プライスウォーターハウスクーパースHRS 組織・人材マネジメント コラム

連載 「戦略人材マネジメント基礎講座」
第3回 戦略的人材マネジメントと戦略的採用を考える

'04.11.25

プライスウォーターハウスクーパースHRS株式会社
マネージング ディレクター
山本 紳也


ビジネス戦略を達成する上で、人事はどのような役割を担うのでしょうか。また、ビジネス戦略達成のために人材マネジメントをどのように考える必要があるのでしょうか。戦略採用を含めて、戦略人材マネジメントについて考えていきます。

- 事業戦略を達成するのか戦略人材マネジメント

戦略人材マネジメント(或いは戦略的人材マネジメント)という言葉を聞かれたことはあるでしょうか。人事戦略あるいは人材マネジメント戦略というのが、人事や人材マネジメントのあり方を戦略的に考えるということを意味するのに対し、戦略人材マネジメントとはもう少し上位的概念で、企業戦略や事業戦略を達成するために人材マネジメントをどう考えるか、即ちビジネスの成功のために人事管理や人材開発をどうすればよいかを戦略的に考えることと捉えられます。

では、戦略人材マネジメントと、昨今よく聞かれる成果主義人事と何が違うのでしょうか。戦略人材マネジメントが評価や報酬のマネジメントに止まらず、採用から配属、育成、代謝まで、人材マネジメントのバリューチェーン全体を対象とするのに対し、成果主義人事は、評価と処遇のあり方に限定的に用いられるケースが多いようです。実は、これが成果主義人事はうまくいかないと言われる所以ともいえるでしょう。

戦略的に人材マネジメントを考える場合、当然、人事を事業と切り離して考えることができなくなります。事業上の戦略や目標があり、その戦略や目標を達成するために、どのような人材を採用し、どのような人材を育て、どのように人材をマネジメントしていけばよいのか、これを考えるとこが重要なのは前回書いた通りです。特に難しいことを言っているわけではなく、本来人事とはそういうものであったはずです。では、具体的にこの戦略人材マネジメントはどのように実践していけばよいのでしょうか


- 採用も戦略的に実施する時代

まず、今回は人事のバリューチェーンの第1ステップである戦略的採用から考えてみましょう。日本の大手企業で過去とられてきた採用戦略は、春に高学歴新卒を一斉採用する(青田刈りする)というものでした。これは、ポテンシャルの高い学生ということで偏差値の高い学生を採っていたわけですが、今でこそ否定的に言われるこの手法も過去は間違っていなかったのです。

旧国立一期校を頂点とした日本の学校教育の構造、入試というフィルター制度と、如何に海外から技術を学び、工夫をこなし、高い品質と高い生産性を獲得し、組織で対応する少品種大量生産時代のモデルにはある程度合致していたといえるでしょう。ただ、時代とともに、教育制度・入試制度が「考える」ことから暗記とテクニックへの偏重を生み、時代のニーズは反対にテクニックではなく「考える」ことを求める創造性と多品種少量生産時代に変化し、今までの採用モデルが戦略的とはいえなくなってきたのです。現在求められる戦略的採用とは、ビジネスに直結し、組織・職務に具体的に求められる要件を定義し、要件にあった人材を採用する以外にありません。

シリコンバレーで聞いた話です。あるデータベース開発会社は増収増益を続けているものの、経営陣は、5年後を考えると全く新しい概念のデータベースを開発できていなければ会社の存続はないという結論に達しました。同時にそのような新しい概念のデータベースを開発できる人材は社内にはいないとも判断されました。そこで、その会社では、そのような開発に興味のある大学の先生に巨額の研究費を投資し、次世代データベースの研究開発を依頼すると同時に、そこの学生を順次採用する道筋を作ったのです。結果、プロジェクト自体も成果も学生の採用と同時に社内に移管されたのです。まさに戦略的採用と言えるでしょう。


- 即戦力人材と組織戦力とは別

しかし、技術的な戦力の採用に偏重しすぎるのも要注意です。中途採用で技術力の高い人材を採用したものの、周りの人とうまくあわず、プロジェクトの生産性が逆に落ちてしまい、結果として採用が失敗と言わざるを得なかった経験をお持ちの方もおられるのではないでしょうか。会社組織には必ず固有の価値観があり、異なった風土や文化があります。個人が知識や技術を身に付けるのは研修やOJTで可能でも、個人の価値観や行動様式を簡単に変えることができません。組織力を考えると、組織の価値観にあった人を採用することも非常に重要です。これも戦略的採用なのです。

下の図で説明しましょう。この図では横軸が価値観、性格、考え方やコアコンピテンシーと呼ばれる行動様式等のソフトスキルを指します。縦軸は知識や技術に加え職務に直結した能力(パフォーマンスコンピテンシー或いはマーケットコンピテンシー)などハードスキルといわれるようなものを指します。通常、中途採用時には即戦力としてこの縦軸を意識してC人材を採用しているはずです。逆に、新卒採用時には、「うちあった人材」といって横軸を意識したB人材を採用しているのではないでしょうか。しかし、最終的に組織が求めているのはB人材でもC人材でもなく、A人材です。B人材は研修やOJTを通じて知識技能を習得しA人材に育つ可能性が高いといえますが、価値観の出来上がっている中途採用のC人材を組織文化に適合したA人材に育てるのは至難の技なのです。

もちろん最初からA人材が採用できるにこしたことはありませんが、そんな人材が市場にたくさんいるわけではありません。採用を戦略的に考えるには、3年後、5年後のビジネスや組織を考え、この図の縦軸と横軸の要素が何になるのかを整理し、どのような人材をいつ採用し、どのように育てるのか、戦略的なプランニングを立てることが望まれます。

(TPIS 2004年3月号掲載)