関連当事者に関する会計基準としては,国際財務報告基準ではIAS第24号「関連当事者についての開示」(2009年11月改訂、2011年01月01日以後開始事業年度から適用、早期適用が可能)により定められています。
わが国では,企業会計基準第11号「関連当事者の開示に関する会計基準」及び同適用指針が,2008年04月01日以後開始する連結会計年度及び事業年度から適用されています。これにより国際財務報告基準と日本基準の差異は大幅に縮小されましたが,関連当事者の範囲や開示の内容・範囲において、なおいくつかの点で差異があります。
本稿では,IAS第24号の概要を説明し,合わせて日本基準との主要な差異についても紹介します。
2009年の改訂前のIAS第24号では、関連当事者の範囲に関する規定が複雑でしたが、改訂により、より平易な表現でわかりやすくなりました。
以下の表1-1及び表1-2において、IAS第24号の関連当事者の範囲を示し,合わせて日本基準との主な対応関係や差異を説明します。
| IAS第24号「関連当事者についての開示」 (2009年11月改訂) 第9項より抜粋 |
日本基準 「関連当事者の開示に関する会計基準」 (企業会計基準第11号) (以下、「会計基準」又は「日本基準」) |
| (a)個人またはその近親者が次のいずれかに該当する場合には、報告企業と関連がある。 (i) 報告企業を支配又は共同で支配している、 (ii) 報告企業に対する重要な影響力をもつ、 (iii) 報告企業又はその親会社の経営幹部である |
日本基準では、会計基準第5項(3) において以下の規定があり、いくつかの点においてIAS第24号と差異があります。 (6)主要株主及びその近親者 (7)役員及びその近親者 (8)親会社の役員及びその近親者 (9)重要な子会社の役員及びその近親者 |
IAS第24号における個人の「近親者」とは、企業に対して影響を与えるか、または影響を受けることが想定される家族の一員であり、以下の(a) ~ (c) を含む、とされています。
(a) 個人の子及び配偶者又は家庭内パートナー
(b) 個人の配偶者の子又は家庭内パートナーの子、
(c) 個人又は個人の配偶者もしくは家庭内パートナーの扶養家族
一方、日本基準における「近親者」とは、「二親等以内の親族、すなわち、配偶者、父母、兄弟、姉妹、祖父母、子、孫及び配偶者の父母、兄弟、姉妹、祖父母並びに兄弟、姉妹、子、孫の配偶者をいう。」(「関連当事者の開示に関する会計基準」5項(8))とより詳細な規定がありますが、IAS第24号では関連当事者に含まれる「家庭内パートナー」は日本基準上含まれません。
IAS第24号では、日本基準のような主要株主(自己又は他人の名義をもって総株主の議決権の10%以上を保有している株主)である個人が関連当事者に該当するということは明示されておらず、支配、共同支配又は重要な影響力の有無が判断基準です。「重要な影響力」については、IAS第28号「関連会社に対する投資」において、「被投資企業の議決権割合が20%以上である場合には、明らかな反証がない限り、当該投資企業は、重要な影響力を有していると推定される」とされ、さらに、20%以上という議決権比率のみならず、被投資企業の取締役会等への参加や配当、その他の分配決定への参加、重要な取引関係、経営陣の人的交流、重要な技術情報の提供等、様々な見地から重要な影響力の有無を検討することが要求されています。そのため、議決権比率が例えば15%の株主の場合、日本基準では関連当事者となりますが、IAS第24号では、重要な影響力を有しているという明らかな証拠(反証)がない限り、重要な影響力はないため関連当事者ではないと判断される場合があります(IAS第28号第6項)。
IAS第24号での「経営幹部」(企業の取締役(執行権限の有無を問わない)を含む)と日本基準の「役員」(取締役、会計参与、監査役、執行役又はこれらに準ずる者をいう)は概ね一致していると考えられます。
日本基準では、会社グループの事業運営に強い影響力を持つ「子会社役員」は関連当事者とみなされますが、子会社役員及びその近親者が関連当事者になることはIAS第24号では明示されていません。もし、子会社役員が報告企業の意思決定に重要な影響力を有するとみなされる場合は、IAS第24号においても関連当事者となります。
次に、関連当事者が会社等の場合について、以下の表1-2で比較します。
| IAS第24号「関連当事者についての開示」 (2009年11月改訂) 第9項より抜粋 |
日本基準 「関連当事者の開示に関する会計基準」 (企業会計基準第11号) (以下、「会計基準」又は「日本基準」) |
| (b) 企業は、次のいずれかの条件に該当する場合は、報告企業と関連がある。 (i) 当該企業と報告企業が同一のグループの一員である(親会社、子会社及び兄弟会社は互いに関連する) |
