KeyWord8 引当金

質問国際財務報告基準における引当金の会計基準はどのようになっていますか。また、日本の基準とは何か違いがありますか。

答

日本基準では、企業会計原則注解18において、将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れられるとされています。また、その具体例として、製品保証引当金、返品調整引当金、賞与引当金、修繕引当金等が挙げられています。しかしながら、注解18以外には直接引当金の会計処理を取り扱う規定が少なく、実務慣行に委ねられた部分も多いといえます。そこで、企業会計基準委員会から引当金に関する会計基準の見直しを検討するために「引当金に関する論点の整理」が平成21年(2009年)9月に公表され同年11月にコメントが締め切られました。

これに対して、国際財務報告基準(IFRS)では、偶発事象及び引当金の会計処理を包括的に取り扱ったIAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」が1998年に公表されています。ここでは、IAS第37号で規定されている引当金の主要な会計処理を示し、あわせて日本基準との比較を行っていきたいと思います。

1.引当金の定義及び認識

IAS第37号では、引当金は支出の時期または支出の金額が不確実な負債と定義されています。このため、支出の時期または支出の金額が確実な買掛債務や、支出の時期または支出の金額に見積りを要するものの不確実性が少ない未払費用とは区別されます。

次に認識基準、つまり財務諸表に引当金を計上するための要件ですが、IAS第37号は次の3つを示しています。

現在の債務 過去の事象の結果として企業が現在の債務を有している。
発生の可能性 当該債務を決済するために経済的便益を持つ資源の流出が必要となる可能性が高い。
見積可能性 債務の金額について信頼しうる見積りができる。

IAS第37号の1番目の認識の要件は、現在の債務であることです。しかし、日本基準では注解18で例示されているように修繕引当金など、貸借対照表日では必ずしも現在の債務があるとはいえないものも引当金に計上されます。

2番目の要件について、IAS第37号では資源の流出が起こらない可能性よりも、起こる可能性が高ければ、発生の可能性が高いとみなされるとしています。このことは、50%超の発生の可能性があれば引当金が認識されることを意味しています。

上記は、他の負債と区別して以下のように図示することもできます。なお、偶発負債に分類される場合、会計上負債は認識されません。

資源流出の発生の可能性

日本基準でも発生の可能性が高いことが引当金の認識要件となりますが、IAS第37号のように具体的な指標が明示されておらず実務慣行に委ねられているということができます。

2.引当金の測定

引当金の認識要件が満たされると、その金額の測定が行われます。IAS第37号は、引当金の測定値を現在の債務の決済に要する支出の貸借対照表日における「最善の見積り」としています。

IAS第37号は、最善の見積りを行うために将来のキャッシュ・フローの見積りや貨幣の時間的価値の反映を行うことを要求しています。

(1)キャッシュ・フローの見積り

母集団の大きい項目、たとえば製品保証を行っているような場合は、当該債務のすべての起こり得る確率を考慮して、それぞれに関連する確率により加重平均して将来キャッシュ・フローの見積りが実施されることになっており、統計学的手法である「期待値」の考え方が導入されています。

一方、単一の債務を見積る場合には、最も発生の可能性の高い結果が最善の見積りとなりますが、このような場合でも他の結果を考慮しなければならないとされています。たとえば、顧客のために建設した工場について工事補償をしているとします。もし、欠陥が生じた場合に当初修理するために要する費用が1,000であり、それが最も発生の可能性が高いとしても、追加的修理が必要とされる可能性がかなり高い場合には、追加修理を考慮して引当金が測定されます。

(2)貨幣の時間的価値

貨幣の時間的価値の影響が重要な場合には、引当金の金額は債務の決済に必要と予想される支出の現在価値でなければならないとされています。たとえば、債務の決済が期末日よりも2年後であるような場合については、将来の支出額は割り引かれて現在価値で計上されることになります。

上記のとおりIAS第37号は引当金の対象となる項目の母集団の大きい場合の見積り方法として、「期待値」の考え方を導入していますが、日本基準の下ではこのような見積りの手法は一般的ではないと考えられます。貨幣の時間的価値の考え方については、企業会計基準委員会から平成20年(2008年)3月に公表された「資産除去債務に関する会計基準」において導入されており、決済までに長期にわたる項目についてはこれを考慮する会計処理が今後一般化するものと考えられます。

3.リストラ引当金

IAS第37号では、事業部門の撤退や売却や組織変更などいわゆるリストラを実施した際に発生する費用等について規定を設けています。

IAS第37号は、このようなリストラ引当金を認識する要件として以下を挙げています。

正式な計画の存在 企業がリストラについての詳細な正式計画を持っている。この計画では、関係する事業、影響を受ける主な事業所、雇用契約終結により補償を受ける従業員の勤務地・職種・概数、支出予定時期及び計画実施時期などが明確に識別できるものでなければならない。
計画の周知 計画の実行に着手するか、それによって影響を受ける人々に計画の主要な内容を周知することによって、企業がリストラを実行するという確実な期待をその影響を受ける人々に与えている。

上記の認識要件は、リストラ費用が通常多額となる場合が多く、その認識時点は企業にとって重要であることから、引当金の一般的な認識要件を具体化して規定されたものです。日本基準ではリストラ引当金についての具体的な規定はなく実務に委ねられていますが、上記の規定は日本の実務においても参考になるものと考えられます。

4.IAS第37号の改訂

2005年にIAS第37号を改訂する公開草案が公表されています。この改訂は、米国基準においてリストラ引当金を取り扱ったFAS第146号「退出又は処分活動に関連するコストに関する会計処理」とのコンバージェンスを目的としてIAS第19号「従業員給付」の一部である解雇給付の改訂公開草案と合わせて公表され、また偶発資産、偶発負債の取り扱いについて、企業結合時に生じるこれらの項目と関連付けて見直しを行うことを目的としています。2005年の改訂案では、3つの引当金認識要件から「発生可能性が高い」という蓋然性の要件を削除すること、引当金という用語に代わり「非金融負債(Non-financial liabilities)」という用語を使うこと等が提案されています。2010年1月には、さらに負債の測定に限定した改訂案が公表され、負債の測定は、最善の見積りではなく、期待値アプローチに統一すること等が提案され、コメント締め切りは2010年5月19日でした。この負債の測定を期待値アプローチに統一する提案に対しては反対コメントが多く、IASBは2010年2月に、訴訟から生じる負債の認識に関する非公式のスタッフ・ペーパーを公表し追加の解説をしました。

今後、非金融負債に関するプロジェクトは2011年下期以降に討議が再開され、早ければ2012年中に現行のIAS第37号に置き換わる新基準が公表される予定になっています。

*このQ&Aは、『週刊 経営財務』 2867号(2008年04月28日)にあらた監査法人 企業会計研究会として掲載した内容に一部加筆・修正を行ったものです(2011年3月末時点の最新情報)。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。