KeyWord18 収益の認識基準

質問国際財務報告基準における収益認識基準はどのようになっていますか。また、日本の基準と何が違うのですか。

答

1.国際財務報告基準(IFRS)における収益認識基準

IFRSにおいては、概念フレームワーク(当シリーズ第3回参照)とは別に一般的かつ具体的な収益の認識基準を定めたものとして、IAS 第18号「収益」およびIAS第11号「工事契約」の2つがあります。前者は物品の販売や役務の提供、および利息・ロイヤルティにかかる収益の認識基準を定めたものであり、後者は船舶や建物等を建造するような工事契約についての工事進行基準の適用を定めたものとなっています。また、ポイント制度等、販売促進制度の会計処理についての解釈指針としてIFRIC第13号「カスタマー・ロイヤルティ・プログラム」、及び、不動産の建設を行う企業による収益及び費用の会計処理に適用する解釈指針としてIFRIC第15号「不動産の建設に関する契約」があります。

ここでは、一般的な収益の認識基準を定めたIAS第18号についてその内容を概観するとともに、日本の会計基準との差異についても触れたいと思います。

2.IAS第 18号「収益」の内容

IAS 第18号においては、収益は「持分参加者からの拠出に関連するもの以外で、持分の増加をもたらす一定期間中の企業の通常の活動過程で生ずる経済的便益の総流入をいう」(IAS第18号第7項)と定義されています。したがって、日本における預り消費税や、代理関係のもとで他者のために回収した金額等は自社の持分の増加、すなわち純資産の増加をもたらすものではないので、収益の定義に合致しないものとされます(IAS第18号第8項)。

このような定義のもと、IAS第18号では収益を獲得するための取引を(1)物品の販売、(2)役務の提供、(3)利息・ロイヤルティ及び配当の3つに区分し、それぞれについて収益を認識するための要件を定めていますが、これら3つに共通する要件として、以下の2つが定められています。

要件
(1) 取引に関連する経済的便益が企業に流入する可能性が高いこと
(2) 収益の額を、信頼性をもって測定することができること

したがって、IAS第18号のもとで収益を認識するためには、経済的便益の流入(通常は現金又は現金同等物の受領の形をとる)の確実性と、収益の金額の測定可能性が満たされることは必須となります。
これに加えて、(1)物品の販売について収益を認識するためには、以下の3つの要件を満たすべきことが求められています(IAS第18号第14項)。

要件
(1)-a 物品の所有に伴う重要なリスク及び経済価値を企業が買手に移転したこと
(1)-b 物品に対して、所有と通常結び付けられる程度の継続的な管理上の関与も実質的な支配も企業が保持していないこと
(1)-c 取引に関連して発生した、又は発生する原価を信頼性をもって測定できること

一方、(2)役務の提供に係る収益については、上記(1)および(2)に加えて、以下の2つの要件を満たす場合には取引の進捗度に応じた収益の認識(工事進行基準と同様の収益認識方法)が求められ、これらの要件を満たさない場合には、発生した費用のうち回収可能と認められる部分についてのみ収益を認識できるものとされています(IAS 第18号第20項、第26項)。

要件
(2)-a 取引の進捗度を報告期間の末日において信頼性をもって測定できること
(2)-b 取引について発生した原価及び取引の完了に要する原価を、信頼性を持って測定できること

(3)利息・ロイヤルティ及び配当に係る収益については、上記(1)および(2)の要件を満たした場合に、実効金利法(利息の場合)や契約の実質に応じた発生基準(ロイヤルティの場合)等に従い認識すべきものとされています(IAS第18号第29項、第30項)
こうした認識基準のもとで認識すべき収益の額については「受領した又は受領可能な対価の公正価値により測定しなければならない」(IAS 18号第9項)と定められており、通常は自社と取引相手との間で契約により決定されるものとされています。なお、値引きや割戻しを行った場合には、「受領した又は受領可能な対価」の額としては当該値引きや割戻しを考慮した後の金額となります(IAS第18号第10項)。

3.日本の会計基準との差異

現在、日本の会計基準においては、「企業会計原則」以外には収益を認識するための要件に関して包括的に定めたものは存在していないのが現状です。また、「企業会計原則」においても収益の定義や認識のための諸要件をIAS第18号のように一定の具体性を持って定めているわけではなく、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る」(企業会計原則 第二 三B)とされているのみであり、実現主義の具体的考え方については特に定められていません。