日本基準においても、財務諸表作成会社の、(1)親会社、(2)子会社、(3)同一の親会社をもつ会社、が関連当事者となるという点について、差異はありません。 |
| (ii) 一方の企業が他方の企業の関連会社又はジョイント・ベンチャー (または、他方の企業が一員となっているグループの一員の関連会社又はジョイント・ベンチャー) | 日本基準においても、(4)財務諸表作成会社が他の会社の関連会社である場合における当該他の会社(「その他の関係会社」という)並びにその他の関係会社の親会社及び子会社は関連当事者となり、「その他の関係会社」には共同支配投資企業が含まれ、関連会社には共同支配企業が含まれることから、差異はないと考えられます。 |
| (iii) 双方の企業が同一の第三者のジョイント・ベンチャー | |
| (iv) 一方の企業が第三者企業のジョイント・ベンチャーであり、他方の企業が当該第三者の関連会社 | |
| (v) 報告企業又は報告企業と関連がある企業の従業員給付のための「退職後給付制度」である場合、報告企業自体が退職後給付制度である場合は、その事業主は報告企業と関連がある。 | 日本基準では、(11)従業員のための企業年金(企業年金と会社の間で掛金の拠出以外の重要な取引を行う場合に限る)、と限定されていますが、IAS第24号では、そのような取引内容の限定はなく、さらに、「報告企業の関連会社」の年金制度(退職後給付制度)についても関連当事者になるとされています。 |
| (vi) 当該企業が、表1-1 (a) に示した個人に支配又は共同支配されている。 (vii) 前述(a) (i) に示した個人が当該企業に対する重要な影響力を有しているか、又は当該企業(もしくはその親会社)の経営幹部の一員である。 |
日本基準では、表1-1 (6)~(9)の個人が、議決権の過半数を自己の計算において所有している会社及びその子会社は関連当事者になります。 |
日本基準においても、IAS第24号においても、報告企業(財務諸表作成会社)の関連会社同士は、それぞれの財務諸表においてお互いに関連当事者にはならない点は共通です。
関連当事者である個人が支配、共同支配又は重要な影響力を有する会社等について、IAS第24号では、日本基準における「議決権の過半数」という数値基準はなく、支配、共同支配、あるいは重要な影響力の有無が判断基準となっている点が異なります。ここでの「支配」とは「ある企業の活動からの便益を得るために、その企業の財務及び営業の方針を左右する力をいう」と定義され、IAS第27号「連結及び個別財務諸表」における支配の定義と同様です。また、IAS第24号による共同支配とは、「ある経済活動に対する契約上合意された支配の共有をいう」とされ、重要な影響力とは、「企業の財務及び営業の方針に対する支配ではないが、それらの方針の決定に関与する力をいいます。重要な影響力は、株式保有、法令又は契約により得られることもある」と定義され、IAS第31号「ジョイント・ベンチャーに対する持分」による各定義と同様です。
以上の通り、IAS第24号では、日本基準のような数値基準がないため、関連当事者の範囲の決定において、より実質的な支配や共同支配、重要な影響力の有無を判断することが要求されます。
IAS第24号では, 表2 の事項について関連当事者についての開示を行うことが求められています。
IAS第24号は経営幹部(key management personnel)の報酬の開示を要求しています。一方日本基準では役員報酬はコーポレート・ガバナンスに関する情報として開示が規定されているため,関連当事者としての開示は求められていません(「関連当事者の開示に関する会計基準」第33項参照)。これを除けば,日本基準も基本的な開示内容に重要な差異はありません。
ただし,IAS第24号では「親会社」「子会社」等関連当事者の区分ごとに取引等を記載することとなっています。また,企業の財務諸表に与える関連当事者取引の影響力を理解するために個々の開示が必要とされる場合を除き,類似の性質を持つ項目は総額で開示することができるとされています。これに対し日本基準では,原則として個々の関連当事者ごとに開示を求めるなど,比較的詳細なレベルでの開示が求められています。
| (1) 親会社と子会社の間の関係等 | |
| ・親会社の名称 | ・親会社が最終的な支配当事者と異なる場合には,最終的な支配当事者の名称 ・親会社又は最終的な支配当事者が公表用の連結財務諸表を作成しない場合は、連結財務諸表を公表している次順位の親会社の名称 |
| (2) 経営幹部の報酬 | |
| ・合計額 ・短期従業員給付 ・退職後給付 |
