シスメックス株式会社

安全保障貿易の管理体制を整備しグローバル規模でコンプライアンスを強化

シスメックスでは、2006年からグローバル規模での貿易コンプライアンスの強化と貿易業務の効率化に向けた取り組みを開始しました。シンガポールの現地法人にSAP GRC Global Trade Servicesを基盤とした安全保障貿易管理テンプレートを導入し、2008年9月に本稼働を開始しました。
今後、同社では 2010年3月までにこのテンプレートを順次グループの全拠点にロールアウトしていく計画です。当社は、このロールアウト計画までを含めたコンサルティングパートナーとして、プロジェクト全般を支援しています。

安全保障貿易に対する危機意識から管理体制の整備を決断

世界150カ国以上でサービスを展開し、2007年3月期の売上高が1,000億円を突破したシスメックスでは、急速な事業の成長に伴い、グループ全体の経営基盤の整備が大きな課題となっていました。海外の売上比率が台数ベースで約8割、金額ベースで約7割を占める中、同社の目指す「ワンカンパニーマネジメント」の実現に向け、グローバル規模での業務の標準化とそれを支えるIT基盤の整備が急務でした。そこで会計や生産、SCMといった基幹システム統一を決断。基本コンセプトをBIS(Business Infrastructure Standardization)と名付け、プロジェクト化に向け検討を開始しました。
安全保障貿易の管理体制構築は、グローバルな在庫管理や連結決算の早期化などと並んで、このBIS構想で掲げられた改革テーマの柱の1つです。約30社に及ぶ海外子会社も含め、グループ全体の貿易ガバナンスには、業務プロセスの標準化とシステム整備が必要となるためです。この対策として、同社は2006年4月、安全保障管理課を新設し、グローバルな管理体制の強化に向けた具体的な活動を開始しました。
新たな統括組織を設置する大きなきっかけとなったのは、2006年3月に経済産業省から出された通達「我が国輸出管理の強化策について」です。シスメックス株式会社 SCM本部 受注センター長の加門徹氏は、「安全保障貿易にかかわる法令遵守には、従来から積極的に取り組んできましたが、通達に基づいてあらためて自己点検を行った結果、輸出管理の仕組みが不十分であると認識し、改善に取り組むことになりました」と語っています。経営陣自らが、安全保障貿易管理を、企業の存続に関わる重要なリスクと判断しました。BISプロジェクトの企画案は2006年11月に承認され、その後、同社は安全保障貿易管理を支援するパートナー選定に着手しました。

プロトタイプも含む詳細な評価で当社とSAPの採用を決定

パートナー選定にあたってシスメックスが重視したのは、グローバル対応とプロジェクトマネジメントの実績でした。海外拠点の責任者も交えた検討の結果、グローバルプロジェクトマネジメントの豊富な経験に加え、安全保障貿易管理業務とシステムに精通した当社の提案が採用されました。BIS推進室部長の秋山雅俊氏は、「プロジェクトの目標設定やそこに至るプロセス、効果などが具体的でわかりやすく、実現性が高いと判断しました」と語っています。当社は、ソリューションとして高精度な法令遵守、貿易業務の効率化を実現するSAP GRC Global Trade Servicesを提案。国内唯一のGTS導入実績を有するコンサルティングファームであった点も、選定の決め手となりました。
一方、シスメックスはグループ内の基幹業務と基幹系システムの標準化を推進するBIS推進室の新設など、組織体制を整備していきました。2007年4月にはリスクマネジメント部を新設し、安全保障貿易管理機能を移管しています。BISプロジェクトでは、すべての改革テーマに対して、標準化すべき業務プロセスと管理体系を明確化した上で、システムをテンプレート化して各国にロールアウトするという共通のアプローチを採用しました。その中で安全保障貿易管理のプロジェクトメンバーは、2007年6月から8月にかけて当社とともにSAP GRC Global Trade Servicesの最終評価を行い、安全保障貿易の具体的な課題を検証しました。ライセンス購入にあたり、コンサルティングとシステムという両面からの総合的な評価手順を踏んだのです。
この評価期間に当社は、CRP(Conference Room Pilot)と呼ばれるプロトタイプを構築し、運用に即してさまざまな提案を行いました。受注センター物流業務課長の片山知恵氏は、「実際に業務が回るかという点を重視し、法律的な裏付けを基に複数案を提示しながら、最適な方法をアドバイスしてくれました。また、細かいレベルの質問に対しても綿密に調査し、システム化にあたっての条件設定なども噛み砕いて説明してくれたことで、安心感を得ることができました」と評価しています。
また、BIS推進室 課長の浜田豊春氏は「グループ標準の基幹系システムとなるSAP ERPとの親和性というメリットに加え、基幹業務の標準化、貿易実務の効率化や一元化という観点で電子通関などにも対応できる将来性を高く評価しました」と語っています。