なお、ソフトウェア取引の収益については平成18年3月、企業会計基準委員会より実務対応報告第17号「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱い」が公表され、平成19年4月1日以降開始する事業年度から適用となっていますが、あくまでもソフトウェア取引についてのみを対象としており、収益認識に関して包括的に取り扱ったものではありません。

こうした状況の下、日本においては取引の実態に応じて収益が実現したと考えられる時点において収益を認識しているというのが現状であり、IAS第18号と日本の会計基準との差異を一般的に述べるのは困難であるということができるでしょう。たとえば、利息の収益はIAS第18号と差異のない認識基準に基づき認識されている実務も多く見られるところですが、その一方でIAS第18号に従った場合とは異なる収益の認識基準となる可能性のある実務も存在しています。

このような例としてよく話題にあがるものとして、物品の販売における出荷基準をあげることができます。つまり、所有権の移転の時点を含む販売契約上の諸条件や、顧客が物品を受領するまでの輸送中のリスクの負担関係等によっては、出荷時点において上記(1)-aや(1)-bといった条件を満たさない可能性があり、この場合はIAS第18号に従えば出荷時点では収益を認識できないこととなる可能性があります。

さらに、収益の測定に関しては、日本においても、IAS第18号と同様に値引きや割戻しを収益の額から控除する実務もあれば、これらを収益から控除せずに期間費用として計上する実務も多く行われているところです。このような、日本の実務とIAS第18号の比較分析をしたものとして、日本公認会計士協会から「我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)-IAS第18号「収益」に照らした考察 -」(会計制度委員会研究報告第13号)が平成21年(2009年)7月に公表されています。

4.収益の認識基準をめぐる現在の動向

国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)は、2002年より合同プロジェクトとして収益認識を取り扱っており、日本の企業会計基準委員会においてもIASB/FASBのプロジェクトの内容の検討と合わせて、収益認識に関する国内基準の今後のあり方について検討を行うための専門委員会を設置しています。特に、IASB/FASBのプロジェクトからは2008年12月、「顧客との契約における収益認識についての予備的見解」と題したディスカッション・ペーパー(以下、DP)が公表されています。

当該DPでは、収益の認識を考える出発点を顧客との契約とし、契約上顧客に対して果たすべき義務(財やサービスの提供)を「履行義務」と定義したうえで、この履行義務を充足した時点において関連する収益を認識する、といういわゆる「資産負債アプローチ」モデルが提案されました。ただし、DPでは、契約に含まれる履行義務を実務上どこまで細分化して収益を認識する単位とするか、また、履行義務を充足するタイミングを実務上どのように考えるか、といった点について必ずしも詳細な提案がなされているわけではないため、主にこれらの点についてより詳細かつ実務的なガイダンスを求める多くのコメントが寄せられました。IASBとFASBの合同プロジェクトにおいては、これらのコメントを踏まえ、2010年6月に公開草案「顧客との契約から生じる収益」(以下、ED)が公表され、同年10月にコメントが締め切られました。その後、当該EDに対するコメントを受けた討議がIASBとFASBにより継続されていますが、2011年5月時点では、2011年第3四半期中にIASBおよびFASB両審議会理事による新基準草案に対する投票を終え、2011年第4四半期中に最終基準を公表することを目標としていますが、新基準の適用時期については未定です。

この合同プロジェクトの成果物は、最終的には日本の企業にも大きな影響を及ぼす可能性があるため、その動向を注視する必要があります。

また、日本においても、2008年12月にIASBおよびFASBから公表されたDPを契機として平成21年(2009年)9月「収益認識に関する論点の整理」が企業会計基準委員会から公表され、さらに、2010年6月にIASBおよびFASBから公表されたEDをベースとして平成23年(2011年)1月「顧客との契約から生じる収益に関する論点の整理」が公表される等、コンバージェンスに向けた動きが進んでいます。

*このQ&Aは、『週刊 経営財務』 2871号(2008年06月02日)にあらた監査法人 企業会計研究会として掲載した内容に一部加筆・修正を行ったものです(2011年3月末/一部5月末時点の最新情報)。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。