PMIにおける実務の実態と成功要因――『2009年度M&A実態調査』より

安田昌彦 プライスウォーターハウスクーパース株式会社 M&A統合支援 パートナー

プライスウォーターハウスクーパースでは、2003年より隔年でM&A実態調査を実施し、わが国におけるM&A実務の実態の調査・研究を行っている。
本稿では、2009年度M&A実態調査から、PMI(Post Merger Integration)にかかる部分を紹介し、日本におけるM&A実務の現状と求められる姿について解説する。

安田昌彦
プライスウォーターハウスクーパース株式会社 M&A統合支援 パートナー

2009年度M&A実態調査について

2009年度M&A実態調査では、わが国の上場企業ならびに大手非上場約6,500社に対して調査票を送付し、結果として285通の有効回答を得た(有効回答率4.4%)。
本調査は、主要テーマとして国内市場ならびにグローバル市場における業界再編を取り上げるとともに、回答企業が経験した近年の主要M&A案件について、その実行プロセスにかかるさまざまな項目に関する現場の実態を対象としたものである。
全体の内容についてはダイジェスト版としての『M&A白書2010』※ ならびに詳細レポートである『2009年度M&A実態調査報告書』に譲ることとして、ここでは、その中からM&A後における経営統合(PMI:Post Merger Integration)に関連する事項を取り上げる。

M&Aの成功度合い

M&Aの成功・失敗に重大な影響を与えるのが、PMIの巧拙であるということは、すでに広く認知されていることであろう。そこで、M&Aの成功度合いに着目しながらPMIに対する取り組み方の差異を明らかにし、そこを起点として解説を加えたい。
図表1はM&Aの成功度合いについて尋ねた結果をまとめたものである。これを見ると、80点以上の成功度合いと判断している企業は100点とあわせて43%(これを以後「成功」)、60点から79点までは38%(以後「ある程度成功」)、59点以下は合計で19%(以後「失敗」)となっている。

図表1:M&Aの成功度(n=124)

この結果は、一般に3割から4割と言われているM&Aの成功率に比べて高いように思われるが、「成功」の定義が回答者によって異なることに留意されたい。この点数の基となる成功・失敗の判断基準を確認した結果では、売上高やIRR等社内で決めた定量指標を採用している企業は51%であり、残りの49%のケースでは「当初のM&Aの目的を実現した」等の定性的な面からの判断となっていた。
すなわち、この成功度合いは共通の定量的基準に基づくものではなく、各社の主観的な判断が入り込んだ結果と言える。そういう意味では、この数字はいわば「案件に対する満足度」に近い性格を持っていることに留意すべきであろう。
また、M&Aの形態を、合併等実際に組織の統合が必要なケースと、株式の取得等組織の統合を伴わないケースとに分けて、上記の成功度を見たのが図表2である。
面白いことに、PMIが複雑で難易度が高くなりやすい事業統合のケースの方が、全体として成功度が高くなっている。この理由については、本稿の最後に検討したい。

図表2:M&Aの成功度(組織再編の有無別)(n=124)

成功度合いとPMI関連手続き

それでは、PMIがどのように実施されたかについて、案件の成功度の違いとともに見ていこう。
PMIを効果的・効率的に実行していくには、「ポスト」だけに集中するのではなく、案件の早い段階からM&A成立後に目指すべき絵姿を描き、その実現に向けて何をしなければいけないかという視点から情報を収集・分析することが必要である。
すなわち、PMIはM&Aが成立した時点でスタートするのではなく、プレディールならびに案件実行時の時点ですでに戦略策定・事前準備という形で始まっているのである。そこで、まずはプレディールにおける作業のうち、PMIに関連のある項目から見てみよう。

