プライスウォーターハウスクーパースHRS 組織・人材マネジメント コラム

連載 「戦略人材マネジメント基礎講座」
第4回 戦略的人材マネジメントと戦略的賃金を考える

'05.01.07

プライスウォーターハウスクーパースHRS株式会社
マネージング ディレクター
山本 紳也


第3回では、戦略人材マネジメントに基づいた採用について述べました。採用後(或いは採用前)に必要となるのは、戦略的な賃金の決定です。戦略的に賃金を決定するとはどういうことでしょうか。戦略的賃金について考えていきます。


- 賃金は会社が何を重視するかを伝えるメッセージ

戦略人材マネジメントが事業戦略に根ざしていることは前回述べた通りです。従って、戦略的な賃金マネジメントとは、事業ビジネスを戦略的に遂行する上でどのように賃金を決定し支払えばよいかを考えることにあります。賃金マネジメントの要素としては、大きくは「何に対して賃金を支払うのか」という会社のメッセージと、本人のモチベーション(動機付けややる気)に繋がる「賃金水準」を考える必要があります。

一般的には賃金の決定要素としては大きく分け、(1) 労働の対価として、(2) 生活保障として、(3) 市場価格から、の三要素が挙げられます。ですが、この三要素には、何に対して払うのかという会社のメッセージでとしての (1) と (2) と、賃金水準決定要素である②と③が混在しています。

まず、会社のメッセージとして「何に対して賃金を支払うのか」という側面が戦略的な人材マネジメント上重要になります。労働法上はご存知のように、賃金は「労働の対価」と位置付けられています。ただ、この「労働の対価」も曖昧で、日本では、労働そのものである「仕事」ではなく、労働力や労働能力である「人」に対して賃金が支払われてきたのは、周知のところです。


- 人に払うのが職能給で、仕事に払うのが職務役割給

今、この賃金を「仕事」に払うのか、「人」に払うのかが問われています。今まで主流であった職能給は「人」である(職務遂行)能力に払っていたのですが、昨今多くの企業で成果主義の名の下導入されている職務給や役割給は人ではなく「仕事」である職責や仕事の難易度などで賃金を決定する考え方です。結論から言うとどちらが正しいという問題ではありません。会社の考え方と財務マネジメントの問題です。会社がどうしたいかを戦略的に考え決めることなのです。

今回は、職能給(或いは職能資格給)と職務給について解説します。職能という考え方(職能資格制度)は、日本固有の考え方で、高度成長期から現在までに最も広まった人事制度の基本的な考え方といえます。一般的には、会社が従業員各人に期待する「仕事を遂行するために必要な能力」を定義し、その定義に基づき従業員を評価し職能資格等級を決定し、賃金決定においてもこの基準で定められます。しかし、多くの企業で、この職能資格制度は年功序列的な運用に落ち着き、現在は制度疲労がいわれています。高度成長期、そしてその後のバブル経済の時代、日本国の経済も企業もが右肩上がりを続けてきた時代、少品種大量生産事業モデルの中で企業は成長し、その中で、企業が従業員に求めていたものは、経験や熟練をベースにした能力だったといえます。結果として、職能制度は年功的運用となり、また、成長を続ける企業も職能が上がった従業員に常により高い職務を与えることが可能でした。しかし、バブル経済の崩壊とともに右肩上がりの成長が見込めなくなり、毎年確実に人件費が増加する年功序列型になってしまった職能資格制度は、制度疲労を起こしてしまったのです。

そこに出てきたのが欧米型の「仕事」で賃金を決める職務給やさらに少し日本流にアレンジし人の担っている仕事の役割を基準にした役割給です。職務給や役割給は人ではなく「仕事」を評価測定し賃金決定基準とします。従って、「仕事」に就く能力を持っているかどうかは重要ですが、決して能力の保有の有無で賃金は決まりません。この考え方の下では、従業員の年齢、経験や能力で給与の変動は無く、事業と連動しない人件費の高騰を防ぐことが可能です。また、賃金が組織における仕事の価値に対応するため、組織戦略と連動した人件費管理が可能になります。何より、従業員が価値の高い仕事に就かなければ賃金は上がらないのだと理解することが、従業員意識の改革になります。しかし一方で、職務等級導入により、労働市場のない日本の雇用慣行であった人事異動(ローテーション)が職務等級による縛りによって困難になります。また、長期に渡り同一組織に貢献しても、上位ポジションに空きが無ければ昇進できずモチベーションを落としかねないことも否めません。


- 賃金は働き方に合わせて多様化するもの

先にも述べたように職務給が良いのか、職能給でよいのか、これは第三者が一概に言えることではありません。それぞれに良し悪しはあります。事業戦略と照らし合わせて、どちらが良いのか、従業員はどのようにすればモチベーションに繋がるのか、あるいは、熟練を要する事業の戦略上、年功序列賃金がよければそれでよいのです。ただ、事業が複雑化し、事業を取り巻く環境の変化が激しくなった今日、会社でひとつの考え方では対応ができなくなってきています。ひとつの事業を担う従業員にも、無期限正規雇用社員と有期契約社員、派遣社員、パート・アルバイト、時間労働者、裁量労働対象者、プロジェクト契約の人材、多種多様な働き方が存在し、それぞれに賃金の構造やその意味が異なるようになっています。これらを如何に生産性高く使いこなすかが戦略賃金マネジメントに求められるようになっています。また、ピラミッド組織とプロジェクト・タスクフォース型組織が共存する企業も多くなっています。これらも組織の形態により人事の考え方が異なります。

賃金の決定は戦略人材マネジメント上も重要項目です。市場価格論を含む、雇用の多様化と労働市場と賃金水準の話は次回以降解説します。


(TPIS 2004年4月号掲載)