企業価値を最大化する経営統合後のマネジメント ――統合の目的を明確にすることが基本

国内外で、規模の大小を問わずM&Aや経営統合が盛んに行われている。しかし、いざ統合はしてみたものの、その後のマネジメントをどうするべきか、悩んでいる企業も多いのではないだろうか。コニカミノルタグループは、株式交換によるコニカ株式会社とミノルタ株式会社の経営統合とそれに続く事業再編を、他に類を見ないスピードで実現して誕生した企業グループである。
当時のミノルタ株式会社側の代表取締役社長であり、統合持株会社コニカミノルタホールディングス株式会社の代表執行役社長を昨年まで務められた、同社取締役会議長の太田義勝氏に、経営統合後のマネジメントにおける留意点等をうかがった。

太田義勝 コニカミノルタホールディングス株式会社 取締役会議長

PROFILE
Yoshikatsu Ota
コニカミノルタホールディングス株式会社 取締役会議長

太田義勝氏
同志社大学卒業後、ミノルタカメラ(旧ミノルタ)株式会社に入社。カメラ営業担当としてドイツに駐在する。その後、欧州地域情報機器営業責任者、取締役複写機事業部長兼複写機営業部長等を経て、1999年に代表取締役社長に就任。コニカミノルタホールディングス株式会社誕生とともに同社代表執行役副社長に就任。同社代表執行役社長を経て、2009年4月より現職。

経営統合の基本は、「統合の目的を明らかにする」こと

そもそも何のために経営統合を行うのか──これを明らかにしておくことが重要です。そして、それを投資家や働いている人たち等、関係する人たちによく伝えることです。
単純ではありますが、これは経営統合とその後のマネジメントにおいて最も重要なことですし、基本となることだと思います。
コニカミノルタホールディングス株式会社は、2003年8月に、コニカ株式会社とミノルタ株式会社が株式交換による経営統合を行って、設立された会社です。
両社の経営統合においては、情報機器、光学機器等の事業分野ごとに同じものを一緒にして、それぞれを独立会社としました。そして、各社に共通する管理部門と、基礎研究については1つにまとめることとしました。こうした大きな事業再編を進める過程では、大幅な合理化も実施しました。
経営統合では、2つの会社を1つにするわけですから、そこには膨大な作業があり、非常に大勢の人が関係します。
会社が違うと、その制度も、状態も、給与体系も、何もかもが違います。たとえば、I Tの統一化1つとっても、そのベースとなっている仕事のやり方から違います。したがって、そこから変えていって、最終的なITの統一までもっていかなければなりません。これは、非常に時間がかかります。
当グループの場合も、ITはもとより、人事制度を始めとしたさまざまな点が大きく異なっていたので、それを1つにしていくためには膨大な作業を必要としました。

明確な目的があれば、「統合のための統合」にはならない

太田義勝 コニカミノルタホールディングス株式会社 取締役会議長

従業員の間には、「すでに手にしているものを事業再編や合理化の過程で失いたくない」と思う気持ちも、当然のことながらあります。
放っておくとせめぎあいや、大げさに言うと闘争のようなことが起こります。そして、やがては「統合さえすればいい」と、統合という形を作ること自体が目的のようになってしまう。
しかし、それではいけません。経営統合は、経営資源を有効活用するために実施するものです。そして、今よりももっと大きな将来を手に入れるために行うものだと思います。
大きな将来を手にするために大切なのが、「そもそも何のために経営統合を行うのか」を明らかにしておくことです。
そうすることで、問題が起きたり、混乱したりした場合に、誰もがいつでも原点に帰れるようになります。
この目標があるから、経営統合を進めているのだ──と確認できるので、統合のための統合にはならなくなるのです。
もっとも、混乱が起きないように、双方のトップ同士がよく話をして、問題になりそうなところは先手を打って処理していくということも、とても大切なことです。

