IPOの公開価格、初値、1年後の株価の比較‐全般

2015年1月27日の事例紹介において、2014年1月1日から11月27日までに日本の証券市場に新規上場した企業46社(以下、IPO企業)の公開価格・初値等の分析をIT企業を中心に行いました。前回の分析時点から1年余りが経過した今回、IT企業を含む各IPO企業の株価がどのように変化したかを追跡しました。

業界別の分析

まずは、前回の分析と関連付けるため、IT企業を除く全業種とIT企業の2分野に分類した場合の2014年における結果は以下のとおりでした(【表1】)。

【表1】公開価格と初値の比較(REIT、Pro Marketを除く)
業種 企業数 公開価格からの騰落率
(A)初値との比較*1 (B)1年後の株価との比較*2
IT企業 23 147% 13%
IT企業を除く全業種 50 63% 30%
  73 89% 25%

(注1) 2014年1月1日~2014年12月31日までに新規上場した企業を対象としました。(前回のデータ基準日以降の2014年11月28日から12月31日までに新規に上場した26社をデータ対象に加えています)
(注2)騰落率はそれぞれ以下の算式により算定しました。
*1(初値-公開価格)÷公開価格
*2(1年後の株価-公開価格)÷公開価格、1年後の株価は上場日の365日後の終値、休日の場合は直前取引日の終値

上記【表1】のうち、(A)「初値との比較」は前回の分析対象とした、初値と新規上場時の公開価格を比較した割合です。IT企業が他の業界平均と比較して高い値となっています。一方、(B)「1年後の株価との比較」は1年後の株価を新規上場時の公開価格と比較した割合です。初値が公開直後のマーケットの期待等を反映した超短期的な指標であるのに対して、1年後の株価をIPO企業が上場して1年間事業活動を営みその結果を反映した値であると捉えるならば、(B)の指標はIPO企業が新規上場時に公表した公開価格に見合う経済的価値を生み出したのかを、1年間の業績により市場が下した評価と考えることができます。
このような視点でみると、IT企業の(B)の値は13%と業界平均で公開価格自体は上回っているものの、IT企業を除く全業種の平均値である30%を下回っています。そこで、下記のとおり詳細な分析を追加しました。

まず、上記(A)(B)の指標について、上昇/下落に大別し、それぞれの組み合わせで4とおりに大別しました(【表2】騰落率の正負による業種別の分類)。すなわち、「ⅰ.(A)(B)ともに上昇」(初値、1年後の株価ともに公開価格を上回っていた銘柄)、「ⅱ.(A)は上昇、(B)は下落」(初値は公開価格を上回ったものの、1年後の株価は公開価格を下回った銘柄)、「ⅲ.(A)は下落、(B)は上昇」(初値は公開価格を下回ったものの、1年後の株価は公開価格を上回った銘柄)、および「ⅳ.(A)(B)ともに下落」(初値、1年後の株価ともに公開価格を下回った銘柄)となります。

これらの結果をみると、IT関連(情報通信業)の企業は、ⅰのカテゴリーにおいて7社、ⅱのカテゴリーにおいては15社となっていました(残り1社はカテゴリーⅳ)。すなわち、2014年に上場したIT企業23社のうち、およそ2/3の数の15社のIT企業が初値では公開価格を上回ったものの、1年後には新規上場時の公開価格を下回る株価となっています。このことが、【表1】の(B)の指標が業界平均を下回ることになった原因と言えそうです。