[1]プレディールにおける比較

図表3はプレディールにおいて実施した手続きについて、案件の成功度別に実施率を比較したものである。これらの中で、「失敗」企業の実施率が「成功」および「ある程度成功」と比べて10ポイント以上低いのは、「企業文化や人的資源」「業務プロセス」「製品・生産状況」の3項目に対する調査であった。
さらに、これらの調査結果をどのように活用したかを見てみると、図表4に示すように「詳細調査にあたって留意すべき事項検討」と「ポストディールで予想される影響も考慮したディール実行までの戦略策定」において失敗企業の実施率が目立って低いことがわかる。
上記を勘案すると、早い段階からポストディールを見据えて、将来構想を描いたり、案件のポイントを見定めようとしたりする姿勢が十分でないと失敗につながる可能性が高くなると言える。

図表3:プレディールにおいて調査・検討した項目(n=125)

図表4:プレディールにおける調査結果の活用(n=123)

[2]ディール実行時における比較

ディール実行時には、ビジネス、財務・税務、法務等各種のデューデリジェンス、シナジー分析、価値評価、ストラクチャリング等さまざまな作業が一気に発生する。それら種々の手続きの実施状況を見ると、成功企業と失敗企業との間にPMIに関連して注目すべき顕著な違いは見られなかった(図表5)。
これは、何を実施したかということよりも、デューデリジェンスの過程でどのようなリスクが検出されたか、または交渉過程で将来のビジネスモデルに影響があるような条件がどのように付されたかということの方が、その後の対応にも影響を与えるし、PMIの難易度も大きく変わってくるということから来ているものと推察される。

図表5:ディール実行時において実施した手続き(n=122)

[3]ポストディールにおける比較

ポストディールにおいて実施した手続きについて、成功企業と失敗企業との間に10ポイント以上の差がある項目は「組織・人員の再配置」「人事制度の統一・変更」「情報システムの統廃合」「設備の合理化」であった(図表6)。
最初の3つの項目はいわば経営インフラの整備・統一であり、M&A後の早期のシナジー実現・企業価値の向上のために、最初に着手しなければならないはずの項目である。また、最後の項目は、業種によってはコスト削減が最も効きやすい項目だ。
早期に統合効果を実現するために、これらはM&A実施直後から対応していくことが求められる項目ばかりと言える。特に人事関連の項目は、統合過程において苦労したという指摘も多く、より重視しなければならない項目である。
このように考えると、これら4項目の差異がM&Aの成否に大きく関係していることは納得感がある。なぜなら、M&A後の経営インフラ統一が進まなければ、統合シナジー実現のための施策の実行にもスピード感が出にくいし、結果、統合効果が目に見える形で実現しにくくなるからである。

図表6:ポストディールにおいて実施した手続き(n=113)

統合委員会運営の重要性

これまで、成功度別に実施した手続きにどのような差異があるかを見てきたが、実施状況に顕著な差がない他の項目も含めて、これらをどれだけスムーズに、かつ、適切に実行できたかという作業品質の問題も無視すべきではない。そこで、作業品質を考察するにあたり、PMIにおける統合委員会の設置状況に着目して議論したい。
一般的に、統合委員会の主な役割として、以下のものが挙げられる。

  1. 統合プロジェクトの実行責任
  2. ステアリングコミッティ等、最終意思決定機関への諮問
  3. 統合プロジェクトにおける作業リストの作成と全体の進捗管理
  4. さまざまな課題に対する対応状況の管理
  5. 各分科会間の調整
  6. 社内外の関係者に対するコミュニケーション

すなわち、統合委員会とは、PMIを推進するためのエネーブラーとして、重要な役割を負う機関なのである。
図表7は統合委員会を設置したケースと設置しないケースの成功度を比較したものである。統合委員会を設置したケースでは、「成功」53%、「ある程度成功」41%、「失敗」6%となっているのに対し、設置しないケースではそれぞれ38%、37%、25%となっている。このことは、統合委員会を設置した方が、成功度合いが高まることを示していると言えよう。
紙面の都合上、詳細データの紹介は割愛するが、統合委員会を設置していなくても「成功」と判断されたケースの内訳を細かに見ると、自社に比べてかなり規模の小さい相手の吸収合併や株式取得の割合が高くなっている。
つまり、これらのケースは統合の難易度がそれほど高くなく、全体を管理する統合委員会を設置しなかったとしても個別の対応で統合を推進することが可能であったと考えられる。

