IFRS導入上の課題と対応スケジュール

山本浩二 プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント パートナー

IFRSの適用は、海外を含むグループ企業を共通の会計尺度で評価できるなど、経営管理のあり方を大きく変える。その一方で、IFRSに対応するための業務とシステムにかかる企業の負担も少なくない。多くの企業では、IFRSの強制適用に備えてIFRS対応室などを設置し、IFRS導入の検討をすでに開始している。しかし、IFRSの強制適用が決まっていないこと、IFRS自体がまだ米国基準とコンバージェンスを続けていることから、具体的に何を検討してよいのかわからないケースも多いようだ。

山本浩二 プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント パートナー

本稿では、1. IFRSの導入で企業が検討すべき課題、2. IFRSを企業に導入するためのアプローチ、3. IFRSの強制適用に向けた企業の対応スケジュールを解説する。

IFRSの導入で企業が検討すべき6つの課題

日本におけるIFRS適用(アドプション)の影響の大きさは、今後のコンバージェンスの進展、会社法や税法等の制度改正、監査法人のファームポリシー、企業が定める対応方針によって変わる。しかしIFRSを適用すれば、企業の適正な財務諸表の作成と経営管理のあり方に影響を及ぼす。
このとき、企業が検討すべき課題は、(1)業務プロセス対応、(2)システム対応、(3)組織対応、(4)内部統制対応、(5)教育制度対応、(6)経営管理対応の6つである。

(1)業務プロセス対応

IFRS導入後も適正な財務諸表を継続的して作成していくには、IFRSベースでグループ統一の会計基準を設定し、関連する解釈指針やガイドライン等の作成、業務プロセスとシステムの構築を行う必要がある。企業は引き続き、決算早期化を求められる。業務プロセスとシステムの見直しにあたっては、業務の効率化の視点も重要である。

(2)システム対応

IFRS導入後、企業は、日本基準に基づく単体財務諸表に加えて、新たにIFRSに基づく連結財務諸表を作成する。この対応には2つの方法がある。1つは二重帳簿(2つの総勘定元帳)の仕組みによる方法、もう1つは従来通り日本基準で総勘定元帳を作成し、IFRSに修正するために必要な処理はExcel等表計算ソフトで行うという方法だ。
表計算ソフトを使った場合、システム対応上のコストは安いが、期首剰余金の繰り越し処理や遡及適用等で業務上の負荷がかかる。どちらの方法を採用すべきかは、これら業務上の負荷やコストに加えて、グループ各社の重要性も勘案した方がいいだろう。

(3)組織対応

IFRSをグループ全体の取り組みとして進めるために、IFRSの考え方やルールを検討し、グループ全体に発信していく部署としてIFRS推進室を設置する。また、IFRSに精通した経理スタッフの不足を補い、経理業務の効率化を目指してシェアードサービスセンターの導入要否を検討する。IFRSに基づく連結財務諸表と日本基準で作成した単体財務諸表の財務分析を行い、適切なディスクロージャーをIR部署と連携して実施することも必要である。

(4)内部統制対応

内部統制の有効性の評価は連結ベースで行われるため、IFRSに基づく連結財務諸表を作成すれば、評価対象となる重要な事業拠点が変わる可能性がある。また、連結財務諸表の作成にかかる決算財務報告プロセスと、グループ各社が連結財務諸表の基礎情報を作成するプロセスが新たに評価対象に加わるため、当該プロセスの内部統制の整備と文書化も必要となる。これらに対応するために、既存システムの改修や新システムを導入した場合には、システムに合わせたIT統制の評価が課題となる。

(5)教育制度対応

IFRSは原則主義の会計基準であるため、企業はIFRSの概念フレームワークと各基準書を理解したうえで、個々の取引ごとに自社に適したルールを設定する。
「自社に適した会計処理とは何か」を自ら考えられる経理スタッフを育成するために、グループ企業の経理スタッフの教育体制を整備する。また、IFRSの適用(アドプション)後も日本基準は残り、国際的な会計基準と整合するようにコンバージェンスは続く。今後、経理担当者は、日本基準とIFRSのそれぞれの改正にキャッチアップしていくことが求められる。これらの情報をタイムリーにグループ企業の担当者に対して伝達し、行動させる仕組みも必要である。

