KeyWord14 過年度遡及修正

質問会計方針を変更した場合、過年度遡及修正を行うのですか。また、誤謬を発見した場合には遡及修正を行うのですか。

答

国際財務報告基準(IFRS)では、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」において、会計方針を変更した場合や会計上の見積りの変更を行った場合、および過年度の財務諸表に誤謬を発見した場合の取り扱いが定められています。

なお、日本基準についても企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」が公表され、2011年04月01日以後開始する事業年度から適用され、IFRSとの重要な差異はおおむね解消されました。

1.IAS第8号の概要

(1)会計方針の変更

IFRSにおいては、会計方針を、「企業が財務諸表を作成表示するにあたって採用する特定の原則、基礎、慣行、ルール及び実務」と定義しており(IAS第8号5項)、企業の財務状態、財務業績及びキャッシュ・フローについて、適切な期間比較を行うことができるよう、毎期継続して首尾一貫して適用することとされています(IAS第8号第13項)。しかし、会計基準や解釈指針の新たな適用または改正が行われた場合や、会計方針を変更することによって、企業の財政状態、財務業績及びキャッシュ・フローの情報がより目的適合性のある情報を提供すると判断される場合には、会計方針を変更することが認められます(IAS第8号第14項)。

会計方針の変更が行われた場合は、その変更が会計基準等の新たな適用または改正である場合には経過措置に従うこととされ、経過措置がない場合やより信頼できる情報を提供するために自発的に変更する場合には、原則として、その変更を過年度に遡及して適用することとされています(IAS第8号第19項)。つまり、新たに採用した会計方針が従来から適用されていたと仮定して、開示されている最も古い期間の期首剰余金残高を修正するとともに、各過年度の財務諸表数値についても修正を行います(IAS第8号第22、23項)。その上で、当期の財務諸表を作成し、過年度の財務諸表とあわせて比較開示することとなります。

このように、自発的に会計方針の変更を行った場合等は、その新たな会計方針を遡及的に適用することが原則ですが、過年度の影響を測定することが実務上不可能であるときは、可能な限り最も古い期の期首、もしくは最も古い日付から、新たな会計方針を適用することが認められており、実務への配慮が示されています(IAS第8号第24、25項)。

日本基準では、平成21年(2009年)12月04日企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」が公表され、IAS第8号と同様に、会計基準等に特定の経過措置の定めがない限り、過去の期間のすべてに遡及適用することになりました。また、過年度の影響を測定することが困難な場合の取り扱いについてもIAS第8号と同様の規定が設けられました。

この基準は、平成23年4月1日以後開始事業年度の期首以後に行われる会計上の変更及び過去の誤謬の訂正から適用となります。なお、従前の日本基準においては、会計方針を変更した場合、このような遡及的適用は行わず、変更の旨、変更の理由および当該変更が財務諸表に与えている影響の内容を開示します。また、従前の日本基準では減価償却方法の変更は会計方針の変更として取り扱われますが、当基準では、減価償却方法は会計方針に該当するとしているものの、その変更については会計上の見積りの変更と同様の取り扱いとする旨が規定されています。この場合、後述するとおり遡及適用は行いませんが、変更の内容、正当な理由および当期財務諸表への影響額または将来の影響額、その影響額を合理的に見積りができない場合はその旨を注記する必要があります。

(2)会計上の見積りの変更

会計上の見積りの変更とは、「資産や負債の現状の評価、及び、資産や負債に関連して予測される将来の便益及び義務を評価した結果生じる、資産又は負債の帳簿価額又は資産の定期的な費消額の調整」をいい、新しい情報や展開から生じるもので誤謬の訂正ではないとされています(IAS第8号第5項)。

会計上の見積りの変更が、たとえば不良資産金額等の見積りの変更のように、資産及び負債、または資本項目に影響を与える場合には、変更した期間において関係する資産及び負債、または資本項目の帳簿価額を修正して当該変更を認識します(IAS第8号第37項)。また、このような事象に該当しない、たとえば償却資産の耐用年数の変更のように、直接資産及び負債または資本項目に影響を与えるような変更ではない場合には、変更した期間だけに影響を与える場合は当該期間の損益に、変更した期間と将来の期間に影響を与える場合は変更した期間と将来の期間の損益に含め、将来に向けて認識することとされています(IAS第8号第36項)。つまり、会計上の見積りの変更は、その変更した期間以降の期間で、その影響を将来に向かって損益に反映させていくこととなります。

なお、IFRSにおいては、償却資産に包含される経済的便益の費消の予想パターンは、会計上の見積りであると考えられています。そのため、償却資産の経済的便益の費消の予想パターンを表す減価償却方法の変更は、見積りの変更として、変更した期間およびその資産の残存耐用年数にわたる将来の各期間の減価償却費に反映させて処理することになります(IAS第8号第38項)。

