プライスウォーターハウスクーパースHRS 組織・人材マネジメント コラム

連載 「戦略人材マネジメント基礎講座」
第1回 環境と共に変化する人事・人材マネジメント

'04.09.01

プライスウォーターハウスクーパースHRS株式会社
マネージング ディレクター
山本 紳也


企業を取り巻く環境は急速な変化を遂げ、人事・人材マネジメントをめぐる課題も多様化してきている。従来の考え方、システムがもはや立ち行かなくなった今、戦略としての人事機能、人事部のあり方を今一度考えていきます。

- 働く目的が一致していた時代

戦後から高度成長期、働く目的は「今日より明日、明日より明後日の、生活をより豊かにすること」でした。皆で一所懸命働くことにより会社は成長する。会社が成長すれば国も成長する。結果、給与所得は増え、税金により国のインフラも整い、生活が豊かになる。1970年代までは、この高度成長サイクルが、社会を支え成長させるシステムとしてうまく機能していました。また、少品種大量生産の時代、より品質の高い商品を生産性高く大量に生産するというモデルは、日本人が得意とした正確性や真面目さ、統一的な働き方、等々とうまく合致し、高度成長につながったともいえます。

この少品種大量生産時代にあったシステムでは、経験や熟練度が生産性に結びつくこともひとつの特徴でした。人は一所懸命働くと能力が上がるものです(もちろん個人差がありますが)。そして企業が成長しているわけですから、能力が上がると、より難易度や責任の高い仕事ポジションを与えられました。そこでさらに人は能力を伸ばし成長しました。これが高度成長期を支えるひとつのモデルとして確立されていたのです。結果、人事運用がある程度年功的になっても、年功=「経験豊富で(この時代に求められた)能力が高い」わけですから、何ら問題が無いどころか、組織と個人の両方の成長にとって有効なシステムだったのです。

- 価値観が多様化し、働く目的を見失い始めた

しかし、バブル崩壊後の1990年以降、経済の低成長化に加え、多新種少量生産時代到来、IT・インターネット化による情報化とスピード化、市場のグローバル化・ボーダレス化、等々の急激な環境の変化の中で、組織と個人の関係の見直しが迫られています。バブル経済で3倍に高騰した株価は20年前の水準に戻り、個人所得も大きな伸びは期待できず、報酬は毎年上がるという常識が崩れています。しかし、実はインフレもマイナス或いは低水準を保っており、必ずしも生活水準はさがっているわけではありません。このような背景下で、世代や個人による価値観の違いが表層化してきています。
いつの時代もある程度の個人の価値観の違いや世代のギャップは存在しましたし、「最近の若い者は…」という言葉はいつの時代にも存在しました。しかし、「何のために働くか」という問いに対する答えが非常に多岐である、或いは答えを持たない時代は、初めてなのではないでしょうか。働く目的の異なる人たちが集う組織で、向かう方向性を統一し、それぞれが「やる気」や「やりがい」を持てる組織にする、組織人事部門には、今、この難題が突きつけられています。


- 働きたくなる「場の提供」が組織のこれからの課題

今後は、働く目的を組織として提供することが求められるのかもしれません。働く目的を組織で与えるというと、違和感を持つ方も多いかもしれませんが、決して「これが、あなたの働く目的です」と提示して誘導するという意味ではありません。キャリアは自分で築くものという考えを否定するのでなく、その手助けを組織がしてあげるのです。働く目的を自分で見つけられるようになるまで、何のために働くのだろうと考えるきっかけを提供する、或いは働き方の選択肢を提供することが組織の役割として考えるのです。マズローの「五段階欲求説」でいう「自己実現の欲求」の対象がお金という人は、お金という明確な働く目的を持てますが、それ以外の大多数の人は明確な働く目的を持てずになんとなくお金に頼っているのが現状でしょう。しかし、お金で真に欲求を満たされることはなく、これが現在の人材マネジメント上の大きな課題となっています。

個人が「働く目的」を模索する中、企業組織がその「働く目的」や「やりがい」を提供できずにいるという見方もできます。その結果、大学卒業後定職にはつかずフリーターで生活する人、一度は企業に就職したものの退職してフリーターになる人が増えています。日本の失業率はここ数年5%程度の高水準となっていますが、24歳以下の失業率は10%程度で、20代の非フルタイム就業率は20%程度と言われています。これは先進国では異常に高い数字です。企業は、新しい価値観を持ち始めている20代に働きたいと思う場を与えられていないことを真摯に受け止めるべきでしょう。また、これは、働きたいと思う場を与えることができる企業が、人を引き付けられるとも考えられます。非常にわかりやすいのが、ノーベル賞を受賞された田中さんではないでしょうか。お金や地位より「やりたい仕事をできる場」を求められました。これが本来の姿ではないでしょうか。


- 各企業の取り組み

マクドナルドやギャップでは、アルバイトから本人の希望と能力に応じて正社員を登用し、また、本人の意思と能力で店長が登用されます。労働を強要するのでなく、本人の希望する働き方など意思を尊重した方が生産性も高くなります。あるレストランチェーンでも時給アルバイトから始めて正社員になり、店長、そして年収1000万円を超えるスーパー店長というキャリアパスが用意されています。しかし、これも本人次第で、皆がスーパー店長を目指す必要はないのです。また、ある企業では、入社数年目で、6ヶ月から8ヶ月単位で希望職場を異動し、2年間で3~4回の異動を経験、その結果としてその後のキャリアを考える制度を導入しています。


- 「場の提供」という発想からの人材ポートフォリオを考える

時給アルバイト・パート、限定条件(仕事内容、時間、日数、他)付契約社員、経験重視型正社員、成果主義型正社員、フレックス制、裁量労働制、SOHO、等々、これらを制度として扱うのではなく、価値観の違いという認識から取り組むことが企業に迫られています。制度で縛る或いは管理するという発想ではなく、色々な価値観の人たちにどう「やりがい」を持って働いてもらうかという「場の提供」の発想からの人材ポートフォリオ戦略が求められています。

価値観の多様化、労働市場の形成など、環境の変化が言われて久しい組織人材マネジメントの世界における課題と解決策を、次回以降解説していきます。


(TPIS 2004年1月号掲載)


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