【表2】騰落率の正負による業種別の分類(業種は企業数順)
カテゴリー 業種 企業数 公開価格からの騰落率
(A)初値との比較 (B)1年後の株価との比較
ⅰ.(A)(B)ともに
上昇
サービス業 12 164% 96%
情報通信業 7 190% 129%
小売業 6 65% 57%
化学 3 7% 93%
電気・ガス 1 11% 53%
証券・商品先物業 1 27% 10%
その他製品 1 134% 63%
集計 31 125% 90%
ⅱ.(A)は上昇、
(B)は下落
情報通信業 15 136% -35%
サービス業 4 88% -43%
機械 1 20% -81%
医薬品 1 28% -61%
食料品 1 52% -69%
精密機器 1 130% -16%
証券・商品先物業 1 126% -47%
集計 24 114% -41%
ⅲ.(A)は下落、
(B)は上昇
小売業 2 -1% 53%
サービス業 2 -4% 57%
陸運業 1 0% 122%
電気機器 1 -5% 1%
電気・ガス 1 -6% 25%
集計 7 -3% 52%
ⅳ.(A)(B)ともに
下落
小売業 2 -9% -22%
電気機器 2 -12% -60%
情報通信業 1 0% -75%
化学 1 -6% -38%
保険業 1 -8% -2%
医薬品 1 -20% -49%
その他製品 1 -8% -43%
陸運業 1 -9% -21%
食料品 1 -7% -4%
集計 11 -9% -36%
総計 73 89% 25%

銘柄別の分析

上記【表2】をもとに、銘柄別の数値をグラフにしたものが下記グラフ1になります。初値にこだわらなければ(カテゴリーⅰとⅲの合計)、新規上場後、1年後には公開価格を上回る株価で取引されているIPO企業は37社と、全体の約半数程度であるといえます。

【グラフ1】騰落率の正負による分類

(注:赤色丸:IT企業、黄色四角:IT企業以外の業種。グラフ中の棒線は、細い赤色がIT企業の線形近似、太いオレンジ色が全業種の線形近似)

【グラフ1】騰落率の正負による分類

上記グラフにおいて、全業種の近似曲線とIT企業の近似曲線を比較してみました。上記の通り、概ね全業種とIT企業も(A)(B)は正の相関関係を持ち、特色は似通っているものの、IT企業の近似曲線の方が傾きが急であることから、IT企業の方が感応度、すなわち初値がより高い場合に1年後の株価がより高くなる傾向にあると言えそうです。

最後に、2014年に上場したIT企業の中で最も1年後の株価が最も上昇した銘柄と最も下落した銘柄を紹介したいと思います(【表3】 上昇度合/下落度合のもっとも大きい銘柄)。

【表3】 上昇度合/下落度合の最も大きい銘柄
  カテゴリー 会社名 初値との比較 1年後の株価との比較 市場 事業内容
最も上昇した銘柄 FFRI 177% 614% 東証マザーズ サイバー・セキュリティ対策製品の研究開発および販売 他
最も下落した銘柄 gumi 0% -75% 東証1部 モバイルオンラインゲームの開発、運営および配信

最も上昇した銘柄であるFFRI(株式会社FFRI、証券コード3692)は2007年に設立された独立系のITセキュリティ関連企業で、独自のITセキュリティ技術に強みを持っています。
2014年9月に上場した後、2015年4月には2015年3月期の業績を上方修正(予想売上高を+1.5%増加修正)し、さらに2016年3月期の業績予想において売上高が前事業年度比+107.1%の増加と発表されるなど、市場の期待を集めています。これらの結果、上場から1年後の株価は、公開価格1,450円から614%上昇した10,350円で取引を終えています。

最も下落した銘柄であるgumi(株式会社gumi、証券コード3903)も同じ2007年に設立されたモバイルオンラインゲームの開発・運営会社です。 2014年12月の上場以降、2015年3月に業績下方修正の公表により株価がストップ安(注:なお最終的に2015年4月期においては修正前予想数値には届かなかったものの、売上高は前事業年度比+146%の増加となり黒字化も達成した)となった他、2016年4月期第2四半期において売上が伸び悩んだ結果、15億円の営業損失を計上しています(2015年4月期第2四半期は営業利益11.6億円を計上)。これらの結果、上場から1年後の株価は、公開価格3,300円から-75%下落した831円で取引を終えています。

PwCあらた監査法人
第1製造・流通・サービス部

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