(6)経営管理対応

IFRS導入で、損益計算書中心の財務諸表から、資産・負債の評価が中心となる財務諸表に変わる。従来、日本で主要な財務諸表数値とされていた当期純利益の他に、欧州で注目度が高い包括利益も加わるため、新たな経営指標が必要になる。また、IFRSと日本基準の会計処理の違いから経営数値が変わる可能性もある。グループ各社から収集する財務数値はIFRSベースとなるため、予算管理や業績評価の基礎となる会計基準を整理する必要が生じる。

図表1:IFRS導入における6つの課題
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IFRSを企業に導入するためのアプローチ

グループ統一会計基準の整備

現行の日本基準でも、連結財務諸表の作成にあたっては、グループで統一した会計基準で行うことが求められている。しかし企業によっては、最近のコンバージェンスに合わせてグループ統一会計基準を見直す必要があるかもしれない。また、必要な文書化を行っておらず、グループ各社にグループ統一会計基準が浸透していないケースもあるだろう。

どの会計基準から検討すべきか

IFRSと日本基準の会計基準の違いは、企業に2つのインパクトをもたらす。
1つ目は「財務諸表に与えるインパクト」。これは会計基準の違いが財務数値に影響し、経営上の判断に与えるインパクトである。たとえば、商社では、業界慣行として、契約上、代理人として行われる取引も収益を総額で表示することがある。しかしIFRSでは、実質的に代理人として行われる取引は、総額ではなく、手数料のみを収益として表示することが求められる。これは、企業の売上総額の減少を通じて経営上の判断に影響する。
2つ目のインパクトは「業務とシステムに与えるインパクト」である。売り手が、物品を継続的に出荷する取引では、簡便的に出荷日をもって収益を認識することがある。しかしIFRSでは、売り手が物品の所有に伴う重要なリスクおよび経済価値を買い手に移転した時点、すなわち買い手による物品の検査が終了した時点で収益の認識が求められる可能性がある。
実際は、収益の認識のタイミングの判断は個々の取引ごとに実施する。しかし、取引に関わる基本契約書がない、あるいは所有権やリスクの移転時点が不明確な場合は、重要なリスクおよび経済価値の移転のタイミングの判定が困難となる。
また、買い手の検収時点を適時に把握できる場合でも、収益の認識を出荷日から検収日に変更するために、大幅なシステムの改修を必要とする場合がある。システムの改修規模は、その対象範囲によっても異なるが、2年から3年は要するだろう。もし、これらの改修がIFRSの強制適用までに完了しなければ、IFRSベースの財務諸表を作成できず、コンプライアンス上の問題となる。

会計基準の違いによるインパクト分析

財務数値に与えるインパクトを縦軸に、業務とシステムに与えるインパクトを横軸に置いて、グループ企業ごとにIFRSのインパクトを分析する。
会計基準の違いによって、たとえば販売システム、固定資産システム等業務系システムの改修を必要とする場合、業務とシステムに与えるインパクトが大きくなり、対応には多くの時間を要する。これらのインパクトは、グループ企業が属するセグメントや業種・業態によって異なるため、当該分析はグループ企業ごとに実施する。

初度適用に注意

初めてIFRSを適用して財務諸表を作成するときは、IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」への対応が必要となる。この基準によれば、IFRS移行日(2015年3月期に強制適用であれば、2013年4月1日)の資産と負債を、過去に遡ってIFRSを適用して算定し、同日現在の貸借対照表(以下「開始貸借対照表」と言う)を作成しなければならない。開始貸借対照表の作成ステップは以下の通り。

