プライスウォーターハウスクーパースHRS 組織・人材マネジメント コラム

連載 「戦略人材マネジメント基礎講座」
第9回 評価の納得性の確保

'05.08.08

プライスウォーターハウスクーパースHRS株式会社
マネージング ディレクター
山本 紳也


あなたは「評価」に納得していますか?

- 評価の多くは測定でなく、判定

あなたは今までの評価に満足されていますか?上司の評価に納得できなかったことはありませんか。誰もが一度や二度は評価に疑問を抱いたことはあるでしょう。また、あなたが評価者であれば、あなたの部下はあなたの評価に満足していると思いますか。これも疑問でしょう。また、人事部に対し、評価制度が悪いから正しい評価が出来ないと、文句や愚痴を言った記憶がある方も多いのではないでしょうか。ここで、もう一つ質問ですが、正しい評価とは何でしょうか。そもそも、正しい評価というものは存在するのでしょうか。

評価とは必ずしも絶対的なものではないといえます。実は成果も”絶対成果”が常にひとつ存在するとは限りません。正しい評価を求めるよりも、評価においては公正さと納得性を求めて頂きたいのです。評価が、常に5+2と6+4のどちらが大きいかというような定量的「測定」であれば常に正しい評価も可能でしょう。しかし、実際には、蘭の花とルノアールの絵を比べてどちらが美しいかを「判定」しなくてはいけないような評価も存在します。どうでしょう。評価の現場では後者のほうが多いのではないでしょうか。例えば、フィギュアスケートやシンクロナイズドスイミングなどの競技ではよくその結果で議論のおこるケースがありますが、あれは「判定」競技であるためで、スピードスケートや競泳など「測定」競技では起こりません。

例えば、サッカーの審判に厳しい研修と認定制度が国際レベルで組織的に整備されているはご存知でしょうか。これは人の判断に頼る「判定」が審判に求められるからに他なりません。高資格者の研修では、実際の試合のビデオを見ながら判定を議論し、その過程から判定基準ができてくると言われます。評価者という立場では、企業におけるマネジャーのにも同じことが求められるのではないでしょうか。極論を言えば、ルールブックと測定器が揃っていれば、「測定」は素人でも可能です。しかし、「判定」はプロでなければできません。そして、そのプロでも間違いはあるのが現実です。マネジャーによる評価とはそのようなものなのです。


- 評価とマネジメント

マネジメントのプロ(=マネジャー)とは、「判定」のできる人をいいます。「判定」には被評価者と同時に大多数の人を納得させられる公正さ(正当性)と説明が求められます。しかし、「判定」には当然評価者本人の主観にたよる判断も入ってくることになります。公平性を期すために可能な限り判定を客観化する制度の整備は重要ですが、機械的に判断が下されるような評価制度を求めるのは間違いといえるでしょう。ある企業の人事部長が「当社の評価制度は評価者が代わっても、同じ評価結果になるように”完璧”に設計されています」と自身を持って説明されたことがありましたが、それではマネジメント機能の一部は必要のない組織になってしまい、マネジャーも育たないでしょう。マネジャーは評価をマネジメントそのものと理解すると同時に、評価を通してマネジメント能力を高めるという視点が必要でしょう。


- 評価の正当性要因は4つ

評価の納得性の話に戻りましょう。評価に納得性がないのは評価制度の問題であって、人事部の問題だと思っている方は多いのではないでしょうか。事実、私が企業で評価者研修行う時にも、評価の納得性が低いのは評価制度を原因と考えられる管理職の方は多くおられます。しかし、評価の納得性は必ずしも制度の問題だけではありません。

部下が評価結果に納得できないのは、何らかの理由で「評価が正当(フェア)でない」と思っているからです。では、人は何をもって「正当(フェア)」と感じるのでしょうか。これまで、人事評価や人事制度の課題というと、制度の精緻さや運用ルールなどにばかり焦点があたり、結果として人事部の課題として考えられ、従業員が何に対して「正当性」を感じているかという視点の抜けていることが多かったといえます。

まず、正当性のマネジメントを理解する上で重要なことは、正当性とは本人の知覚の問題であり、いくら他人が正当だと理論的に説明しようと証明を試みようと、本人が正当だと感じないことには全く無意味といえます。つまりどんなに優れた人事制度やルールを策定しても、従業員がどう知覚するかによって、その制度を正当なものと感じるかどうかの判断は変わるということです。

評価の正当性は一般的に次の4つの要素で成り立っていると言われます。

(1) 結果そのもの(の正当性)
(2) 結果を生み出した手続き(の正当性)
(3) 評価者の態度(の正当性)
(4) 結果に至った原因説明(の正当性)

結果の正当性とは、評価や報酬など、事実としてもたらされた「結果」そのものに正当性があるかどうかの判断をいいます。結果の正当性を確立するには、「判断基準」と「比較対象」の視点が重要となります。「判断基準」には、投入時間や努力、成果に対する報酬、平等性など様々なものがあり、このどれを正当性の基準とするかには個人差があります。例えば、年功が正当だと感じている人に成果主義を如何に厳密に適用し理論的に説明しても、その人の基準が年功である限り、評価が正当だと捉えられることはありません。これからも、成果主義人事導入が一日にして納得性を得ることが不可能だということは容易に想像がつくでしょう。結果の正当性のもうひとつの重要な視点として「何と比較をするか(比較対象)」という側面があります。比較の対象が「社内の誰か」なのか「社外」なのか、あるいは「過去の自分」なのかによって正当性に対する判断が変わってきます。


- 評価の正当性確保により生産性は向上する

人はある結果に対して不公平感を感じると、なぜそうなったのか、その結果を生み出した手続きやシステムがどうであったかに注目します。また、結果に対しては不満感をもっていても、そこに至る手続きやプロセスに正当性を感じていると、ある程度納得して結果を受け入れることもあります。人事部門とマネジャーが如何に正当な評価のために尽力しているかも重要となるのです。

評価者(面談者)の態度もメンバーが感じる正当性を大きく左右します。これは「一人の人間として大切に扱われているか、尊重されているか」ということによります。あなたにも覚えがありませんでしょうか。評価面接を行う際や普段のマネジメントの場で、尊大な態度や皆の不信感を買うような言動をされた上司の下では、組織への信頼、忠誠心、求心力は確実に損なわれ、評価結果については内容がどうであれ、その正当性には疑問を抱くようになるでしょう。逆に面接時や日常マネジメントにおける評価者の真摯な態度により、評価結果そのものの正当性や手続きの正当性の不満を軽減することも可能となるのです。

最後の結果に至った原因の説明の正当性とは、結果に至った原因や理由についての適切な説明や情報提供がなされることによる正当性をいいます。特に多くのマネジャーが苦手とする、ネガティブな意思決定や結果について、適切な原因説明は従業員の組織やマネジャーに対する不信感を軽減する効果があります。例えば、経営悪化の際の賃金カットや大幅なリストラを実施する際にも、会社から事前でタイムリーな説明や情報提供がなされることにより、従業員の経営に対する不信感が軽減され、逆に組織に対する信頼感が増すことにもなります。

以上のように、評価の正当性や納得性は、制度そのものの作りや内容に加え、マネジャーによる4つの正当性要因の確保により保証され、部下の組織に対する信頼感、忠誠心、求心力、モチベーションにつながり、そして生産性向上につながる、あるべき評価のマネジメントが達成されることになります。


(TPIS 2004年9月号掲載)