する企業に影響を与えるでしょう。 この公開草案により、損益計算書におけるボラティリティが増加し、また損益計算書の表示に重大な変更が生じる可能性があります。 また公開草案により、追加的に必要なデータやモデリングのためのシステムに対する要求が生まれるでしょう。 これらの要求の程度は、現在適用している会計および法的な財務報告要件によって、それぞれの地域ごとに異なります。
何をすべきか?
提案された変更により重要な影響が予想されるため、経営者は、新しいモデルが現在の契約や現在のビジネスモデルに与える影響についての評価を開始する必要があります。 また経営者は、重要な変更に関する自身の見解が考慮されるよう公開草案に対してコメントすることを検討する必要があります。 コメントレターの提出期限は2010年11月30日であり、現在のところ2011年の中頃に最終基準が公表される予定です。