現地担当者の業務理解を深め約4カ月のパイロット導入を実現

シスメックスがグローバル標準の安全保障業務設計を含むテンプレート構築に着手したのは2007年4月。日本国内のメンバーを中心に、トップダウンで海外展開を図るという体制で取り組みました。
「グローバルな視点から5年先、10年先を見据えて業務を設計する点には難しさもありました。つい日本での取引を前提に考えてしまい、海外現地法人の視点を忘れがちになります。単に安全保障貿易ということではなく、BISプロジェクトで掲げた改革テーマを念頭に置き、どう業務フローを組み立てれば目標を達成できるかを常に心がけました」(片山氏)
業務フロー設計に加え、業務ルールとコード体系の標準化も実施し、テンプレート構築は約7カ月で完了。2008年1月から、シンガポールの拠点を対象にしたパイロット導入を開始しました。パイロット導入に対する大きな懸念材料として、海外子会社では、安全保障貿易管理の強化やシステム化に対するイメージが充分でなかったことが挙げられました。また、安全保障貿易では、国による審査への対応だけではなく、たとえば包括許可制度のように、輸出者の自主管理が求められます。そこでプロジェクトメンバーは、現地の担当者に安全保障貿易管理の重要性を繰り返し説明し、納得した上で業務とシステムを設計することで、GTSについては約4カ月という短期導入を実現しました。リスクマネジメント部 安全保障貿易管理課長の山崎進二氏は、「テンプレートをベースに具体的なプロセスやルールを提示できたことで、担当者の理解も深まり、スムーズに導入できました。また、我々が現地の法体系を詳細に調査したことが大変役立ちました」と語っています。

輸出管理規制対応なども推進し全拠点へテンプレートを展開

パイロット導入では、テンプレートのアドオン開発や、日本とのインターフェースやマスター共有の仕組みなどを追加し、今後のロールアウトに向け完成度を高めました。また、秋山氏は、「現地で導入に携わったベンダーからは、テンプレートの有効性が高く導入が容易だったという評価を得ています」と語っています。
当社が提供したさまざまなドキュメントは、国内のメンバーも高く評価しています。浜田氏は、「専門性の高い安全保障貿易について参加メンバー全員が理解するのは非常に困難ですが、そこを補完する資料をコンサルタントが十分に用意したことで、メンバー全員の理解を促進することができました」と語っています。これらの資料は、業務設計やテンプレート構築のみならず、ユーザーテストや教育にも活用されました。
2008年9月にシンガポールでSAP Global Trade Servicesの本稼働を開始したシスメックスでは、今後2010年3月までに国内も含めた全拠点へのロールアウトを完了予定。2008年に神戸税関から特定輸出申告制度に基づく「特定輸出者」に認定され、社外からもコンプライアンス体制で評価を得ている同社は、ロールアウトにあたって機能の強化も視野に入れています。
「今後は、早い時期に米国のEAR(輸出管理規制)への対応をSAP Global Trade Servicesに取り込んでいきたいと考えています。米国認証規格のC-TPAT※の認証取得なども進め、グループ全体にコンプライアンスを浸透させていきます。システム面でのコンプライアンス強化は、企業価値向上という観点で非常に重要なことです」(加門氏/山崎氏)
当社が支援し、業務の標準化をシステムとともに実現したシスメックスのプロジェクトは、コンプライアンスに対する高い意識に支えられ、潮流に応じますます発展しています。シスメックスの取り組みは、安全保障貿易業務領域における業務とシステムの在り方を模索する新しい一手となるに違いありません。

※米国の国土安全保障省税関国境警備局が定義しているテロ行為防止のための税関産業界提携。
※社名・役職などは掲載当時のものです。