図表7:M&Aの成功度(統合委員会の設置の有無)(n=113)

これに加えて、統合委員会そのものに対する満足度にも触れておこう。図表8は統合委員会が設置されたケースについて、統合委員会に対する満足度とM&Aの成功度の関係を示したものである。統合委員会に対して満足したと答えている割合は、「成功」のケースで53%、「ある程度成功」のケースで23%となっており、「失敗」のケースではゼロである。
逆に、総合委員会に対して満足していない割合は「失敗」のケースが最も大きい。これは、統合委員会に対する満足度が高いほど、すなわち統合委員会が適切に機能しているケースほど、案件の成功確率は高くなるということを示している。このことは、統合委員会の設置と適切な運営がM&Aの成功において重要であるということの証左と言えよう。

図表8:統合委員会の満足度とM&A成功度(n=32)

さらに、これをM&Aのストラクチャーとして組織の統合を伴うケース(合併等)と伴わないケース(子会社化等)とに分けて比較してみよう(図表9)。

図表9:M&Aの成功度(統合委員会の設置・組織統合の有無)(n=113)

組織の統合・非統合のいずれのケースにおいても統合委員会を設置した方が全体として成功度合いが高くなっている。
一方で、本稿の前半で触れた統合・非統合別の成功度合いを、統合委員会の設置・非設置の視点を加えて見てみると、統合委員会を設置するケースでは組織統合を伴う方が成功度が高くなっているのに対し、統合委員会を設置しないケースではその成功度にあまり大きな差があるとは言い難い結果となった。
その理由の1つとして考えられるのは、PMIの取り組み状況の違いである。すなわち、株式取得による子会社化のように組織の統合を伴わない場合には、案件成立後すぐにPMIを実施しなくても日常のオペレーションが回ってしまう。
そのため、ソフトランディングという名目の下、経営インフラの統合等が強力に推進されなかった可能性が高いのではないかと推察される。そして、そのことが結果として、組織の壁を越えた統合効果実現に対する障害の1つとなっている可能性が高いと思われる。

M&Aを成功に導くPMI

以上、M&A実態調査の結果より、PMIに関連する手続きの実施状況を見てきた。これまでの議論を総括すると、以下の3点がM&Aを成功に導くPMIのために重要なポイントである。

  1. プレディールの段階からPMIを見据えた検討を開始すること
  2. 人事関連・ガバナンス等経営インフラの統合を重視すること
  3. 統合委員会の設置等統合プロジェクトを強力に推進する仕掛けを適切に機能させること

2点目の経営インフラ統合についてわれわれの経験則で付け加えるならば、株式取得による子会社化のように、組織の統合を伴わないストラクチャーによるM&Aの場合でも、PMIの一環として経営インフラの統合は重要である。
特に、海外企業の株式の取得による子会社化では、現地に少数のマネジメントを送り込むことで本社としての対応が一段落してしまうケースがしばし見られるが、報告制度等の経営インフラ統一や戦略の共有等が買収後速やかに実施できなければ、コントロール不能な海外子会社が1社増えるというだけである。そうなると、M&Aによるシナジーの実現や企業価値の向上も期待薄となってしまう。
また3点目の統合プロジェクトについては、PMIプロジェクトは通常の社内プロジェクトに比べてプロジェクトマネジメントが複雑で難易度が高いということを付言したい。PMIプロジェクトでは、通常カバーすべき業務機能の範囲が広く、プロジェクト関係者が多いことや、価値観の異なるメンバーによる共同作業が求められるからである。
M&Aは経営戦略の1つの選択肢として一般的になってきたとはいえ、非定常的・非定型的な作業の連続となるため、その実行においてかなりの知力と体力を要する特殊なイベントである。そのイベントを成功に結び付けるには、PMIにおいても通常の社内プロジェクト以上のパワーと推進力が求められるのである。