国際財務報告基準(IFRS)では、法人所得税の会計処理を包括的に取扱ったIAS第12号「法人所得税」があります。IAS第12号では、資産負債法(会計上の資産・負債の額と税務上の資産・負債の額との差異から生じる一時差異について税効果を認識する方法)を採用しており、これは、日本の「税効果会計に係る会計基準」に定められている方法、米国の基準とも基本コンセプトは同じです。しかし、いくつかの点で違いがあることも事実です。IFRSで規定されている法人所得税の会計処理は多岐にわたりますので、税効果の一般的適用法など基本的な税効果の会計処理を示し、あわせて日本基準との比較を行います。
IFRSでは一時差異、つまり資産及び負債の会計上の帳簿価額と税務基準額との差額に税効果を認識します。また、繰越欠損金も税効果の適用の対象となります。
さらに、IFRSでは2つの例外が明示されており、(1)税務上損金算入できないのれんと、(2)企業結合に該当せず、かつ取引発生時に会計上の利益や課税所得(欠損金)のいずれにも影響を与えない取引では当該資産や負債の当初の認識において税効果を考慮しないこととされています(当初認識の例外規定と呼ばれています)。これは、取得した資産の金額(取得原価)が、税務上の評価額と異なるため、当該資産にかかる一時差異が資産の取得から発生するが、会計上も税務上も損益が発生しない場合を想定しています。
日本基準でも、税務上損金算入されないのれんについてはIFRSと同様、税効果を認識しません。後者については、このようなケースが日本の実務でも一般的に想定されていないため一般規定としては取り扱われていませんが、組織再編に伴い受け取った関係会社株式にかかる一時差異については類似の規定があります。
IFRSではすべての一時差異に原則として税効果を認識する方法をとることとされています。ただし、繰延税金資産を認識するには、その帳簿価額が将来に獲得される経済的便益によって回収されることが必須になります。特に税務上の繰越欠損金については、十分な将来加算一時差異の範囲内または税務上の繰越欠損金に対して十分な課税所得が稼得される根拠がある範囲内でのみ認識することになります。
一方、日本基準では、「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取り扱い」(監査委員会報告第66号)により期末現在の会社の財政状態や会社の過去の課税所得の状況等を判断基準にして会社を5つのカテゴリーに分類し、カテゴリーごとに具体的な回収可能性の判断指針が示されています。会社がどのカテゴリーに分類されるかにより、将来の一定期間の課税所得の範囲内でしか繰延税金資産の計上が認められない場合があります。IFRSではこのような詳細なカテゴリー分類はなく、したがって、監査委員会報告第66号で示すような「一定期間」についての記載はありませんが、税務上の繰越欠損金の繰越期限内に当該繰越欠損金を使用するのに十分な課税所得を稼得する可能性が高いかどうか等が十分に検討される必要があります。
IFRSでは、繰延税金資産を回収するための課税所得を創出・増加させるようなタックス・プランニングが実行可能であれば、その範囲内で繰延税金資産が認識されることになります。日本の基準においても同様ですが、日本基準においては上述のように期末現在の会社の財政状態や会社の過去の課税所得の状況等を判断基準にして会社を5つのカテゴリーに分類するため、タックス・プランニングの実現可能性に関する判断に関しても、カテゴリー毎に詳細な規定が示されています。
IFRSでは、親会社等が、子会社等の一時差異を解消する時期をコントロールでき、かつ、予測可能な期間内にはその将来加算一時差異が解消しない可能性が高い場合を除き、子会社等の持分に係るすべての将来加算一時差異に対して繰延税金負債を認識することになります。将来減算一時差異については、その一時差異が予測しうる期間内に解消し、かつ当該一時差異の使用対象となる課税所得が稼得される範囲で繰延税金資産を認識することになります。日本基準でも基本的には同様の考え方によっていますが、適用上の詳細な規定があります。
日本基準では、連結グループ会社間で棚卸資産を売買した場合、連結手続上、消去された未実現利益に関する税効果は、売り手側で発生した税金額を繰延税金資産として計上するため、売り手側の税率を用いて税効果を計算します。IAS第12号にはこのような規定がなく、買い手側が棚卸資産を保有しており当該棚卸資産に一時差異が発生しているため、買い手側の会社における将来の外部売却時の税率により税効果が計算されます。
