できる管理職の「評価テーマ」の掲げ方
前編 「部下に対する力強いメッセージの条件」
'04.09.01
プライスウォーターハウスクーパースHRS株式会社
シニアマネジャー
鳥谷 陽一
今期の「評価のテーマ」は何にすればいいのだろうか。
どんなテーマをどのように掲げれば、大勢の部下をうまく動かし、成果を挙げさせることができるのだろうか。部下を預かるマネジャーの迷いは深く、責任は重い。
| - | 「部下に対する力強いメッセージ」の条件は何か |
仕事は増えても人は増やせない。増えた仕事を部下メンバーに落としこむことができなければ、自分でがんばるしかない・・・。長引く不況の中で、部下を預かるマネジャーにとっては受難の時代が続いています。
我々コンサルタントは、あらゆる組織のマネジャーにインタビューや考課者研修を行うなどして、彼ら彼女らの考えや意見に直に触れることが増えてきましたが、そのようなやり取りの中で興味深い一つの気づきがありました。それは、これだけの不況の時代であっても、どこの組織にも元気のいいマネジャーはいるもので、さらにそのマネジャーたちにはある共通の特徴があるということです。一言で言えば、それはビジョンを描き、それをもって部下を鼓舞できるマネジャーです。しかし、このビジョンという言葉は、どうもごまかされているようで腑に落ちません。もっと簡単な言葉で言えば、元気のいいマネジャーとは、それは「作戦を語れるマネジャー」であるということです。それも単なる思い付きの作戦ではありません。例えば、上から必達の数値目標が下ろされたから、仕方なしにその達成のためのアクションを練るというように、昨日今日で考えた「とってつけたような作戦」では決してありません。ではどのようなものなのでしょうか。それは、ある種「いやらしい作戦」とでも呼べるくらいに、儲けにつながる、あるいは成果につながるためのイメージが湧いて、関係者をわくわくさせることができる、そのような作戦なのです。
人は何に動機づくかというモチベーションの理論から考えると、「そもそも、その目標を達成することは自分にとってどんな意味があるのか」とか、「その目標を達成したらどのように評価されるのか」などの、広い意味での仕事の報酬が見えなければならないのですが、昨今の経営環境では、それらの要因よりむしろ「その作戦に一枚かみたい」という一瞬のときめきのほうが有効なようです。
会社更生法の適用を受けたある企業に、新しく建て直しのために雇われた(エグゼクティブ)マネジャーの実例があります。そのマネジャーは一見、無謀とも思える高い利益目標を掲げそれに向かって走り出そうとしているのですが、その達成のための作戦を直に聞くと、第三者のこちらまでもが、「もしかしてこれは十分いけるのではないか」とわくわくしてしまうのです。
もちろん、これは再生を検討するプロセスの中でそのマネジャー自身が財務状況をはじめとする現状をつぶさに分析し、そして新しいビジネスの方向性と改善テーマを示しているからこそ、力強いメッセージになっているのです。また、そのメッセージも初めから皆の賛同を得るものではなく、ときに否定的な反応や批判的な意見とぶつかることも多かったはずです。
しかし、それでも利益目標の背景にある信念や意図を、根気よく言葉で説明したり、他者の反論も真摯に受け止めたりしながら、修正あるいは新たな言葉で解釈し直し、徐々に説得力のあるものとし、結果として独りよがりの部分が削られた「作戦」になっていったと考えられます。
このようにして、初めは夢物語でしかない目標も、その実現がイメージできるように十分な道筋が加わることによって、他者を鼓舞させるものになっていくのです。この事例が教えてくれるのは、「マネジャーは決して饒舌である必要はない。しかし、他者の納得を得るためには力強くかつ根気強く話すことが不可欠で、その意味で雄弁ではあらなければならない」ということなのではないでしょうか。
マネジャーにとって他者の「納得を得る」こと、そのスキルを磨くことは極めて重要で、それにはやはり言葉による的確な説明(表現)を繰り返していくことなくしてはありえません。
後編:「上司として雄弁であるためのポイント」へ続く
(雑誌プレジデント2004年5.31号 「職場の心理学」第99回
「できる管理職は「評価テーマ」の掲げ方がうまい」掲載 前半部分より)
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