従業員給付費用の認識、測定および開示に関する重要な変更案

2010年04月30日

何が問題となっているか?

国際会計基準審議会(IASB)は、従業員給付費用の認識、測定および関連する開示に関して重要な変更を提案する公開草案(以下、ED)を公表しました。今回のIAS第19号「従業員給付」の改訂は、2008年に公表されたディスカッション・ペーパーに続く、IAS第19号を改訂するIASBプロジェクトの最新のステップです。この変更案は、ディスカッション・ペーパーで説明されている概念ほど広範囲にわたるものではありませんが、従業員給付費用の認識と測定を大幅に変更し、開示要件を拡大するものです。
主な提案は以下のとおりです。

  • 数理計算上の差異の認識:数理計算上の差異は、「その他の包括利益(OCI)で即時認識されます。退職後給付の数理計算上の差異の遅延認識を認めるIAS第19号の「回廊およびスプレッディング(corridor and spreading)」オプションは禁止されます。現在退職後給付で許容され、またその他の長期給付では要求されている、損益における即時認識も禁止されます。OCIで認識される数理計算上の差異は、その後の会計期間においては純損益を通じてリサイクルされません。
    数理計算上の差異は、年金およびその他の長期従業員給付債務の測定で使用される仮定の変更、および以前の仮定と実際の当期発生額の差異の両方から生じます。これらの仮定には、例えば、給与や年金および死亡率の増加ならびに割引率の見積に関する仮定などが含まれます。変更案は、現在「回廊およびスプレッド」法を用いている企業において、貸借対照表および包括利益合計のボラティリティが増加することを意味しています。
  • 過去勤務費用の認識:従業員給付制度が改訂された場合、すべての過去勤務費用は純損益に認識されることになります。過去勤務費用は、従業員がすでに提供した勤務に対して追加給付を行うように給付制度の条件が改訂された場合に発生します。これらの追加給付は、従業員が将来の勤務を提供することが条件となる場合があります。現在IAS第19号は、過去勤務費用を将来の勤務が提供されるまで定額法で認識するか、または将来の勤務が要求されない場合は即時認識することを要求しています。この提案は、もはや過去勤務費用を将来の勤務期間にわたりスプレッドさせることができず、制度改訂が行われる期間の純損益のボラティリティが増加することを意味しています。
  • 年金費用の測定:制度資産の期待運用収益および年金債務の利息費用は、積立年金債務に伴う財務費用の新しい算定方法に置き換えられることになります。制度資産の期待運用収益は、積立制度に保有されている資産からの期待利益とそれらの資産の公正価値の変動です。現在IAS第19号は、制度資産の期待運用収益を制度の年間費用の一項目にすることを要求しており、当期の期待運用収益と実際収益の差異は数理計算上の差異として処理されます。
このEDは、利息費用または利息収益の純額は、制度の資産と負債の純額に適切な割引率を乗じて算定するよう提案しています。この割引率は、優良社債の活発な市場がある場合には当該優良社債利回り、そして、そのような市場がない場合には国債利回りとなります。未積立制度の利息費用の測定については変更されません。
この提案により、積立年金制度が保有する資産から稼得された収益は、年金債務の現在価値への算定に使用されるものと同じ割引率を用いて算定されることになります。この金額と当期の実際収益の差異は、引き続き数理計算上の差異として会計処理されることになります。制度資産の期待運用収益は通常は割引率よりも高く、そのため提案されている変更によると、積立制度を有する大多数の事業体においては、純損益で認識される年金費用が増加することになります。
  • 年金費用の表示:IAS第19号は、年金費用の構成要素が純損益のどの科目で認識されるかという柔軟性が除去されるよう改訂されます。当期に発生した給付費用(勤務費用)および給付の変更(過去勤務費用および制度の縮小)は、営業費用として認識されます。利息費用または利息収益は、財務費用の項目として認識されます。その他のいかなる再測定(数理計算上の差異、資産の上限および制度の清算の影響)は、OCIに税引後の金額で認識されます。
  • 開示:事業体の給付制度の特徴、財務諸表で認識された金額、ならびに確定給付制度および複数事業主制度から生じるリスクが表示されるよう追加の開示が要求されます。変更案は、在職中の長期未払給付ならびに退職後給付も開示の対象としており、多くの事業体では開示の量が増加すると考えられます。

どのような影響があるか?

この変更案は、確定給付制度にIAS第19号を適用するすべての事業体に影響を与えることになります。影響は、以下に示すとおりです。

  • 給付債務に関する情報を財務諸表において表示する方法が変更される。
  • 数理計算上の差異の認識について現在「回廊およびスプレッド」オプションを用いている企業の退職後給付債務と包括利益合計のボラティリティが増加する。
  • 多くの積立年金制度の年金費用純額が増える。
  • 一部の企業で計上されている従業員給付費用の表示科目が変更される。
これらの提案により、EBITDA、1株当たり利益、貸借対照表比率などの多くの業績指標が大きく変化する可能性があります。経営者は、変更案による影響およびそれらの変更を、どのように株主やその他の財務諸表利用者に伝達するかを判断しなければなりません。

何をすべきか?

コメント提出期限は、2010年9月6日です。最終基準は、2011年に公表される予定です。提案されている変更は、確定給付制度を有する企業にとって重要です。経営者は、この提案に対しコメントを提出するかどうかを検討すべきでしょう。