「肩書を失ったベテラン社員」を動機づける
後編 「肩書きを失ったベテラン社員」に対するマネジメント
'04.09.15
プライスウォーターハウスクーパースHRS株式会社
シニアマネジャー
鳥谷 陽一
組織のフラット化が進んで、今まで持っていた肩書がある日突然無くなり、やる気を失うというケースが増えてきています。元部長、元課長、元係長、元主任たちの仕事に対する動機づけをどのようにすればよいのでしょうか。
| - | 役割を検討、明確化すればモチベーションは必ずアップする |
「肩書きを失ったベテラン社員」がいる状況で管理職がまずやらなければならないことは、ベテラン社員Aさんの「役割の検討・明確化・徹底」です。具体的には、Aさんの存在価値としての役割を、本人の希望も参考にしながら考えます。場合によっては若手リーダーも巻き込んで考え、それを明確な言葉で定義できたら、職場のメンバー全員にも明示します。
もし仮にAさん自身が「わたしはこの分野の専門知識を活かして後輩に指導する役割を担いたい」と考えている場合、権限を持つ人(管理職)が、その役割をオフィシャルにするのとしないのとでは、周りの受け止め方(Aさんへの頼り方)はかなり違ってくるはずです。オフィシャルにするというのがやや仰々しいとするならば、会議の席上でAさんのその分野の実績とともに、一言紹介するだけでもよいのです。ベテラン社員の優れている点を若い社員は案外理解出来ていないことが多いので、極めて基本的なことではありますが、役割や仕事の明確化こそが、新人であれベテランであれ、その人の努力の方向性や大きさに少なからず影響を与えることが出来るのです。
また、管理職からAさん自身への直接的な指導も重要となります。もし自分よりAさんの方が年齢もキャリアも上である場合は、特にただそれだけで指示命令そのものを遠慮してしまいがちですが、新人と同じような対応は必要ないにしても、納期や品質面からの大局的なマネジメントは可能であり、有効です。
さらに、コミュニケーションのとり方も重要で、あたりさわりのない世間話に終始するのではなく、仕事の話を真剣に行うように心がけます。どうしても接触頻度が少なくなりがちなベテラン社員だからこそ仕事のコミュニケーションが必要で、そうすることでそのベテラン社員自らが、その職場での新しい役割を創り出す可能性も高まります。
逆に、Aさんはベテランだからという理由で放任しておいたとしたら、周りのメンバーに「あの人は特別な存在、何をやっても許される人」という印象を与えてしまい、ますますAさんが職場の中で孤立してしまうかもしれません。
最後に、「組織のフラット化」は、管理職に何を求めているのか、つまりなぜ組織はフラット化を進めるのかという視点から、本テーマの解決策を考えたいと思います。
実は「フラット化」は、管理職に対してこれまでとは大きく異なる役割を果たすことを要求しています。端的に言えばそれは職場内外の状況をとらえ、主体的に課題を形成し、迅速に意思決定し行動して欲しい、というものです。
これまでのように上からの指示を待ち、それを下にそのまま(あるいはちょっと言葉を加えて)下ろすだけでは、フラット化した組織で管理職を担う資格はありません。また一方で、フラット化にはデメリットもあります。現場に近いところで意思決定が進むと、決定の遅れによる機会喪失は防ぐことは出来ますが、近視眼的で必ずしも組織全体として最適な意思決定にならない可能性もあります。つまり、それぞれの職場の決定が、それぞれの職場にのみ有利な方向に進んでいってしまうという危険性もはらんでいるのです。
このような、フラット化によって委譲された権限を積極的に発揮していく際や、あるいは逆に独断と偏見になりがちな意思決定に歯止めをかける際に、そのどちらにおいても、ベテラン社員の持ち味を発揮してもらう方法を探れるのではないでしょうか。隣の部門に協力を依頼するときにベテラン社員の経験や顔が活きることもあるかもしれません。また、自身が「絶対にこれでよし」という判断を下すときに、ベテラン社員だからこそ言える冷静な反対意見に助けられることもあるかもしれません……。
| - | 目標は役職を得ることなのか、仕事で成果を出すことなのか |
このような、ベテラン社員の役割を明確にする努力をすると同時に、組織としては、役職はステータスではないという全員の認識を高めていくことも必要となってきます。一般的に、「役職者は非役職者より身分が上」などのステータスによる秩序を薄めていくためには、そのステータスが短期間で変わっていくことが効果的とされています。
したがって、「うちの会社では役職を外れる人が出るのはめずらしいことではない、普通にありうること」と言えるくらいに、あえて役職者の入れ替えや上司と部下の年齢の逆転を進めていくことも組織レベルでは必要になります。「管理職はゴールではないし、役職は既得権ではない」という風土が形成されていかなければ、真のフラット化は進みません。ある意味では、役職を外れた人が活き活きと働ける組織になってこそ、フラット化の目的が達成できたとみることも出来るのです。
このような仕組みや制度の問題には直接着手出来ない管理職も、「自分が役職を外れたら、どのような形で存在意義を示したいか」という心とスキルの準備は進めておく必要があります。そのことが、ベテラン社員の立場や心情を理解することにもつながり、結果的に今のマネジメントにも活きるはずです。
肩書を失った部下を励ますための方法は、簡単にまとめてしまえば、組織(職場)の目標を、その部下自身の目標として内在化させ、有能感や達成感の対象を、“ステータスとしての役職”から“成果としての仕事そのもの”へと移していくということです。
そしてそれは結局のところ、いずれ役職を失うであろう未来の自分のためにも、ややもすれば肩書に満足しがちないま現在の自分自身のためにも、あてはめて考えておきたいことなのです。
(雑誌プレジデント2003年1.13号 「職場の心理学」第67回
「「肩書を失ったベテラン社員」を動機づける法」掲載 後半部分より)
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