日本基準でも、会計上の見積りの変更については過去に遡り修正することはせず、原則として、その変更した期間以降の期間で、その影響を損益に反映させていくこととなり、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」においてもこの会計処理が規定されています。

なお、償却資産について耐用年数や残存価額が予見できなかった等の原因により著しく不合理となった場合に行われていた臨時償却は、一時に減価償却累計額の修正が行われるという会計処理(キャッチ・アップ方式)が実質的には過去の期間への遡及適用と同様の効果をもたらすことになり、新たな事実の発生に伴う見積の変更に関する会計処理として適切な考え方ではない等の理由により、当基準では廃止されています。

(3)誤謬

過年度の誤謬とは、「信頼性の高い情報を使用しなかったか又は誤用したことにより生じた、過去の1つ又は複数の期間に係る企業の財務諸表における脱漏又は誤表示」であり、計算上の誤り、会計方針適用の誤り、事実の見落しや解釈の誤り及び不正行為の影響も含むものとされています(IAS第8号第5項)。

重要な誤謬を含む財務諸表や、重要性は乏しいが企業の財政状態、財務業績及びキャッシュ・フローに係る特定の表示を達成するために意図的に生じさせた誤謬を含む財務諸表はIFRSに準拠していないこととなるため、企業はこの財務諸表を修正しなければなりません(IAS第8号第41項)。具体的には、誤謬が発生した過年度の財務諸表を遡及的に修正再表示するものとされ、開示されている最も古い期間以前に誤謬が発生している場合は、当該開示されている最も古い期間の資産、負債及び資本の期首残高を修正再表示します(IAS第8号第42項)。当期の財務諸表は、これら各過年度の財務諸表数値の遡及的修正再表示が行なわれたことを前提に、期首の剰余金残高を修正した上で作成することとなります。また、過年度の影響を測定することが実務上不可能であるときの取り扱いは、会計方針を変更する場合と同様です(IAS第8号第44、45項)。

現行の日本基準では、前期損益修正項目として当期の損益で修正する方法、及び金融商品取引法に従った開示を行っている企業では訂正報告書を発行する方法が示されていますが、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」ではIAS第8号と同様に修正再表示が必要となる旨が規定されています。

(4)まとめ

IFRSにおける、会計方針の変更、見積りの変更、誤謬が発見された場合の取り扱いをまとめると次のようになります。

  会計方針の変更 会計上の見積りの変更 誤謬
具体例
  • 引当金の計上方法の変更
  • 棚卸資産の評価方法の変更
  • 不良債権の金額の見積りの変更
  • 棚卸資産の陳腐化の見積りの変更
  • 償却資産の耐用年数の見積りの変更
  • 償却資産の減価償却方法の変更(*)
  • 過年度売上の計上処理誤り
  • 過年度の引当金の計算誤り
IFRSの取り扱い 新たな会計方針を従来から適用していたとして、過年度の財務諸表を修正する。(遡及的適用) 見積りの変更を行なった期間以降、影響を与える期間においてその影響を認識する。見積りの変更の内容及び影響額を開示する。 誤謬が生じていた過年度の財務諸表を修正する。(遡及的修正再表示)
従前の日本基準の取り扱い 遡及的適用は行わず、変更の旨、変更の理由及び当該変更が財務諸表に与えている影響の内容を開示する。 過去に遡り修正することはせず、原則として、その変更期間以降の期間でその影響を損益に反映する。ただし、金商法上では訂正報告書上で修正する方法も規定されている。 原則として、前期損益修正項目として当期の損益で修正する。ただし、金商法上では訂正報告書上で修正する方法も規定されている。
新基準での取り扱い IFRSと同様に遡及適用を行う。 IFRSと同様に、見積りの変更を行った期間以降、その影響を認識する。見積りの変更の内容、当期及び将来の期間における影響額を注記する。 IFRSと同様に遡及的に修正再表示する。

(*)「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」では会計方針の変更とされているが、会計処理は会計上の見積りの変更と同様に行われる。

2.過年度遡及修正をめぐるわが国の会計基準のコンバージェンスの動向

企業会計基準委員会(ASBJ)は、会計基準のコンバージェンスのためIASBと共同プロジェクトを進めてきましたが、「過年度遡及修正」についても長期的なコンバージェンス項目とされてきました。ASBJは、2007年7月には「過年度遡及修正に関する論点の整理」を公表し、さらに、前述の通り、平成21年(2009年)12月に企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」が公表され、平成23年(2011年)4月1日以後開始事業年度の期首以後に行われる会計上の変更および過去の誤謬の訂正から適用されることになりました。その結果、IFRSとの重要な差異はおおむね解消されています。

このQ&Aは、『週刊 経営財務』2875号(2008年06月30日)にあらた監査法人 企業会計研究会として掲載した内容に一部加筆・修正を行ったものです(2011年3月末時点の最新情報)。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。