経営統合のために最も重要な4つのポイント

太田義勝 コニカミノルタホールディングス株式会社 取締役会議長

この基本を踏まえた上で、経営統合やその後のプロセスを進める上で重要な点を挙げるとすると、次の4つが考えられると思います。

  1. スピード
  2. 選択と集中
  3. 「統合してよかった」と思える実感を早期に作ること
  4. 当事者意識をしっかりと持つこと

[1]スピード

まずスピードについてお話しましょう。
先にも申し上げましたように、経営統合には非常に膨大な作業が伴います。メディアでは、経営統合が「合理化の実現」や「シナジーの創出」等、美しい言葉で描かれることが多いのですが、実際には両社の違いを埋めていく、大変に手間と時間がかかるプロセスです。
しかも、経営統合を進めている間にも競争は続いていますし、お客様も待っていてはくれません。それに、時間がかかりすぎると、従業員の間にも動揺が広がります。したがって、可能な限り問題解決のスピードを速めて、さまざまなプロセスを迅速に進めることが重要なのです。
当グループでも、法的に定められた期間を遵守しながら、最短の期間で経営統合が実現できるよう努力しました。
スピードを実現するためには、関係する人に動いてもらう必要があります。
そのために経営統合の際には、冒頭の話とも関連しますが、従業員や投資家になるべく前向きな話、たとえば「経営統合を行うことで、企業がどのように発展するか」といったことを、繰り返し話しました。そうすると、「そうか、では汗を流そうか」と、みんな頑張ってくれるのです。
トップや指導的な立場にある人が外に出ていって話をして、人を動かしていくことが、スピード感の創出には大切なことだと思います。

[2]選択と集中

2番目は選択と集中です。
両社が持っている事業や組織をすべて抱え込むことはできません。小さくしてもっと効率のいいものにしていく。あるいは大きくして、将来に備える等を考えていかなければなりません。やがては衰退していくような事業を抱え込んでいても、その産業と一緒に衰退していくだけですから、そこは決断をする必要がある。
経営統合の中で選択と集中を行う場合、注意すべき点があります。それは、統合前に伝え聞いた話だけでは、実情はよくわからないということです。
会社が1つになった後、実際にいろいろなレベルの人と話をしてみて、ようやくどこに優れたところがあって、優れた人材がいるのかがわかってきます。そうしたプロセスを十分に経てから、決断を下すべきです。
特に、規模に差がある組織同士が統合する場合、とかく大きな組織の方に合わせて、そちらを基準にして選択と集中を行うことが多くなりがちです。
しかし、もともとの組織の大小は関係なく、いろいろな人の話を聞いた上で、より優れている方を見極めて判断することが大切です。

[3]統合の成果を感じられる実感を作る

さて、経営統合を進める上で重要だと考えている点の3つ目は、「統合してよかった」と思える実感を早期に作ることです。主に社内的な話になりますが、なるべく早く働いている人たちにそのような経験をしてもらうことが大切です。
当グループの情報機器の例でお話ししましょう。当時は、カラー複合機やカラープリントはまだ出始めの時期で、モノクロの製品の方が主流でした。カラープリント1枚当たりの単価も、機械の値段もまだ高かったのです。
それでも、カラーの方が当然ですが情報量は多いですから、これからはオフィスではカラーが主流になる──そう判断して、経営統合を機にカラーに全力を注ぐことにしました。全面戦争になる前にカラー事業に集中して取り組めば、相対的に優位に立てると考えたのです。
その結果、モノクロ中心の市場では二番手グループにいたコニカ株式会社とミノルタ株式会社が、カラー市場では先行し、トップグループのポジションを確保することができたのです。
この成功で、働いている人たちにも「経営統合してよかった」と感じてもらえ、納得してもらうことができました。
同時に不思議なことが起こりました。それまでは二番手的なものの見方しかできなかった人たちが、もっと強いポジションからの見方ができるようになったのです。
こうした経験をしてもらうためには、まずは各分野、各事業でクリアな目標を作り、それに向かって走ってもらうことです。あれこれ言わずに目標に向かって走っているうちに、互いのよい部分やよい人材等が見えてきて、生かすべき部分もわかってきます。それが経営統合後の成功につながっていくのです。

[4]当事者意識を持つこと

留意すべき点の4つ目は、当事者意識をしっかりと持つことです。
経営統合や企業買収・合併等では、専門知識や経験を持つコンサルタントに力をお借りすることも多いです。お手伝いしてもらうのはよいとしても、完全に頼り切るべきでないと思います。
自分の会社のことなのですから、経営幹部が自分自身の目で的確に状況を把握し、納得した上で、責任をもって判断することが大切です。

