プライスウォーターハウスクーパースHRS 組織・人材マネジメント コラム

連載 「戦略人材マネジメント基礎講座」
第12回 これからの人事部門のあり方

'05.12.10

プライスウォーターハウスクーパースHRS株式会社
マネージング ディレクター
山本 紳也


とうとうこの連載も、今回が最終回です。ここまで本シリーズでは、変革とスピードを求められるこの時代に、人材マネジメントをどう戦略的に考え取り組んでいけばよいのか、採用、雇用、評価、報酬、人材開発、育成、成果主義、色々な切り口で考えてきました。最後の今回は、もう一度、戦略的に人材マネジメントを考えるとはどういうことか、これからの人事部門には何が求められているのかを考えてみたいと思います。

- 戦略人材マネジメントとは考えること

「戦略的に考える」というと、とても難しいことのように思えます。色々な戦略論やビジネス書を読んでみてください。確かに、難しく複雑な理論解説も出てきますが、数多くの本を読んでいくと、ひとつの結論に行き当たります。それは、基本は「当り前のことを当り前にやりとげる」ということです。確かに、難しい理論を知っていることは様々な場面で役に立つでしょう。でも、要は、当り前のことを当り前に考え実行するということが大切なのです。

素晴らしい商品を開発しても全く売れないことがあっても、難しい理論を引っ張り出すのではなく、「なぜだろう」とまず考えてみてください。素晴らしくても買う人がいる商品ですか?高いお金を出すほど使う場面がありますか?売るためのルートや相手は間違っていませんか?営業が本当に良さを理解していますか?それより、本当に良い商品ですか? 難しく考える前に、チョッと考えてみることが出来ることが沢山あります。それらを一つひとつ真剣に考え、議論し、課題を探るのです。課題は案外足元にあるものです。

人事でも同じです。成果主義を語る前に、何が、何処が、何処に、問題課題があるのか、考えてみてください。そしてその課題を解決するためには、何をどうすれば良いのか、調査し、考え、議論してみるのです。難しいことを勉強するのはそれからでいいのです。それが「戦略的に考える」スタートです。社長が「うちも成果主義だ」と言われたら、「なぜ、成果主義なのか」「社長はなぜそう思われるのか」「本当にそうなのか」考え、社長と考えを共有してください。

新しいビジネスを3年後に立ち上げようとしている事業部の人事を戦略的に考えるなら、他社事例を研究する前に、まず、現状をしっかりと理解し、議論し、考えてください。事業計画に沿って、何時どのような人材が何処に必要なのか、そのような人材は社内にいるのか。いなければ育てられるのか、外から採用すべきなのか。組織はどのような形態になり、管理はどのようなスタイルになるべきなのか、そのスタイルでマネジメントをできる人はいるのか。評価報酬制度はどのようなものが望まれるのか、今までと同じでよいのか。雇用形態はどのような契約が適しているのか。考えなければいけないことはいくらでも出てきます。しかも、結構簡単な話だけれど、結構戦略的だと思いませんか。戦略的人材マネジメントは、まず考える、そして討議する、そしてさらに考える。これが基本です。


- 矛盾のマネジメントを期待される人事部門

昨今、色々な会社のコンサルティングをしていてつくづく感じるのが、事業部ごとに課題が異なるということです。当り前だと思われるかもしれませんが、高度成長期からバブルまでの時代は、実はそれほど変わらなかったのです。全てが右肩上がりで、従業員の求めるものにもそれほど大きな差はありませんでした。それに、3年や5年で寿命がくるほどサイクルの早いビジネスや商品は存在しませんでした。スピードが早く、より複雑で難しい時代になり、それぞれの事業で、置かれている環境、ライフサイクル、自社の持つ強み弱みなどにより、それぞれの課題が明らかに異なってきています。

そうなると、当然、人事にも事業に密着したサポートが求められます。今まで人事は必要最低限のマネジメントインフラでしかなかったのが、人事のあり方によって事業の収益が変わってくる時代になってきています。人事に事業部長の片腕であり、ビジネスパートナーとなることが求められています。来年の事業に必要な人材を準備し、事業の収益獲得に貢献できる人事システムが求められています。

しかし、全社から見ると、これは部分最適論でしかありません。全社では全く違う次元で、次世代を目指した人材マネジメントが求められ始めています。変革の時代に事業を超え変革の実現できるリーダーを如何に育てるか、より高い生産性の求められる時代に如何に社員の方向性を一致させるか、次の事業の種となる技術やビジネスの研究開発を会社として如何に成功させるか、会社は全社レベルで生死を左右する重要人事案件を抱えています。これらを引っ張っていくチェンジリーダーとしての役割が人事部門には求められています。こちらは、全体最適の話です。会社としては、部分最適を求める事業の計画を少しくらい犠牲にしても、全社最適にかけたいものです。人事にはこの大きな矛盾をマネジメントすることが求められ始めています。

また、個人の価値観の多様化と人事については、これまでも述べてきました。人事には組織の立場と個の立場の両方で考え判断することが今まで以上に求められています。個の期待と組織の期待が一致しないのは言うまでもないことで、ここでも矛盾のマネジメントが求められます。先日もあるセミナーで「CFOは人事部門の責任を負うべきではない」と話しましたが、財務の責任を負う立場の人が、組織の視点と個の視点のバランスを取れるはずがないのです。人事とはそれほど難しい仕事です。当り前です。カネやモノではなく、ヒトの責任を負っている部門なのですから。よく「企業は人なり」といいますね。「人事は人なり」といえますか?


(TPIS 2004年12月号掲載)