金融商品を取り扱う国際財務報告基準には、以下のものがあります。
| 金融商品に関する国際財務報告基準 | |
|---|---|
| IAS第32号 | 金融商品:表示 |
| IAS第39号 | 金融商品:認識及び測定 |
| IFRS第7号 | 金融商品:開示 |
| IFRS第9号 | 金融商品 |
IAS第32号は、金融商品の財務諸表における表示に関するもので、主として金融商品の負債と資本の区分について規定しています。また、IAS第39号は、金融商品の認識およびそれらの測定、すなわち、どのような場合にそれらが財務諸表に計上されるべきか、および、どのように評価すべきかについて規定しています。
金融商品は、金融機関に限らずほとんどすべての会社の資産・負債の大部分を占めており、また、金融商品は証券・金融市場で中心的な役割を果たし、そのグローバル化、複雑化も目を見張るものがあります。デリバティブを含む金融商品は、企業のリスク管理のための有効な手段としても利用されていますが、それ自身は潜在的に非常にリスクの高いものともいえます。
過去、特に1990年代から2000年代初頭にかけて起こった、デリバティブその他の金融商品に関連した企業破綻等の反省から、これらの国際財務報告基準は企業の財務報告上問題を隠すことを認めずに、保有する金融商品の状況を開示し、また、その影響を多くの場合発生時に会計処理することを要求しているといった点に特徴があります。また、これらの国際財務報告基準は原則を定め、例外的な処理を極力排除するという方針をもっている点も特徴的といえます。
これらに加えて金融商品の会計処理の複雑性を削減するため、IASBは、IAS第39号の置き換えプロジェクトを進めてきました。このプロジェクトは、2008年の金融危機による金融商品会計への不信感の高まりに対応するため、スケジュールを加速化させて進められています。その結果、2011年3月末現在で金融商品の分類と測定部分のみが完了しており、IFRS第9号「金融商品」が公表されています。残る「償却原価と減損」および「ヘッジ会計」については2011年末までに完了し、IFRS第9号に追加される予定です。
IFRS第7号は、財務諸表の利用者が企業の財政状態及び業績に対する金融商品の重要性を評価することが出来るような情報を開示することを求めています。この観点から主として以下の開示を要求しています。
(a)企業の財政状態及び業績に対する金融商品の重要性
(b)信用リスク、流動性リスク及び市場リスクに関する所定の最低限の開示を含む、金融商品から生じるリスク・エクスポージャーに関する定性的・定量的情報
IFRSでは企業がさらされている金融商品から生じるリスクの管理に対する経営者の目的・方針・手続の説明を要求している点、および、財務諸表への注記として開示される点に特徴があります。
日本基準も、近年の証券・金融市場のグローバル化および取引の高度化・複雑化に対応するため平成11年に金融商品に関する会計基準が公表され、それ以後も必要に応じて改訂されてきており、基本的な点において両者は似ていると考えられます。しかし、前述のように、これらの国際財務報告基準は原則を定め、例外的な処理を極力排除するという方針をもっている点で特徴があり、実務上の要請から多くの例外処理を認めている日本基準とは異なるといえます。
また、特に以下の点で大きな差異があると考えられます。
(1)ヘッジ会計
日本基準では、公正価値ヘッジおよびキャッシュ・フローヘッジともに繰延ヘッジ処理が採用されています(その他の包括利益に認識)。しかし、国際財務報告基準では、公正価値ヘッジは、損益計算書でヘッジ対象・手段とも公正価値にて処理し、キャッシュ・フローヘッジは繰延処理され、その他の包括利益に認識するというように処理の方法がヘッジの種類により区別されています。
また、ヘッジの非有効性部分の処理ですが、日本基準の場合、ヘッジ全体が有効と判断され、ヘッジ会計の要件が満たされている場合には、ヘッジ手段に生じた損益のうち結果的に非有効になった部分についても繰り延べることが容認されていますが、国際財務報告基準上は、厳格に発生時に損益処理することが要求されます。さらに、日本で多く採用されている金利スワップの特例処理に関しては、国際財務報告基準では認められていません。
(2)金融資産の消滅の認識
金融技術の発達とともに日本でも金融資産の流動化商品が広く活用されるようになってきました。金融資産の流動化に係る資産の消滅の認識に関する会計基準において、日本基準では「財務構成要素アプローチ」を採用しています。しかし、国際財務報告基準では、「リスク・経済価値アプローチ」を採用している点で差異があります。このため、日本の会計基準上の要請を満たすように組成された金融資産の流動化商品について、国際財務報告基準上、資産の認識の中止が認められないケースも多々あると考えられます。