将来を見据え、客観的な意見も聞いて決断した創業事業の終了

当社の経営統合と事業再編に関連し、当グループで大きな出来事となったのは、両社の創業の事業でもあった、カメラ事業・フォト事業の終了でしょう。
同事業は、コニカ株式会社では130年、ミノルタ株式会社では80年の歴史があり、日本の写真産業の歴史そのものと言っても過言でないほど長い伝統を誇っていました。売上高でも、カメラとフォトを合わせて3,000億円近い規模でしたし、国内外にも多くの人員やお客様を抱えていました。
しかし、デジタル化やネットワーク化が進むカメラ・フォト事業に対しては、当グループの強みである光学技術やメカトロ技術だけでは、まだ不足する。カメラ・フォト事業をこの先も競争力のある事業にしていくためには、莫大な先行投資も必要となります。
カメラ・フォト事業にこのまま投資するよりも、これまでに両事業で培ったノウハウや技術を、他の製品や分野に生かすことを考えた方がいいのではないか──。このような議論をずいぶん重ねました。
さらに当社では、コーポレートガバナンスの形態として「委員会設置会社」を選択して、外部の客観的な意見を取り入れやすい体制を採っていますが、そうした外部からの意見も尊重しました。そして2006年1月に、カメラ・フォト事業を終了すると発表したのです。
あれも大事、これも大事と言っていてはキリがありません。会社としての目標を定めて、そこに一丸となって向かっていくことが重要なのだと思います。

グローバルな経営統合でも大切なのは「人」

近年では、グローバルな経営統合や企業買収も多数あります。当グループも、これまでに海外の販売会社等を多数買収してきました。2008年にはアメリカのダンカオフィスイメージング社という、売上高4億5,000万ドルほどの大手の情報機器販売会社を買収しました。
こうしたグローバルな経営統合や企業買収においても、やはり最終的に大切なのは「人」だと思います。
先にも申し上げましたように、企業同士が一緒になるのは、経営資源を有効に活用するため、そしてもっと大きな将来に向かうためです。そこで働いている人が本気になって仕事をしてくれないと、それは実現できません。
たとえば買収交渉がうまくいって、相手の企業を安く買えたとしても、それで相手がやる気を失ったら元も子もない。活用できる資源も活用できなくなってしまいます。
当グループは、海外の代理店を買収した際に、それまでの社長をそのまま据え置く場合が多いです。日本から人を送り込むポジションは、二番手の経理・財務担当が最も多いと思います。直接買収に関わった人であれば、その人をトップにするケースも稀にありますが、それまでまったく関係していなかった人をトップに送り込むようなことはまずやりません。
もちろん、企業理念やコーポレートガバナンス、環境への考え方に関しては、グループ企業としての統一感は持たせます。ですが、日本からすべてをコントロールしようとは思いません。

経営統合後の現場経験こそが、変化に適応した経営につながる

日本人を海外の二番手のポジションに送り込むことは、その人の育成にもなります。
たとえば、本社で経理の専任だった人でも、小さな海外の事業所に行ったら何でもこなさなければならない。いやおうなしに走り回って汗をかくことで、力が身について、状況が測定できるようになります。本人は気づかないかもしれませんが、外から見て「あいつは力がついたな」と感じられるのです。
優秀で頼りになる人は、ついつい社内に留めておきがちになります。リーダーも、優秀な部下は手元に置いておきたいと考える。ですが、そういう人こそ早く現場に出して、現場の痛さや熱さを経験して力をつけさせた方がいい。教室でケーススタディを学ぶのもいいですが、ケーススタディは痛くも熱くもなく、実感として身にしみません。
経営統合後の現場での経験を積んだ人が増えると、社内においても経営統合後のマネジメントに関するノウハウがたまっていく。それが海外であったなら、海外での経営についてのノウハウも蓄積される。
トップが自分の考えや成功体験を押し付けるのではなく、新しく重ねられた経験を生かしていく──。そうすることで、時代や環境の変化に適応した経営が可能となるし、M&Aや経営統合も成功裏に進められるのだと思います。