連載 「戦略人材マネジメント基礎講座」
第8回 人事マネジメントの基本は評価
'05.06.20
プライスウォーターハウスクーパースHRS株式会社
パートナー
山本 紳也
あなたは部下を評価することが好きですか?
| - | 評価の目的は人材開発 |
あなたは部下を評価することが好きですか。他人を評価したり、他人から評価されたりすることは好まない人が多いはずです。この楽しくない人事評価というものの目的をあなたは考えたことがあるでしょうか。あなたが部下の人事評価をする時、「なぜ、人事評価をするのか」「人事評価とは何のためにあるのか」を考えられたことがあるでしょうか。管理職の仕事だから仕方なく。上司に言われたから仕方なく。或いは、賞与や昇格昇進を決めるため。どれも間違いではありませんが、どれも本質的な回答でないことにはお気づきでしょう。人事評価とは決して、人に○×をつけたり、優越をつけることではありません。また、給与や賞与などの処遇を決めることが本来の目的でもありません。人事評価の目的は、人材開発にあり、人を育てることにあるのです。そう考えると、人を評価することも決して悪いことではなくなってくるのではないでしょうか。
確かに、人事評価には、評価結果により「処遇」を決定し、その処遇というツールにより社員のモチベーションを管理するという主たる役割があります。しかし、評価はそれだけではありません。評価そのものが「認知」であり、社員はこの認知によりやる気がでるのです。集団の一員である限り、社員は他者から認知されることで自分の存在意義を確認し、それがやる気につながります。誰しも、親や先生から「よくやった」「素晴らしい」と評価されることによって、喜びを感じ、やる気が出た覚えはあるでしょう。会社での評価もこれと同じなのです。評価は決して期末の人事的な作業ではなく、“ほめる”というような日常行動も重要な一端を担っているのです。そして、この認知の結果が、「じゃあ、今度は、この新しいことにトライしてみるか」とか「よし、来期は課長ポジションに推薦しよう」など、新たな「育成」や「配属」に繋がり、これが結果として人材開発に繋がります。その結果、個人が自己の「能力向上」を認識し、より高い責任や役割への「配属」により、さらなるやる気に繋がることになります。このように「評価」は、「処遇」に加え、「認知」「育成」「能力向上」「配属」という人材マネジメントの連鎖に繋がることにより、人材開発という真の意味を持つことになるのです。
| - | 評価制度はマネジメントツール |
評価はマネジメントそのものだともいわれます。先に述べたように、人事評価の最終目的は、決して部下の○×や優越を付けることや処遇を決めることではない、人材マネジメントの連鎖を刺激して、人のやる気を創出し、生産性を向上させ、人を育成し、業績向上を導くことにあります。これはマネジメントそのものだといえます。ということは、評価制度とはマネジメントツールに他なりません。評価制度は人事部の道具ではなく、現場のマネジャーのマネジメントツールなのです。そのように考えて、もう一度、皆さんの会社の人事評価表(考課表)を確認してみてください。どうでしょう。今までとは違った側面が見えてこないでしょうか。評価をすることは大変だし、簡単ではありません。しかし、評価を通して相互理解を深め、部下を育成する、そんなことをもう一度考えてみてください。
評価には、マネジメントツールとして育成以外のもうひとつ重要な側面があります。それは、評価が、企業は何を求めているかを伝えるメッセージツールであるという側面です。何を評価するのか自体が企業の意思表示であり、評価内容は企業が目指す目的や企業の成果に結びつくものでなければ意味がありません。
| - | 評価は企業のメッセージツール |
人事評価と一言でいってもその内容は多岐にわたります。これが整理できていないために苦労された人も多いはずです。評価を大きく分別すると、ヒトを基準とした社員個人の「能力評価」と社員の担当する仕事を基準にした「成果評価」に分けることができるでしょう。さらに、能力評価は、性格・資質や価値観に近いものから、発揮能力といわれるコンピテンシー、知識、技術力などに分けることができ、評価の目的や考え方によって、どのレベルを評価するのかが異なってきます。また、これらを潜在能力まで含めて評価対象とするのか、実際に仕事に使って健在化した能力のみを評価するのかで、さらにその意味合いは大きく異なります。また、仕事を基準とする成果評価でも、職責や難易度など与えられている仕事や役割そのものを職務評価として測定しその達成度を測る評価もあれば、業績結果の成果評価もあります。さらに、成果評価も最終結果のみを評価対象とするのか、途中結果も評価するのか、成果に至る行動等のプロセスも評価するのか、成果の定義にも考え方は色々とあるのが実際といえます。
評価制度を設計する際に、まず重要なのが、この「何を評価するのか」を明確にすることです。ちょっと、考えてみていただきたい。営業と回路設計が同じように評価できるだろうか。新入社員と課長が同じ評価軸でよいと思われるだろうか。実際の場面を考えると難しいのがお分かりいただけるでしょう。実際には、何でもかんでもひとつの評価シートに突っ込んでしまっているケースがよく見受けられます。結果として、何を評価したいのかが分からず、現場で混乱を招き、挙句の果てには社員のやる気を殺いでしまうような評価制度になっているケースが見られます。そうならないためには、現場のマネジャーが何を評価すべきだと考えているのか、部下の何を評価したいのかを明確に認識し、その上で、人事或いは会社のマネジメントと議論して、評価の内容を決定する必要があります。例え、それが無理でも、少なくとも現場のマネジャーは評価の目的や意図を理解し、部下にそれを説明できる必要があります。そうでなければ、評価が育成の場になることはありません。
(TPIS 2004年8月号掲載)