(3)公正価値オプション
国際財務報告基準では、特定の条件を満たす金融商品の当初認識時に、純損益を通じて公正価値で測定するものとして取消不能の指定を行うことを認めています。これを公正価値オプションといい、これが認められる条件は、当該指定が会計上のミスマッチを消去または大幅に削減する場合、金融資産又は金融負債もしくは両方のグループが文書化されたリスク管理または投資戦略に従い、公正価値に基づいてその業績が評価され、かつ管理される場合、および金融商品が特定の条件を満たす組込デリバティブを含んでいる場合です。
公正価値オプションについては、米国会計基準でも同じような基準が既に発行されています(ASCトピック820)。しかし、日本基準上そのような会計処理は現在のところ存在しません。
(1)IFRS第9号の公表 2009年11月にIASBよりIFRS第9号「金融商品」のうち、金融資産の分類と測定に関する部分が公表され、2010年10月に金融負債の分類と測定に関する部分が追加され再公表されました。2013年1月1日以降開始される会計期間から適用されますが、早期適用も可能とされています。金融資産と金融負債の分類及び測定に関するIFRS第9号はIASBが進めるIAS第39号の置き換えプロジェクトのフェーズ1とされており、フェーズ2の「償却原価と減損」およびフェーズ3の「ヘッジ会計」に関する会計基準は現在IASBにおいて2011年12月までの最終基準化を目指して検討作業が進められています。
以下、最終基準化されている金融資産及び金融負債の分類及び測定に関して簡単な解説を行います。
(2)金融資産の分類及び測定 IFRS第9号は、IAS第39号に存在する多数の分類及び測定のモデルを、償却原価と公正価値の2種類の分類カテゴリーのみで構成されるモデルに置き換えています。IFRS第9号における分類は、金融資産を管理する企業のビジネス・モデルおよび金融資産の契約上のキャッシュ・フローの特徴に基づくもので、以下の双方の要件を満たした場合、当該金融資産は償却原価で測定されます。
(a) 契約上のキャッシュ・フローを回収するために資産を保有するという目的を有する事業モデルに基づいて資産が保有されている
(b) 金融資産の契約条件により、元本及び元本残高に対する利息の支払いのみであるキャッシュ・フローが特定の日に生じる
(3)資本性金融商品の取り扱い
資本性金融商品は日本基準における株式と概ね一致する概念です。IFRS第9号の分類の原則は、すべての資本性金融商品への投資は公正価値で測定しなければならないとしています。しかし、経営者は、売買保有目的ではない資本性金融商品への投資における公正価値変動による未実現ならびに実現した利得および損失をその他の包括利益に表示する選択肢を持っています。この指定は、当初認識時に1つの金融商品ごとに行うことが可能ですが、いったん指定した場合は取消不可能となります。公正価値の変動による利得および損失をその後に純損益に振り替えることはできません。ただし、かかる投資から得た配当金は引き続き純損益に認識します。
IFRS第9号は、時価の無い株式および当該株式のデリバティブの原価保有に関する例外規定を廃止する一方、原価が公正価値の適切な見積りになり得る場合のガイダンスを提供しています。
(4)金融負債の分類及び測定
金融負債の分類と測定に関する規定はほぼIAS第39号の規定をそのまま引き継いでおり、売買目的金融負債と当初認識時に公正価値オプション指定された金融負債を除き、ほとんどの金融負債は償却原価により測定される区分に分類されます。しかし、公正価値オプション指定された金融負債の自己の信用力の変動に起因する公正価値の変動額について、この変動額をその他の包括利益に表示することが会計上のミスマッチを創出あるいは拡大しない場合には、その他の包括利益で表示しなければなりません。しかし、逆に負債の信用リスクの変動の影響から生じた公正価値の変動をその他の包括利益に表示することが、純損益における会計上のミスマッチを創出させるか拡大する場合は、金融負債の公正価値の変動の影響全体をその他の包括利益ではなく純損益で表示しなければなりません。この改訂は2008年中に深刻化した金融危機の最中にいくつかの金融機関が自己の信用力の悪化に起因する負債の評価益を多額に計上したことが「直観に反する利益」と批判されたことにIASBが対応したものです。
このQ&Aは、『週刊 経営財務』2855号(2008年02月04日)にあらた監査法人 企業会計研究会として掲載した内容に一部加筆・修正を行ったものです(2011年3月末時点の最新情報)。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。