ステップ 1
開始貸借対照表の作成ルールを定め、2013年4月1日以前の日本基準の財務諸表のデータを基に、必要な修正を加えて、IFRSに基づく開始貸借対照表を仮作成する。また、開始貸借対照表の作成に伴う修正項目について証憑を整理し、監査が実施可能な状態にする。
ステップ 2
IFRS移行日からシステムを並行稼動させ、最初のIFRS開示対象期間(2014年度と2015年度)に業務およびシステム上の課題を解決する。システムの並行稼動によって把握した追加的な課題を検討し、監査人とのコミュニケーションを図る。
ステップ 3
2015年3月31日現在で有効なIFRSに基づいて、必要があれば遡及適用を行い、開始貸借対照表を作成する。

アドプション対応の前に、コンバージェンス対応

日本基準を国際的な会計基準に近づけるため、現在、急ピッチでコンバージェンスが進められている。7月には、企業結合の見直しと財務諸表の表示に関する論点整理が公表された。今後、収益認識、引当金、非継続事業等の会計基準も検討されており、日本基準は大きく変わるだろう。日本がIFRSを強制適用するか否かを判断する2012年頃までに、重要なコンバージェンスはほぼ完了する。
コンバージェンス対応は企業にとって大きな負担となるが、これらの対応を通じて日本基準を国際的な会計基準に変えていけば、将来のアドプションにかかる負担はかなり軽減されるはずである。IFRSが強制適用となった際に、アドプション対応として企業に追加的に求められることは、IFRSベースのグループ統一会計基準に基づく企業の会計基準やガイドラインの文書化、コンバージェンス後もなお残る会計基準の違いについての業務・システム対応である。
なお、IFRSが強制適用されても、単体財務諸表は日本基準を使用して作成するため、日本基準がなくなることはない。アドプション後も、日本基準は国際的な会計基準と整合するように改正されることから企業のコンバージェンス対応は、IFRS導入後も続くことになる。

図表2:会計基準の違いによるインパクト

IFRSの強制適用に向けた企業の対応スケジュール

日本におけるIFRSの強制適用の判断は、2012年前後に行われる。もし強制適用すると判断された場合、問題となるのは強制適用の時期である。日本版ロードマップには「2012年に強制適用を判断する場合には、2015年または2016年に適用開始」とあり、IFRSの適用が2014年度(2015年3月期)と2015年度(2016年3月期)のいずれの時期から開始されるのかは明示されていない。
IFRS財務諸表の開示は、比較年度(2014年3月期)の財務諸表とその開始貸借対照表(2013年4月1日)を合わせて行われる。IFRSの強制適用の開始時期を2015年3月期と仮定すれば、IFRSの強制適用に向けた対応スケジュールは、図表3のようになる。
IFRSの対応スケジュールは、<1>会計基準関係の検討チーム、<2>運用上の課題の検討チーム、<3>初度適用の課題の検討チーム、<4>これらのチームを統括するPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)に分けて策定する。
会計基準関係の検討チーム(<1>)は、2012年頃までのコンバージェンス対応を通じてIFRSとの違いをできる限り縮小する。また、IFRSベースのグループ統一会計基準を設定し、日本基準とのギャップを把握する。
運用上の課題の検討チーム(<2>)は、IFRSと日本基準との違いに対応するための業務プロセスとシステム上の課題を整理する。
初度適用の課題の検討チーム(<3>)は、IFRS移行日までにIFRSの遡及適用を含む基本的な準備を終え、開始貸借対照表を仮作成する。
PMO(<4>)は、<1>から<3>のチームが連携をとり、監査人と適切なコミュニケーションを行えるようにプロジェクトを運営する。
IFRSの対応スケジュールは、対象となるシステムの範囲やグループの状況によって変わる。しかし、IFRSへの対応準備は、2012年の強制適用の判断を待っていては間に合わない可能性がある。早い段階で、IFRSが強制適用された場合のグループ全体のインパクトを把握し、IFRSの対応スケジュールを策定しておくことが求められる。

図表3:IFRSの初度適用と強制適用に向けた対応スケジュール
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