業種別財務分析(研究開発費中心)‐携帯電話(移動通信)

2017年3月7日

研究開発は、企業の将来の収益性を左右する重要な活動であり、研究開発費は有価証券報告書にも開示される情報です。
情報通信業界の国内主要3社であるソフトバンクグループ株式会社(以下、ソフトバンク)、KDDI株式会社(以下、KDDI)、株式会社ドコモ(以下、ドコモ)の研究開発費および売上高研究開発費率を時系列比較で分析していきます。
そして、情報通信業界の主要3社のうち特にソフトバンクに着目して、分析を行っていこうと思います。

【表1】情報通信業界主要3社の研究開発費および売上高研究開発費率の推移

企業名 項目 2011年度 2012年度 2013年度 2014年度 2015年度
ドコモ 研究開発費
[百万円]
108,500 111,300 102,000 97,000 83,300
売上高
[百万円]
4,378,533 4,509,898 4,432,980 4,285,456 4,461,505
売上高研究開発費率
[%]
2.56 2.49 2.29 2.21 1.84
ソフトバンク 研究開発費
[百万円]
866 778 3,507 10,775 8,870
売上高
[百万円]
3,202,435 3,202,536 6,666,651 8,504,135 9,153,549
売上高研究開発費率
[%]
0.03 0.02 0.05 0.12 0.10
KDDI 研究開発費
[百万円]
32,855 28,880 24,086 20,627 18,001
売上高
[百万円]
3,572,098 3,662,288 4,333,628 4,270,994 4,466,135
売上高研究開発費率
[%]
0.92 0.79 0.56 0.48 0.40

決算日:2012年3月期(2011年度)~2016年3月期(2015年度)。なお、ドコモは米国基準ベースの数値、ソフトバンクは2012年度よりIFRSベースの数値(2011年度は日本基準)、KDDIについては2014年度よりIFRSベースの数値(2013年度以前は日本基準)。

研究開発費の過去5年推移比較

まずは、対象とした3社の過去5年間の研究開発費の推移を見ていきましょう。
研究開発費の平均値については各社の規模により差は生じているものの、特徴的な点としては、ソフトバンクについては年々増加傾向であるということです。研究開発費が2013年度(2014年3月期)に前年度比約4.5倍の増加となっていますが、その背景として、米国のSprint Corporationの子会社化に伴う影響が大きいようです。ソフトバンクでは、2013年度にSprint Corporationを子会社化し、新たな報告セグメントとして、スプリント事業を設けています。そして、ソフトバンクの有報における“研究開発活動”を参照すると、主に当該期間における研究開発に関する投資は、既存の移動通信事業に加えて、新たに加わったスプリント事業に対して行われていることが分かります。そのため、Sprint Corporationの買収が、研究開発費の増加の一因であると考えられます。

【図1】研究開発費推移
単位:百万円

売上高研究開発費率の過去5年推移比較

売上高研究開発費率は、研究開発費と売上高の比率から会社の成長性を判断する指標として有用です。

売上高研究開発費率=研究開発費÷売上高×100

では、対象とした3社の売上高研究開発費率の推移を見ていきましょう。
対象とした各企業では、過去5年間においてほぼ1%以内の変動幅で推移しており、一定水準を維持していることが分かります。継続的に研究開発投資を行っている企業が多いと言えます。今回の売上高研究開発費率を詳しく見てみると、ソフトバンクについては研究開発費の金額と同様年々増加していることが分かります。なぜソフトバンクの売上高研究開発費率が増加傾向にあるのかを分析してみると、前述したようにSprint Corporationの子会社化に伴う影響が大きいかもしれません。さらに、興味深いのは上述の研究開発費推移と売上高研究開発推移、両方とも共通して同じ増減の動きをしていることです。ドコモは図1と図2ともに年々減少しており、またソフトバンクとKDDIとの差が図1と図2ともにあるというのがどちらの図表においてもうかがえます。将来的には、ソフトバンクの研究開発費が、KDDIの研究開発費を超える日が来るのかもしれません。

【図2】売上高研究開発比率推移

最後に、ここ最近(2017年2月現在)のニュースで、ソフトバンクがスプリント事業を売却するのか継続するのかについて取り上げられています。実際に売却するかどうかは分かりませんが、仮にスプリント事業を売却した場合に、研究開発に対する投資額がどのように変動していくのかが今後注目されます。

PwCあらた有限責任監査法人
第1製造・流通・サービス部
楢木 航平

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