東日本旅客鉄道株式会社

6万2,000人に及ぶ人材の一層の活用に向けて戦略的な人事情報基盤を整備

東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)では、「社員システム」の老朽化・複雑化といった課題解決のため、ERP導入による全面刷新を決断。全フェーズを当社が支援した新社員システムは、2年半のプロジェクトを経て2007年10月に本稼働しました。パッケージを使用するシステムとしては国内外でもトップクラスの規模ながら、短期間でのシステム統合と業務標準化を達成し、早期の安定稼働を実現しました。「グループ経営ビジョン2020」で継続的な課題の1つに「人材の能力を向上させる」を掲げる同社は現在、さらなる戦略的ビジョン実現に向けて、新たな人事情報基盤を本格的に活用しています。

情報の一元化による人事戦略の強化

JR東日本では、2005年初頭から社員システムの見直しに着手しました。1990年に構築後、継続的に拡張してきた従来の社員システムには、人事、給与、厚生などの業務ごとに約40にも及ぶサブシステムが存在し、業務の複雑化や硬直化という課題が顕在化していました。今後の法改正や相次ぐ制度変更への迅速な対応、約6万2,000人に及ぶ人材のさらなる活用や育成を目指すため、システムの刷新が必要となっていたのです。
同社人事担当 常務取締役の深澤祐二氏は、「たとえば70線区・7,526.8営業キロという広範囲に展開する鉄道事業には、人材の適正配置が重要です。また、計画的な人材育成やOJTと集合教育の効果的な連携など、人事上のさまざまな施策を遂行していく上で、人事情報の一元化が不可欠でした」と強調しました。
ERP導入による全面的な刷新を決断したJR東日本では、人事業務とERPに精通した第三者の中立的な評価が不可欠と判断。複数のコンサルティング企業の提案を検討した上で、2005年8月に当社の提案を採用しました。同社人事部課長新社員システムプロジェクト グループリーダーの下村直樹氏は、「鉄道業界の人事システムを手がけた実績に加え、当社と一体で取り組む強い熱意を評価しました」と語っています。

「バリューモデル」の適用でパッケージの適合度を総合評価

JR東日本では人事部を中心に、2005年9月にジェイアール東日本情報システム(以下、JEIS)と当社の3社協同体制によるプロジェクトを発足。人事情報システムの刷新にあたって、まず業務プロセスの改善事項の検討を実施しました。
人事運用、教育、給与、厚生などの業務領域を検討対象に、本社・支社での業務標準化、フロントエンドにWebツールを活用した申請系業務の利便性やスピードの向上、庶務業務の負担軽減などの方向性を固めていきました。
パッケージ選定には、当社が豊富な実績に基づいて構築した、戦略・業務プロセス・ITとの適合性を総合評価する「バリューモデル」を適用しました。人事運用と給与、厚生業務機能においてJR東日本固有の要件に対する評価項目と評価点数を詳細に設定し、総合的な適合度を評価。これらの評価に加え、同業他社への導入実績に基づく安定性、導入スケジュールの確実性なども評価した結果、SAP ERP HCM(SAP ERP Human Capital Management)の導入を決定しました。

先を見通したプロジェクトの方法論と実行力を評価

JR東日本は、要件定義から構築、稼働後に至るフェーズについても引き続き当社をパートナーとして選択しました。JR東日本固有の人事業務を十分に理解していたこと、当社の人事システム導入方法論「H-1」を高く評価したためです。JEISの常務取締役システム開発本部長の五十嵐得郎氏は「3社の明確な役割分担、SAP関連の技術に関して当初からJEISへのスキルトランスファーを計画に組み込むなど、先を見通したコンサルタントのプロジェクト運営を評価しています」と語っています。
プロジェクトでは、ドキュメントの標準化や情報の共有、品質管理、進捗監視などを担うPMOが支援する推進体制を確立。2005年11月からは、新業務・新システムで実現する機能やインフラを具体的にする要件定義に着手しました。
「業務要件はERPの標準機能を活かすという考え方を基本に、たとえば帳票削減につながる要件を重視し、メンバー自らが定義していきました」と語る下村氏。プロジェクトは、この新業務プロセスの早期定着を目指してチェンジマネジメントチームを結成し、社内広報活動や全社的な教育計画、運用支援のためのマニュアル整備なども進めていきました。
業務要件を実現する基盤としては、プラットフォームにMicrosoft Windows Server 2003を採用。セルフサービス化を実現するSAP NetWeaver Portal、環境変化に対する柔軟性と拡張性を確保するSAP NetWeaver XI(現在はSAP NetWeaver PIとして提供)、ユーザインタフェース構築の開発フレームワークである WebDynpro for ABAPなど、SAPの最新技術を全面的に採用し、インフラ要件を明確化していきました。