・その他の長期給付 ・解雇給付 ・株式報酬 |
| (3) 取引及び未決済残高(コミットメントを含む)に関わる情報 | |
| ・取引の金額 ・未決済残高の金額(コミットメントを含む)及び以下の項目: ‐担保設定等の契約条件及び決済に用いられる対価の内容 ‐付与している又は付与されている保証の詳細 |
・未決済残高に関する貸倒引当金 ・関連当事者に対する不良債権について期中に認識した費用 (少なくともこれらの項目を含む。) |
| (4) 関連当事者の開示区分 (上記(3)の開示は、以下の区分について個別に開示する必要がある。) | |
| ・親会社 ・企業に対して共同支配又は重要な影響力を有する企業 ・子会社 ・関連会社 ・企業が共同支配投資企業となっているジョイント・ベンチャー |
・企業又はその親会社の経営幹部 ・その他の関連当事者 |
(1)開示すべき関連当事者間の取引
改訂前のIAS第24号では,関連当事者間の取引を開示対象としていたため、連結会社が直接関わらない関連会社間の取引も開示対象となっていました。これに対し日本基準では,連結会社が直接関わらない関連当事者同士の取引は開示対象には含めず,個別財務諸表においては会社と関連当事者との取引,連結財務諸表においては連結会社と関連当事者との取引のみを開示対象としている点で異なりました。しかし、2009年のIAS第24号の改訂により、関連当事者間取引の定義が修正され、「関連当事者との取引とは、報告企業と関連当事者との間の資源、役務又は債務の移転をいい、対価の有無を問わない」(IAS第24号9項、下線は筆者による強調)とされましたので、改訂後のIAS第24号と日本基準の差異はなくなりました。
なお、連結財務諸表において企業集団内の取引等を相殺消去した上で取引を開示する点は両者とも同じです。
また、親会社の連結財務諸表における子会社と関連会社の取引は,IAS第24号及び日本基準の両方で開示対象となります。
(2)重要性
日本基準では,関連当事者との取引のうち「重要な取引」を開示対象としており,適用指針において、売上高の10%や総資産の1%等,一定の基準を超える取引のみ開示が求められています。IAS第24号ではこれらの重要性は特に定められていません。
(3)コミットメントの開示 2009年のIAS第24号改訂では、開示すべき関連当事者取引及び残高に「コミットメント」が含まれることが明確になりました。これは、財務諸表の利用者が関連当事者間取引における潜在的影響を理解するために有用であると判断し追加されたものです。
改訂後のIAS第24号では、政府関連企業が関連当事者となる場合に一部の開示要求が免除されますが、日本基準にはそのような取引の相手先によって開示対象外とする規定はありません。IAS第24号では、(a) 報告企業に対する支配、共同支配又は重要な影響力を有する政府、(b) 同一の政府が報告企業と他の企業の両方に対する支配、共同支配又は重要な影響力を有しているために関連当事者となっている当該他の企業、との取引についての開示の一部が免除されます。
例えば、以下の図1において、もし、Gが政府(地方、国家又は国際のいずれかを問わず、政府、政府機関及び類似の機関をいう)でなければ、企業A(報告企業とする)は、政府G、企業1、企業2、企業A、企業B, 企業Cとの取引を関連当事者取引として開示しなければなりませんが、政府および政府関連企業(政府が支配、共同支配又は重要な影響力を有している企業と定義される)との取引免除規定により、一般的な関連当事者に適用される開示要求ではなく、以下の簡便的な開示が要求されます。但し、企業1の経営幹部との取引については免除されません。
(1) 政府の名称及び報告企業との関係の内容
(2) 個別に重要な各取引の内容及び金額
(3) 合計では重要であるが個別には重要でない他の取引について、定性的・定量的な指標
ここでいう、重要か否かの判断は、取引の規模が重大かどうか、取引条件が一般取引と同様であるかどうか(非市場条件で行われている場合は開示の検討が必要)、通常の日常的な事業活動の外の取引かどうか、規制当局あるいは監督当局に開示されているか、上級経営者に報告されているか、株主の承認対象となっているか等々の判断に基づくことになっています。
図1:政府関連企業との取引に関する開示の免除
上記の通り、関連当事者の開示については、IAS第24号と日本基準間でなお若干の差異がありますので留意が必要です。
*このQ&Aは、『週刊 経営財務』 2879号(2008年07月28日)にあらた監査法人 企業会計研究会として掲載した内容に一部加筆・修正を行ったものです(2011年06月30日付全面更新)。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。