プライスウォーターハウスクーパースHRS 組織・人材マネジメント コラム

連載 「戦略人材マネジメント基礎講座」
第6回 うまくいかない成果主義

'05.04.15

プライスウォーターハウスクーパースHRS株式会社
マネージング ディレクター
山本 紳也


今回は、「成果主義」について考えていきます。

- 成果主義がうまくいかない

ある大手メーカーの話です。「次の年の4月から新しい成果主義人事制度に全面変更する」と人事部長から説明を受け、A社は4月から年功は勿論、単なる努力や顕在化して仕事に生かされていない能力も一切評価しない、役割と成果のみで報酬が決定する制度になると理解していました。しかし、3月末、某新聞の春闘特集に載ったA社副社長のインタビュー記事には、「弊社も4月から完全成果主義に移行する。弊社の成果主義は形だけにとらわれない、潜在能力も考慮した成果主義だ。」と書かれていました。部長から説明を受けた内容ともそぐいませんし、何より『潜在能力も考慮した成果主義』というのが何なのか理解が出来ません。この後、従業員が混乱し、人事部や現場の部長が対応に追われたことは想像にたやすいでしょう。

あるチェーンレストランB社での話です。業種にもよりますが、リテールの売上は店長の力に大きく左右されます。そこで、この会社では、店長には完全成果主義を導入することにし、店長の月給は3ヶ月に一度、その前3ヶ月間の売上で決定し、大きな売上を上げた店長には高い給与を払う仕組みを導入しました。この時、当然ながら店のサイズや立地の条件設定も行いました。しかし、この結果、今まで売上が高く顧客層をよく掴んでいる店長は異動を拒み、売上の上がる条件は整っているはずなのに過去色々な理由(前店長の問題も含め)から売上の芳しくない店への移動は誰もが拒むようになってしまい、会社として戦略的な店長配置や店長の育成がままならなくなってしまいました。

最後はよくいわれる、成果主義人事失敗の典型例です。チェーンストアC社の例です。この会社では、アルバイトを含む全従業員に目標管理制度による評価結果によって報酬を決定する成果主義を導入しました。その結果、掃除や整頓など自分の成績にならない仕事はしない、目標は低く設定し難しい目標設定は拒む、そして、店長も部下からよく思われようと高い評価に偏り、低い評価はつけない。結果として、業績の向上に結びつかないどころか、逆にコスト高となり収益減に結びつく結果となってしまいました。

以上の3社は何れも成果主義移行により何らかの問題を抱えた例です。これらの会社では成果主義は馴染まないのでしょうか。止めてしまったほうがいいのでしょうか。個々の問題点を考えてみましょう。


- 成果主義には成果の定義は不可欠

まず、メーカーA社のケースは、制度そのものの話ではなく、もっと大切な人事の本質論の話です。そこには二つの大きな課題が見られます。ひとつは、『成果主義』或いはA社にとっての『成果』がきっちりと定義されていない点にあります。新制度の根幹に関わる言葉(=制度の真髄であり本質)の理解が会社のトップと人事部長ですりあっていないとすると、これは制度設計以前の問題です。従業員に何を求めるかが決まっていないということですから。『成果主義』という言葉だけが一人歩きをし、「何がどう変わるのか」「成果主義とは何か」「何を成果と呼ぶのか」などがクリアにならずに混乱を招いているのは昨今の特徴です。自社にとっての『成果』を定義することが成果主義導入のスタートになります。

もうひとつの課題はコミュニケーションです。成果主義人事のように会社の考え方や基本が大きく変わる場合には、社長を含めたマネジメントの誰が、どのような場で、どのように従業員に説明するかが重要となります。制度変更の背景となった環境や考えを理路整然と説明し、従業員に理解を求めることが重要です。この前に、マスコミを通して従業員に誤った理解を与えてしまったり、不安を招くような情報を与えてしまうことは絶対に避けなければなりません。


- 成果主義には正しい評価が不可欠

チェーンレストランB社のケースはどうでしょうか。店の業績を評価し、店長の処遇に結びつけることは間違っていないでしょう。ただ、単純端的に制度化してしまうと、それぞれの店のおかれている状況や戦略的な意味合い、それらによって店長に求められるものの相違点などが無視されてしまい、店長には不公平な制度となってしまいますし、会社にとっても決して得策ではありません。店の売上は最終結果ですから、これは重要です。しかし、そこに至る先行指標である、顧客の満足度、従業員の満足度や勤務態度、人件費その他のコストマネジメントなどを店の環境にあわせた目標設定の下で評価する必要があるでしょう。前年比や環境変化に合わせて業績を評価したり、戦略的な重要度を勘案して評価することも重要でしょう。


- 成果主義は現場のマネジャーが成否を握る

最後の成果主義失敗の典型例だと述べたチェーンストアC社のケースはどうでしょうか。目標設定に対する評価のみで処遇が全て決まるようにしてしまうと、目標設定したものを優先し、それしか仕事をしない人が出てくる可能性があります。職種にもよりますが、やはり結果に至るプロセスや能力、姿勢やその他の仕事振りも評価としては重要です。ただ、処遇に全てを結びつけるかどうかは議論の余地があるでしょう。目標を低く設定してしまうのは本人の問題ではありません。組織の目標を達成するためには何をやってもらわなくてはいけない、チャレンジングな目標でなければ組織にも本人にも成長がなく意味がない、など目標による管理(目標管理制度)の本質とその意味を伝えマネジメントのできていない店長(上司)の問題です。また、売上ではなく収益やコストマネジメントを店長の評価指標に入れることにより、店長にコスト意識の向上にも繋がります。どうもこの会社は店長の教育から始める必要があるようですね。

「日本企業に成果主義は馴染まない」というような成果主義廃止論も耳にします。本当にそうなのでしょうか。実際には、よく調べてみると、その多くは上記のような運用上の問題によるようです。今回は、幾つかの失敗事例を通して、成果主義を考えましたが、次回は、成果主義とは何かと中心に、真の成果主義のあり方を議論します。


(TPIS 2004年6月号掲載)