新・旧システムの並行稼動でシステムの総合的な信憑性を確保

プロジェクトは2006年3月から、設計、開発・導入フェーズに着手。難航した既存データの移行作業にはデータ移行チーム体制を強化するなど、3社の主要メンバー全員が参加するミーティングを毎日開催しながら、チーム一丸となって1つひとつの課題を解決していきました。本稼働に向けた総合テストでは採用や異動、賃金改訂、賞与、年末調整といった年間業務スケジュールに沿ったシナリオを作成し、個々の機能を検証しながら品質向上を図りました。
2007年4月からは、JR東日本では初となる全社的な並行稼働に入り、新・旧システムの結果を比較しながら検証を実施しました。移行データの品質確認と基本機能の最終確認、全業務の機能確認と移行データの最終化、エンドユーザー参画による最終的な動作確認というステップで、システム全体の総合的な検証を進めていきました。これにより、システムの信頼性を確保できただけではなく、本稼働に向けてユーザーが習熟する効果も生まれ、新社員システムは当初のスケジュールどおり、2007年10月に本番稼働しました。

積極的な情報活用によって経営ビジョン実現を目指す

新社員システムの大きな特徴が、社員の能動的な情報活用の推進でした。代表的な例が一般の社員とマネージャーを対象とした、人事ポータルによるセルフサービス機能の提供でした。社員個人向けには申請を中心としたメニューを約200、マネージャーや事務担当者向けには管理のための情報提供・申請承認などのメニューを約300新設するなど、業務負荷の分散と利便性の向上を同時に実現しました。 また、業務担当者向けには、さまざまな一括登録機能や自動化機能を整備しました。たとえば SAP ERPの標準機能である給与遡及機能を賞与にも拡張し、社会保険料の還付追徴や賞与支払などの訂正届、月次タイミングでの労務費計上を含む遡及支払いの自動化を実現しました。
「現在では、自動化や一括登録といった新システムのメリットを実感しています」と語る下村氏。制度変更対応への柔軟性も、2008年4月の再雇用制度導入に伴い発生した開発・改修作業が従来より大幅に短縮できたことで、その効果が実証されています。今回当社が果たした役割について「約6万2,000人を対象にした大規模システムであり、JR東日本固有の要件もある中で、中立的な立場からの専門的アドバイスと、重要課題へのスピーディーな対応というコンサルタントのマネジメント力は、プロジェクト推進の原動力になりました」と五十嵐氏。さらに、五十嵐氏は「JR東日本から多くの専任メンバーが参画し、ユーザーとJEISおよびコンサルタントという全メンバーが一体となってプロジェクトを進めたことも成功につながりました」と語っています。
JR東日本では、2008年3月に発表した「グループ経営ビジョン2020」で、「人材の力を向上させる」ことを重要課題の1つに位置づけています。
「今後は経営ビジョンで打ち出した“7つのギアチェンジ”の取り組みの中で、人事制度や研修の戦略的見直し、情報の活用を進めていきます。つまり今回のプロジェクトは単なるシステムの刷新ではなく、会社として業務を革新していくための一元化された情報基盤を整備したことに大きな意義があります。安定稼働を実現したことで、我々はビジョン実現に向けたステップに踏み出すことができました」と語る深澤氏は、新社員システムが経営基盤として重要な役割を果たすことを強調しています。

※社名・役職などは掲載当時のものです。