IFRSでは、繰延税金資産・負債は報告期間の末日における法定税率または実質的に施行されている法定税率に基づいて、将来回収、決済される期に適用されると予想される税率で算定することとされており、政府が税率を公表しそれが実質的な施行と同様な効果を持つ場合には、その公表税率を使うこととされています。日本基準では繰延税金資産・負債が回収または支払が行われると見込まれる期の税率によるとされていますが、これは決算日現在における税法規定に基づく税率で、改正税法が決算日までに公布されており、将来の適用税率が確定している場合には、改正後の税率を適用することとされていますので、実質的に相違が生ずる場合は少ないと考えられます。
IFRSでは、回収ないし決済する方法の選択により税務基準額や税率が異なる場合においては、経営者に回収ないし決済する方法を合理的に計画し、その方法に対応した税務基準額と税率による測定を要求しています。しかしながら、キャピタルゲイン課税のない国のケースのように、使用による回収を目的としながらも、究極的な売却を計画していることをもって繰延税金を計上することを回避するような恣意的な処理を排除することを目的として、企業がIAS40号「投資不動産」の公正価値モデルを用いている場合には、原則として帳簿価額は使用ではなく売却により回収されるという前提において繰延税金を計算する必要があります。ただし、この前提は反証可能な推定であるため、明白な証拠により反証(資産の経済的耐用年数にわたり経済的便益を費消し、資産の使用を通じて帳簿価額を回収する)できる場合には、使用を前提とした繰延税金の計算をすることも認められます。
IFRSでは、繰延税金資産・負債は、財政状態計算書では固定資産・負債にのみ分類しなければならないとされていますが、日本基準では、会計上の当該関連資産・負債の貸借対照表の区分が流動か固定かに基づき、流動資産・負債か固定資産・負債かのいずれかに分類しなければならず、また、会計上の資産・負債に関係しない繰延税金資産・負債の分類は、それが実現する時期によって決められることとされています。
| IFRS | 日本基準 | |
|---|---|---|
| 税効果の一般的適用方法 | 資産・負債法により一時差異について税効果を認識する。 | 資産・負債法により一時差異について税効果を認識する。 |
| 繰延税金資産の回収可能性の検討 | 将来の課税所得の十分性。 | 将来の課税所得の十分性。ただし,会社類型毎の判断指針がある。 |
| 子会社等に対する投資に対する税効果の認識 | 原則として税効果を認識する。 | 原則として税効果を認識する。 |
| 未実現利益の消去に係る税効果 | 買い手側の税率により計算。 | 売り手側の税率により計算。 |
| 繰延税金資産・負債の測定に用いられる税率 | 資産が実現する期又は負債が決済される期に適用されると予想される法定または実質的法定税率。 | 回収または支払が行われると見込まれる期の税率。 |
| 公正価値モデルを使った投資不動産の税効果 | 公正価値評価される投資不動産は使用でなく売却による回収を前提に計上。 | 日本ではキャピタルゲイン課税と通常の利益に対する課税との区分はないため該当なし。 |
| 繰延税金資産・負債の財政状態計算書における流動・固定区分表示 | 固定資産・負債に表示。 | 関連資産・負債の流動・固定分類に基づき、流動資産・負債か固定資産・負債に表示。 |
IASBは、米国基準とのコンバージェンスを主眼に、現行のIAS第12号の改訂作業を実施しており、2009年3月に改訂基準の公開草案を公表しました。この公開草案では、当初認識の例外規定の排除、海外子会社及びジョイント・ベンチャーの未配分利益に対する繰延税金負債計上の例外処理、繰延税金資産及び負債の流動・固定区分表示、不確実な税務ポジションの会計処理の導入等の提案がなされています。この公開草案に対しては、基礎的な考え方の変更にも発展するような様々なコメントが寄せられており、IASBはそれらのコメントや批判に対して、比較的短期に改善ができ、かつ米国基準との相違が大きくならないものに限定して改訂作業を進めていくことを2010年3月に仮決定しました。しかしながら、2010年11月において、2011年6月までに完了する必要がある、より緊急性の高いプロジェクトに注力するために、この法人所得税を含めたいくつかの緊急性の低いプロジェクトについては、2011年7月以降に検討を再開することを決定しています。
*このQ&Aは、『週刊 経営財務』 2869号(2008年05月19日)にあらた監査法人 企業会計研究会として掲載した内容に一部加筆・修正を行ったものです(2011年3月末時点の最新情報)。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。